「硝子の月」
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くすりと、僅かに零れた笑い声が聞こえた。 反射的にそちらを見て、『永き者の寵を受ける御方』が自分と同じ人物を見ていることを知る。 (なんでティオを見てんだ? 質問したあの男じゃなしに) 彼女の赤い唇が紡いだ「面白い」という言葉は、この疑問の答えなのだろうか。ならば何が面白いというのか。彼女の視線がすいと動く。 「そうは思わぬか、アンジュ」 「私は……」 急に話を振られた第一王国建国王の流れを汲む少女は、戸惑いを隠せない様子で言い淀む。戸惑い――それは多分、急に話が振られたことに対してではなく、それを口にしていいのかというような。
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