それは、シングルベッドに二人きつきつで寝ていたある日のことでした。
彼が、ぎゅーっと私を抱きしめてきました。
あらあら、まあ(はあと)とか思ってほんのり喜んでいると、彼はどうやら寝ぼけている様子。
なんだー、寝ぼけてるのか、と思う私。っていうかあんまりきつく抱きしめるもんだから「苦しい」と思い少し離れようとしましたら、
「ぼむー、行かないで」
という彼の言葉。
起きてるのかと思いきや、目は閉じたままです。 そういえばこの人は、一度雑魚寝の飲み会で隣にいた私を寝ぼけて抱きしめたよなあ、と思い出す私。
彼は非常に寝ぼける人で(寝言も多い)、それでもそういう時は頭のどこかは覚醒しているらしく例えば抱きしめるにしても人を間違えたりはしないのですが、性質の悪いことに起きた時にそれをさっぱり覚えていないらしいのです。
という訳でこれもきっと覚えていないんだろうなあと思いながら、離れようとすれば「そばにいて」と言われ更に抱かれるので、私はぎゅうっと彼に抱きしめられるがままになっていました。
と、彼の顔が歪み、何故か苦悶の表情になりました。何だか非常に苦しそうです。「ううう」と唸っています。
そしていきなり彼は、
ごんごんごん、と自分の頭を拳固で叩き出したのです!!
「!?」
びっくりする私。もちろんすぐさま彼の頭と手の間に手を差し入れ、もう片方の手で彼の手を押さえつけます。しばらくすると彼の手は大人しくなりました。
私はもう、何事が起こったのかとどきどきです。
彼は何事も無かったかのように安らかな表情になると、自分の頭を叩いていたその手を、私の体に。そしてまた「行かないで」と私を抱きしめる彼。そうしてしばらく経つとまた苦悶の表情になり、ごんごんごん。
「やめて、やめて」
と自分の手で彼が叩かれるのを防ぐしかない私。 どうして彼がこんなことをするのか、どうすればいいのかさっぱり分かりません。
そうしていると。
彼がもっと痛いぐらいに私を抱きしめ、不意に
「ごめんな…」
と言ったのです!!
びっくりして私は彼の顔を見ました。
すると、辛そうなその顔に…瞳に…涙が。
私の方が泣きそうになりました。
その時初めて、私は彼の後悔の度合いを知ったのです。
無意識に自分で自分を殴ってしまう程…寝ていても「行かないで」とぎゅうっと私をきつく抱きしめる程。
「行かないで」も「そばにいて」も起きている彼からは、一度だって言われたことがありません。むしろ一度ぐらい言えよって勢いで、言われたことは無いのです。
それは、「浮気した自分が言えることじゃないから」と彼が決して口にしなかった台詞でした。
けど、彼の本心は、言えなかった本心は…。
苦しそうに唸りながら自分の頭をごんごんと叩く、そんなことが彼といるときに何度も起こり、続きました。私は、もしかして毎晩彼はこれをやっているのだろうか、と思うとぞっとしました。
大変。彼がバカになる。←そういう問題じゃない。
強く強く、私を抱きしめるのです。「行かないで」と。
えっと、何ですか。
これでそれでも許さないとかって言ったら、
私鬼か何かですかそうですか。
けど彼のしたことはしたこととして(←!?)。昨日私はついに耐えかねて彼を起こし、彼が今までしていたことを告げて「もうしないっていうなら許すから、絶対自分を傷つけたりしないで」と泣きつきました。
彼は起きぬけできょとんとした顔をしていました。
「許す」と言ったことで彼が少しでも楽になるかどうかは…分かりません。
しかし、怖いです。寝てる間って。っていうかずるいです。
言いたいなら言えばいいのに、無理するからそういう歪んだ?形で出るんですよ。もう、変に真面目で不器用なんだから…。
そして、弱いんだから…もう。
弱い男はあまり得意じゃないのですが、仕方ないです。好きなんだから。
とりあえずこの私の彼好き好きっぷりを見て、どうして「行かないで」とか思うのかその辺が謎です。
確かこの間まで「冷めたかも」とか言ってたっていう事実を思うにつけても、謎です。
とりあえず、ごんごん殴るのはやめて欲しいのですよ。心臓に悪いです。
どうか彼のそのストレス?が、無くなりますように。 どうか私達が心から笑って日々を、夜を朝を過ごせますように。 (←じゃあ責めるのやめろ)
そしてどうか私の明け方の安眠が、確保されますように。 ちょっと寝不足なのです。はい。
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