ここんとこの円高のおかげで薔薇が安いのはありがたい
2004年01月19日(月) |
ベベンと心の三味線が鳴りやした |
この週末で読んだ本。 銀の雨 堪忍旦那為後勘八郎 (宇江佐真理・幻冬舎文庫)
御推察の通り、題名の通り、江戸時代・定廻り同心の話し。 但し、血なまぐさくなく、殆ど日常生活のような そんな。 短連作もので、約五年の月日の移り変わりを五話に。
その中の一作の中の話。
大阪の商人の三男坊が 一念発起して 江戸で商売を始める事にした。 普段、その子に構う事がなかった父親が、 「商売が立ち行かなくなった時の資金の足しに」と 太閤さん由来の掛け軸を持たせる。 それが 父親がその子にした 唯一親らしい事だと言う。
何度かの危機があり、何度もその掛け軸を手放そうかと思ったのだけど、 どうにか商売はうまくいき、掛け軸を売らずに済んで、 自分の子に引き継ぐ事が出来たと言う。 自分の時間を隠居して持てるようになったら、 今度は、売らずに済んだ掛け軸の価値が気になり出した。
古道具屋に見てもらったら、 太閤さんのものだなんて真っ赤な偽りの紛い物。 二束三文にもならないという。 その商人は、父親の仕打ちと大いに嘆き悲しんだが、 同心が尋ねた「江戸で商売を始めてからも店と行き来はあったのか」と。 商人は、商売品はもとより、季節ごとの便りなども交わしていた と答えた。 ならば、その父親が存命だったのなら、渡された掛け軸は偽物だと言ったか?
もし、偽物だったら そうと伝えたであろうし、それが偽物だと判るのは、店の資金繰りがうまくゆかなくなり、掛け軸を手放す時である。本物を渡したら、それが判らない。子の危機をそうして知ろうとした大阪商人である父親のやり方が奮っている。他人には何の変哲もない掛け軸だが、やはりこの家の家宝である掛け軸なようですね と、同心は言うのである。
べべべんと 心が鳴り、暖かくなる。 ついつい 物の真贋に重きを置く骨董だが、このような真贋もあったのだと。
この本は、こればかりではなく そんな暖かな心の由機会が随所にある。 時代小説的に言うならば、江戸のどの時代なのか、明記はされていないし、そこはなんとなくわざとにぼかしてあるようで。 それが大事なのではないから、別に何とも思わない。 ただ、300年前だろうが、50年前だろうが、昨日だろうが、 ヒトなんて あんまり変わってないと 思うのだった。 よかよか。
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