米国発 金融危機関連情報

2009年04月01日(水) 米国経営者の狂った思考

報 道
1、GM、労組に強硬姿勢も ワゴナー氏に高額退職手当
                   2009年3月31日 日経
2、GM前会長、年金20億円 支給は社内で検討中
                 2009年3月31日11時3分 朝日新聞
3、第11回「経営者はそれでも強欲か」
       2009年3月27日  MIDCグループ代表  酒井雷太氏

GM、ワゴナー氏に20億円の高額退職手当(年金)の支給が検討されているという。米国の狂った経営者の実態をMIDCグループ代表酒井雷太氏のリポートの一部を引用して参考としたい。個人の利益を優先するような米国経営者の思考が現在の破局的な危機を生み出したと思う。

1、オバマ(Barack Hussein Obama)新大統領の就任演説と、この数カ月間に世界で起きた出来事はグローバル時代における企業、社会、国家、さらにその基礎である個人、生活、倫理などのテーマについて素直に考え直す機会を与えてくれた。

2、新大統領は自らの信念を世界に問いかける就任演説で、米国民の一部を「greed and irresponsibility」と表現するほど、米国民が持つ“お金を稼ぐことは良いことだ”への妄信が、資本市場を制御できないまでに膨張し、その結果、世界を巻き込むこの惨状を生み出したのだと結論付けたように思う。

3、米国を詐欺まがいの金融商品サブプライム・ローン(Subprime loan)を、銀行や証券、格付け会社が一体となって仕立て上げた上に、自国はもとより世界中の代理店に高額手数料を通じて売りまくり、今の不況の最大原因を作りだしたと考えている。乱暴な言い方だが、世界経済を動かす米国金融界の最高経営責任者たちが、法律に直接触れなければどのようなビジネスで利益を得ても何らの問題もなく、長期よりも短期に利益を上げ、高額報酬を得ることは良いことだと考えてきたビジネス哲学に、いまさらながら世界の人々は驚きを禁じえない。

4、個人の才能を自由に開花させることを国家の成長の原動力としてきた企業国家米国は、経済の要である金融界のみならず広範囲の産業界においても結果的には個人の利益を優先し、それを正当化する風潮に深く汚染された人々によって牛耳られ、社会人、経営者としての規律と責任を無視してきたことを我々は知った。問題はこの「強欲で無責任な経営者」を生み出さない教育・管理システム、あるいは「謙虚で責任ある経営者」を育てるシステムを我々が作り出せるか否かにかかっている。本当にチェンジが必要な時を迎えている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1、GM、労組に強硬姿勢も ワゴナー氏に高額退職手当
                     2009年3月31日   日経

 【デトロイト=小高航】米政府から再建計画の見直しを求められた自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーは30日、経営再建へ向けた動きを本格化した。GMはヘンダーソン新最高経営責任者(CEO)体制が始動、「破産」の可能性もちらつかせながら労働組合や債権者との交渉を急ぐ構え。クライスラーは伊フィアットとの提携計画を修正し、フィアットの出資比率引き下げに合意したと報じられた。政府から与えられた猶予時間は少なく、両社の経営改革は期限までの秒読みが始まった。
 GMでは30日、政府により事実上更迭されたワゴナー氏の後任としてヘンダーソン氏がCEOに正式に就任した。ヘンダーソン氏は同日発表した声明で「政府の厳しい要求を満たすため全力を尽くし、GM再生に必要な本質的な改革をなし遂げる」と強調した。
 AP通信はワゴナー氏が受け取る年金など退職関連手当が2300万ドルに上ると伝えた。GMが公的資金による支援を受けているため高級幹部向けの退職慰労金は受け取らないが、年金には影響はないという。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2、GM前会長、年金20億円 支給は社内で検討中
2009年3月31日11時3分 朝日新聞
 【ニューヨーク=丸石伸一】30日付で会長兼最高経営責任者(CEO)を辞任した米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)のリチャード・ワゴナー氏が、退職後に支給される年金が08年末時点で計約2020万ドル(約20億円)にのぼることが同日までに分かった。
 GMの広報担当者によると、「辞任した直後のため、現時点では支払われるかどうか分からない」という。ワゴナー氏は米政府に資金支援を要請する際、年俸を1ドルまで減額していた。一部の米メディアによると、GM内で支給すべきかどうか検討中という。年金の情報はGMが米証券取引委員会(SEC)に提出した資料で明らかにした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3、第11回「経営者はそれでも強欲か」
2009年3月27日  MIDCグループ代表  酒井雷太氏
米国時間2009年1月20日に行われたバラク・フセイン・オバマ(Barack Hussein Obama)新大統領の就任演説と、この数カ月間に世界で起きた出来事はグローバル時代における企業、社会、国家、さらにその基礎である個人、生活、倫理などのテーマについて素直に考え直す機会を与えてくれた。
「富める者だけを優遇する国は長く繁栄できない」
 今回のオバマ大統領の演説は、我々日本人に対し、翻訳だけではなく英語でも内容を確認したいと思わせた。事実、オバマ大統領演説を録音したDVDと対訳が大変売れていると聞く。これは演説が短く、使われている英語も平易であることから、米国内の少数民族にも耳を傾けさせ、多くの日本人には米国の若き最高権力者は、現下の危機的経済環境に対し、何を世界へのメッセージとして伝えたいのか、直接確認したかったからだと思う。 オバマ大統領は“米国は危機のさなかにいる”(That we are in the midst of crisis is now well understood)と語った。“米国経済はひどく弱体化している。これは一部の人々の強欲と無責任さの結果だが、私たち国民全体も難しい選択を行って、新たな時代に備えることができなかったことも一因です”(Our economy is badly weakened, a consequence of greed and irresponsibility on the part of some, but also our collective failure to make hard choices and prepare the nation for a new age.)と指摘している。
さらに“今回の危機で、監視の目がなければ市場は制御不能になりうること、そして富める者だけを優遇する国家は長く繁栄することができないことを再認識しました”(But this crisis has reminded us that without a watchful eye, the market can spin out of control. The nation cannot prosper long when it favors only the prosperous)と続ける。
 新大統領は自らの信念を世界に問いかける就任演説で、米国民の一部を「greed and irresponsibility」と表現するほど、米国民が持つ“お金を稼ぐことは良いことだ”への妄信が、資本市場を制御できないまでに膨張し、その結果、世界を巻き込むこの惨状を生み出したのだと結論付けたように思う。

とにかく利益上げるビジネス哲学
 “一部米国人”と表現しているが、それは誰でもウォール街に本社を構える金融関係会社の経営者、従業員であることは容易に分かる。彼らの強欲と無責任の象徴として、業績不振でバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)に吸収合併される大手証券会社のメリルリンチ(Merrill Lynch)の経営者が、自社の業績不振を知りながら、合併されることを前提にして、幹部700人に一人当たり約100万ドル(1ドル約100円換算で1億円)、最高幹部4人には合計1億2100万ドル(121億円)のボーナスを合併される前に早期に支払ったと報道された(朝日新聞2009年2月13日)。破綻した大手証券会社リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)前CEO、リチャード・ファルド氏(Richard Severin Fuld Jr)はCEO在任中の14年間に約510億円の報酬を受け取ったとされている。ただし、本人の弁ではほとんどが自社株で、現金は6000万ドル(約60億円)しか受け取っていないと言っており、リーマン倒産の最大の被害者は私自身だとさえ訴えている。さらには税金が投入されている破綻企業、アメリカン・インターナショナル・グループ(American International Group:AIG)が支払った幹部への200億円を超す巨額ボーナスなど、金額の多寡も問題だが、損失を出してもなおボーナスが支給される契約にも驚く。
 これら企業の取締役は近いうちに株主あるいは社員から訴えられ、取締役会の意思決定過程、特にビジネス・ジャッジメント・ルールにおける各取締役の責任とその運営の全貌が開示される日が来るだろう。
 今、世界の人々は、最強国家の米国を詐欺まがいの金融商品サブプライム・ローン(Subprime loan)を、銀行や証券、格付け会社が一体となって仕立て上げた上に、自国はもとより世界中の代理店に高額手数料を通じて売りまくり、今の不況の最大原因を作りだしたと考えている。乱暴な言い方だが、世界経済を動かす米国金融界の最高経営責任者たちが、法律に直接触れなければどのようなビジネスで利益を得ても何らの問題もなく、長期よりも短期に利益を上げ、高額報酬を得ることは良いことだと考えてきたビジネス哲学に、いまさらながら世界の人々は驚きを禁じえない。
 前回ご紹介したネスレ(Nestle S.A.)社CEOのピーター・ブラベック・レッツマット氏(Mr.Peter Brabeck-Letmathe)は、01年に表面化したエンロン事件やその後のワールド・コム事件などに共通する問題として、業績の四半期開示と株価連動型報酬システムが過度にCEOへの業績達成圧力を高め、結果的に犯罪への道を取らせる環境を米国の制度は作っているのではないかと批判している。
 さらにレッツマット氏の個人的な経験として語るのには、ネスレには年に数度、投資銀行の人間が訪ね、現取締役がネスレをマネージメント・バイ・アウト(MBO=経営陣が参加する買収)すると、うるさい株主から自由になり、個人的にも莫大な利益を手中にすることができると提案するそうだ。100年以上も続く企業の現役経営者に対し、個人的に儲かるから自社を売却しろと提案する投資銀行の行為に同氏は怒りと同時に呆れていたことを覚えている。
規律と責任生むシステムにチェンジ
 大きなお世話だろうが、年収50億、80億円のお金を一体どのように使うのか想像できないが、一ケタ違う報酬を得ている人々も実在する。
 米国ボストン市に本拠を置くNPO団体である「United for a Fair Economy」が発表した「米国における労働者の報酬と執行取締役の報酬比較」(Worker Pay versus Executive Pay)をご紹介しておこう。アソシエーテッド・プレス(Associated Press)の調査によると、S&P500社のCEO報酬の07年平均報酬額は前年比2.6%増え1054万4470ドル(10億600万円)。この金額は労働者の平均報酬の約344倍となる。また、米国のCEOの報酬と法定最低賃金労働者の格差は広がっており、07年は866倍となった。
 一方、プライベート・インベストメント・マネジャーの報酬は引き続き上昇し、米国のビジネス・リーダーの報酬金額を引き上げている。07年におけるトップ50のヘッジ・ファンドとプライベート・エクイティー・ファンド・マネジャーが得た報酬は平均5億8800万ドル(588億円)だったと、アルファー・マガジン(Alpha magazine)は伝えている。この金額は平均労働者の賃金の1万9000倍以上だと報告している。
プライベート・インベストメト・ファンド・マネージャーの報酬単位:10億ドル
1位:John Paulson, Paulson & Co. $3.7 billion
2位:George Soros, Soros Fund Management $2.9 billion
3位:James Simons, Renaissance Technologies $2.8 billion
4位:Philip Falcone, Harbinger Partners $1.7 billion
5位:Kenneth Griffin, Citadel Investment Group $1.5 billion
公開会社CEOの報酬単位:百万ドル
1位:John Thain, Merrill Lynch $83 million
2位:Leslie Moonves, CBS $68 million
3位:Richard Adkerson, Freeport-McMoran $65 million
4位:Bob Simpson, XTO Energy $57 million
5位:Lloyd Blankfein, Goldman Sachs $54 million
(Sources: Private investment funds: Alpha magazine. CEOs: Associated Press.)
 個人の才能を自由に開花させることを国家の成長の原動力としてきた企業国家米国は、経済の要である金融界のみならず広範囲の産業界においても結果的には個人の利益を優先し、それを正当化する風潮に深く汚染された人々によって牛耳られ、社会人、経営者としての規律と責任を無視してきたことを我々は知った。問題はこの「強欲で無責任な経営者」を生み出さない教育・管理システム、あるいは「謙虚で責任ある経営者」を育てるシステムを我々が作り出せるか否かにかかっている。本当にチェンジが必要な時を迎えている。
 資本主義という経済システムや米国人が持つ拝金主義を考えると、そんなチェンジは無理に決まっているという嘲笑が聞こえてくる。だが土地バブル崩壊後の日本の不動産関係会社や銀行、証券会社の経営者は、金額の多寡はいささか見劣りがするがその厚顔無恥さでは共通しており、同様な人々が世界中にいることも我々は知っている。その意味で人間が持つ「強欲と無責任」の問題は世界共通のリスクといえる。
 今回の金融不況がもたらした破壊力の大きさと速さは、IT技術の進歩により当初の予想をはるかに上回る。この環境のなかで、上述したリスクの低減、極小化には世界の知恵と経験、そして何よりも効果ある実行が必要となる。ほんの少し前、バブル景気とその後の凄惨(せいさん)な経験を持つ日本の株主、経営者は大いに米国を含む海外の経営者、政治家に対し発言して欲しい。
 次回のコラムでは、このリスクに対応する米国コーポレート・ガバナンスの努力を紹介したい。



 < 過去  INDEX  未来 >


石田ふたみ [MAIL]

My追加