「艦長!!」 「ど……お、ひはの…?ユリコさん」
艦橋(ブリッジ)を切り裂く甲高い怒号に、駆逐艦「そよかぜ」の艦長ジャスティ・ウエキ・タイラーは欠伸交じりで答えた。もともと眠そうな垂れ気味の目元には、涙すら滲んでいる。 「どうしたの、じゃありません!何なんですかこの散らかり様は!?どうして艦橋にワインのボトルが散乱してるんです!」 「ああ、それ?昨日軍医とハルミさんと3人でパーティしたんだ。だから今日は朝から眠くって」 「ぱっ…パーティですって!?」 「えー、ずるうい!アタシも参加したかったのにい」 ユリコの叫びに被さるようにして、通信席からキム中尉の不満げな声が上がった。不遜な通信士に向かってカエルを睨み付ける蛇のごとく強烈なユリコの視線が飛んだが、当の本人はぺろりと舌を出して全く意に介さない。介したのはむしろ、蛇の後ろにそびえ立つ長身のヤマモトだ。 「ま、まあまあスター少佐…」 「大尉は黙っていて下さい!」 いつの間にか艦長と少佐の間に入って何とか事を丸く収めようとするのが日課となってしまった副艦長を、ユリコは容赦なく一蹴した。はあ…、とそこですごすごと引っ込んでしまうのが、ヤマモトのヤマモトたる所以である。 「艦長、私が常日頃思って…いえ、口が酸っぱくなるほど申し上げているはずですが、」 両膝を抱え、艦長席にすっぽりと収まってふんふんと耳を傾ける艦の最高責任者を見下ろしながら、ホント緊迫感のない顔だわ、とユリコは心中溜息を吐いた。艦長としての自覚があるならそれを体現してほしいというのが着任以来の彼女(とヤマモト)の切実な願いなのだが、得てしてその期待は裏切られることの方が多かった。 「いいですか、この船はそもそも規律が乱れすぎです!艦長ともあろう人間が、諌めるどころか自ら率先して艦橋でパーティなんて…!大体―」 「あーっ」 突如タイラーの大声がユリコの口上を遮った。膝を折ったまま前傾してくるタイラーに、ユリコの上半身が反射的に後退する。いつになく鋭い眼差しでユリコを見つめていた彼が、やがておもむろに口を開いた。
「やっぱり。ユリコさん寝不足なんじゃない?肌荒れてるよ?」 「……!!!」
顔を引き攣らせるヤマモトの前で乾いた音が高らかに響き、一瞬のちタイラーの身体が真横に飛んで、落ちた。 「あ、あたた…」 「…話にならないわ!!」 地面に尻餅をついた上官を一睨みすると、ユリコは割れんばかりのヒール音を立てて艦橋を出て行った。
怒りのオーラが充満したの背中がドアの向こうに消えたのを見届けて、キムは隣の操舵席の方に身体を傾ける。 「ねーえ、どうしてタイラーはわざわざここでパーティしたんだと思う?どうせいつも医務室で飲んでるわよねえ」 キムを一瞥したカトリが首を横に振った。上品にセットされた金髪が微かに揺れる。 「さあ…僕には艦長の考えが読めたことないからな」 「あら、よかったんじゃない?タイラーの考えが読めるヤツなんて、相当な変人かダメ人間よー、きっと」 「……それは同感」 ユリコの去っていったドアと頬を摩るタイラーとを交互に見ておろおろするヤマモトを尻目に、キムとカトリは肩を竦めあい、何事もなかったかのようにそれぞれの通常業務に戻っていった。根っからマイペースな二人は、戦時下とは思えないこの手の遣り取りをいちいちフォローしていたらキリがないということは、早々に悟っていたのである。
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や…やっちまいました…。 年1回の頻度で急に日記にテキストなど上げる病…。この前あまりに暇だったから会社でこっそり自家発電です。タイラーのテキスト無さすぎ!だ…誰か…ギブミータイラーテキスト…。
しかもこれ、続くんです。アップできるかは…うーん…。(おいおい)
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