| 2004年03月04日(木) |
今ダイニングテーブルに座っている男の話 |
今私はダイニングテーブルに座っている。 キッチンのコンロでは薬缶が湯気をシューシューとたてて沸いている。 それを見て私は蒸気機関車の蒸気を思い出す。 灰色のモクモクとした、機関車の進行方向とは反対に放たれているあれである。 実際に見たことはない。 きっとアニメか何かでだと思う。 よくは覚えていないが、それは哀しい物語の中で見たという印象がある。 おそらく別れのエピソードの一コマで登場していたと思う。 というわけで私は今、薬缶から勢いよく立ち昇る湯気を見て哀しい気分になっている。 実際は近くにあるその薬缶が遠くにあるように感じる。 もう遠くへ行ってしまった機関車のように。 そう感じた瞬間、私はその薬缶が急速に落下しているように見えた。 蒸気機関車が蒸気を進行方向とは反対の方向へ放っていることから、その薬缶が落下しているように見えるのだろう。 同時に、私は一切視線を動かしていないにも関わらず、薬缶が常に一定の位置で止まっているようにも見えている。 そうか、僕がいるこのダイニングはキッチンと共に下へ下へと落下しているんだ。 ということはそのうち、マグマに近づいて僕は跡形もなく溶けてしまう。 まるで嘘のような話だがそういう気がして仕方がない。 どうすればいいんだ! どうすれば。 そうだ!!あの湯気を消してしまえばいいんだそうすればいいんだ! その為にはコンロのスイッチを押せばいいんだ。 そうあのスイッチを。 だが、なぜかあの湯気には近づきたくない。 妙に怖いんだ。 僕はあのいつか見たアニメだったか何かのストーリーの主人公が機関車に乗って去ろうとしている人を見送ることしかできないように薬缶に、そして湯気に近づけない。 そう、僕はあの薬缶には近づいては行けないのだ。 だから僕はこの場で立ち尽くす。 それが僕の今の役割。 ああきっともうすぐマグマに突き当たるんだ。 きっと僕は跡形もなく溶けてしまうんだ。
―END―
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