島本和彦の本に『新谷かおるになる方法』というただならぬタイトルの同人誌があるのだけれど、これがかなりというか非常におもしろい本なのだ。実は島本氏は『燃えよペン』と『熱血アニメ店長』ぐらいしか読んだことがない。したがって、どういう漫画家なのかよく知らない。けれど、『アニメ店長』は、それが読みたいがために、アニメイトまで足をはこんで、きゃらびいを貰ってくるぐらいの労は惜しまない程度の読者であるので、たったその2作品だけで、島本和彦とは無駄に熱い漫画家なんだ、ということだけは、私も充分知っていた。 本日取り上げるこの『新谷かおるになる方法』だが、わたくしがまず気になったのは、なんといってもそのタイトルであった。新谷かおるになる方法…いったい何事だろうか、この桂冠をかざした題名は。ハウツーもののようなパロディのような内輪ネタのような、なんともへんてこなタイトルである。 それに続いて注視したのが、表紙を飾るイラストであった。 この本の表紙には4人の人物が登場しているのだが、それが、新谷氏のクレオ(クレオパトラD.C.)と新谷御代自身(ご本人がよく描いている自画像 しかもシン・カザマの波々模様の飛行服にヘルメットをかぶっている!)と島本氏のへットギア男という異色の組み合わせであったのである。 これを見た私の興味は加速度的に膨らんだ。その刹那、これはおそらくクレオを始めとする新谷キャラと、ヘッドギア男を始めとする島本キャラが共演する合同誌だろうと勝手に思い、購入することに決めてしまった。自分は島本漫画の熱心な読者ではないので、元ネタが解らなくて面白さも半減するのではないかと、心配がないわけでもなかったが、ともかく購入することにしたわけである。このようにして私はウラシマモト(島本和彦のサークル)に通販を申し込んだのだった。 ほどなくして本が届いた。本が入っていた茶封筒を引き破り、中から品物を取り出すと、早速表紙をめくってみた。するとそこには『新谷かおるになる方法』というタイトル文字と並んで、なんと飛行服を着た風間真の姿があるではないか!うわっ懐かしい、連載当時の絵だ。連載時の風間真だ。まさかこんなところに風間がいるとは、思っていなかったので、期待してなかった分ちょっぴり得した気分になる。 さらに次のページをめくると、今度はふたり鷹の東条鷹の姿が!同じく連載当時の絵である。 ここで横道にそれるが、私この東条鷹という人が大好きである。『ふたり鷹』とは新谷かおるのバイク漫画で、ミッキー・サイモンがゲストライダーとしてちらっと姿を見せたり、フーバー・キッペンベルグにそっくりな風羽(ふうば)なるライダーが登場したりと、エリ8ファンにとっても喜悦な漫画であるけれど、新谷漫画の中で誰が一番好きか?と尋ねられると、私はこの人を挙げるかもしれない。もちろんシン・カザマも好きだけど、シンの場合は、風間真だから好きというよりも、自分の好きなエリア88の主人公だから好きというところが大きくて、単体でどうこういうことはない。それに対して、東条鷹の場合は、美形・金持ち・有能、でもってちょっぴり そして、その次のページに作者島本和彦からの前書きがくるのだが、ここまで読んで、私ははたと気が付いてひざを打った。 もしかしてこれ、合同誌じゃなくて、島本和彦個人誌だったのか! じゃあ、このイラストはどっかからの再録じゃなくて、全部島本和彦が書いたものなのか? あの風間真や、東条鷹が島本和彦の筆によるもの?まさか。しかし、いわれてみれば、新谷御代のてろんとした描線に比べ、微妙にガサガサガサとラフな力強さが感じられないでもない。オリジナルはもうちょっとしれっとしているというか、てろんとしているとうか、しんなりというか、ようするにデッサンが崩れがちだったよーな気が…。なんかこっちのほうが絵が整っているよな気がするんだよなぁ、うん。…ハッ!俺は何を書いているんだッ。俺のバカバカバカッ。 どうにも、自信がないので言い切ることは出来ないが、もし仮にそうだとしたら(自信なし)すげぇ…。絵だけじゃなくって漫画まである。アシスタントさんが書いたモブキャラなんかだど、描線の違いが出ちゃって気になることがあるんだけど、これはよく似ているといっていいのではないだろうか。巧いよ! もういってしまおう、ようするに、この本は一冊丸々新谷かおるヨイショ本なのだ。 一冊フルに使って、新谷かおるの漫画のおもしろさや、いかにメカがいきいきとしているか、ストーリーが光彩を放っているか、台詞に深みがあるか、ウンチクの含蓄量が多いか、さらには人となりが魅力的なのかを、口角泡を飛ばしながら、島本和彦が延々と熱く語っているというか叫んでいる(だけの)本なのである。 その内容は、このサイトのようにただの感情論と印象論に終始するのとは違い、松本アシスタント時代の逸話を再現した漫画に始まり、夫人である漫画家の佐伯かよの氏との関係を示した相関図、新谷漫画のコマを実際に引用しながら女性キャラの台詞を検証、交流のある島本だから書ける制作秘話や裏話、さらにはテクニックに始まり新谷漫画のその真髄にいたるまで、多岐にわたる。 表現の仕方も、イラストあり、漫画あり、図あり、文章のみとバラエティーに富んでいて、実に盛りだくさんである。 そして全てに共通していることに、そのすべてが熱い、とにかく熱い、無駄に熱いのである。おかげで私のレビューアー魂に火がついた。中でも私が唸ったのが、トークのページであった。この本には、見開きで2ページ、すべて文字のみのページがあるのだが、これが読んでいて、辛いラーメンでも食べているような錯覚に襲われる熱さなのである。ようするに早く読まないと麺がのびちまうから早いとこ読んじまわねぇと、と気ぜわしさを要求する文章なのだ。いや、熱いというより、騒々しい、騒々しいというより、五月蝿い、五月蝿いというよりやかましい、そうやかましいというのがぴったりくる文章なのだ。 この人は、漫画だけでなく、文字だけでもこんなにもやかましいのかと、私は感心してしまった。 今日の私の文章がやかましいのはたぶんそのせいです。 基本スタンスが、新谷かおるをヨイショするところにあるので、ファンの人には得るところが多い本になるであろう。逆にそうでない人には益のある本にはならないかもしれない。私は島本センセの意見に共感するところが多く、はじめて知った裏話もあって、得るところが多い本であった。特に女性キャラのキャラ立ちに関しては、全く同意見である。 なお、最後になるが、題名どおり“新谷かおるになる方法”についてもきちんと詳述されている。その方法とは、70頁にもわたる本書を読んで新谷かおるについて学習し、仕上げに新谷かおるのサインをなぞって、その筆跡を習得するというものであった! さあ、諸君も本書を読んで、新谷かおるについて学び、先生のサインをマスターしよう。 外泊証明書だ、これにサインしろ!
本屋に行ったらメディアファクトリーから『スケバン刑事』の新装版コミックスが刊行されていました。エリ8の新装版コミックスと同じメディアファクトリーのMFコミックスです。なぜ今時分『スケバン刑事』が?と思いもしましたが、そろいの黒い表紙で仲良く『スケバン刑事』と『エリア88』が肩を並べて売られていうのは、サキ・ヴァシュタールと神恭一郎を繋ぐ回廊が開放されたようで、嫌な気はしないです。むしろ嬉しいや。 そういうわりに『スケバン刑事』はうんと小さかったころ、友達に貸してもらって読んだきりなので、どんな話だったかよく覚えていないです。ダメじゃん。ドピュッ!(着陸音ではなって、ヨーヨーが飛んでくる音) 和田慎二というと柴田昌弘や魔夜峰央と共に、男性少女漫画家の代表というイメージがあるけど、間違っていないですか?私にはなぜあだち充が少年漫画なのに、和田慎二が少女漫画なのか不思議でした。というよりこれを連載していた花とゆめという雑誌自体が、柴田昌弘の『赤いシリーズ』とか、魔夜峰央の『パタリロ!』とか、美内すずえの『ガラスの仮面』とか、こう少女漫画の範疇に留まらない濃ゆい漫画が多くて、純心な幼女たちからは異質な存在でへんてこだった気がいたし……うわァッ桜の大門がーッ!ドピュッ! 『スケバン刑事』と『ガラスの仮面』のコラボレーション漫画があったのは覚えています。商業誌では珍しいと思うのですが、和田氏と美内氏が合作で漫画を書いたことがあったのですよ。『スケバン刑事』の神恭一郎と『ガラスの仮面』の速水真澄さんが大学時代の知り合いということになっていて、二人が電話しているシーンがあった気がいたします。これ見て、神と真澄さんはお友達なんだ、と作者の読者サービスと遊び心に強い刺激の光彩が放たれ、膝を打って感心しました。なんかこういうのって嬉しいよね。 そうそう、新谷氏にも和田氏との合作漫画がありますよ。私も読んだことがあります。和田慎二と新谷かおるご本人による合同同人誌で、『黒い子守歌 砂の薔薇VSスケバン刑事』というタイトル漫画でした。こちらは商業誌ではなく、同人誌なのですが、手に入れるのは難しくないはずです。1999年8月八十八夜からの発行ですので、ご興味がある方は探されてみてはいかがですか。 内容はタイトルにあるとおり、『スケバン刑事』と『砂の薔薇』のスーパータッグで、麻宮サキらとデビジョンMのメンバーが共演しているというもの。表紙はヨーヨー持ったサキと銃を携えたマリー隊長の2ショットです。 ストーリーのほうはというと、不可解な殺人事件が起こって、捜査協力することとなった学生刑事サキとデビジョンMが真相をつかむため、人里離れた全寮制の名門女子校に変装して潜入捜査するというもの。マリー隊長が年齢も省みずセーラー服を着て女子高生に変装しようとガンバッちゃう場面も。しかし、母の刑期延長ため学生刑事やるのって、よく考えると(考えなくても)へんてこな基本設定ですね。エリ8の除隊するために外人部隊で150万ドル稼ぐといい勝負だと思います。ちなみにマリー隊長とヘルガからも学生刑事?なにそれと思いっきり突っ込みを入れられていました。 雰囲気的には、スケバン刑事ワールドに協力要請受けたデビジョンMが参加してくる印象でしょうか。メカが新谷パースじゃなくて、和田先生の古風な描線なのが味わい深くてでまた一興です。コマ単位で、和田氏と新谷氏が半々ずづ作画しているのですが、思っていたよりも、調和しておりなかなかのまとまりでした。 あとがきみると、お二方とも死ぬかと思ったとか2度とやらないとあるので、よほど製作するのは大変だったんでしょうね。このタッグではもう書いてくれないのかなぁ。いい組み合わせだと思うのですけど。 ま、好みをいうと、神恭一郎の共演相手はサキ・ヴァシュタールがいいですね!神が「サキ」って呼ぶと、サキ・ヴァシュタールが出てくるやつが。 エリア88ワールドの人は、他の作品とは親和性が低いように思えて、同じ作者の他作品でも、ゲストで登場するだけで私などは違和感を感じてしまうのですが(例:ふたり鷹のミッキー)例外な人も中に何人かいて、そのうちの一人が沢さんなわけで、エリ8の中でスケバン刑事世界に違和感無しで溶け込む人っていったら、私はだんぜんムッシュ・サワを推しますよ。 沢松之助&サキ・ヴァシュタールvs麻宮サキ&神恭一郎、この不文律の黄金コンビ、これがベストですよ!
私バンバラ編好き。エラー好き。シン好き。っていうかこの漫画好き。(知っている) 今日はみんなも大好きなバンバラ編のお話です。みんなも好きですよね?バンバラ編。 え?その話題に触れるなって?スルーしろ?そいつはいけないな。私は大好きですよ、バンバラ編。今日はそんなバンバラの面白さについて。 バンバラ編の面白さはですね、パイロットが陸路を使って移動するということですな。 パイロットくせになぜか陸戦部隊にスカウトされてしまうシン。それだけでもおかしいのに、あまつさえリーダーにまで任命されてしまう。もうここからいってオカシイです。ボッシュはパイロットなんて雇ってどうするつもりだったんだ?シンだって、パイロットとして雇われると思っていただろうに。そんなにカザマが気にいったのか、どうなんだボッシュ?きっとそうなんだろうな。 おそらく作戦上、水上機操縦要員が必要だったのでしょう。そんな中で戦士の魂を持ったシンは操縦技量の腕もさることながら、戦士としての資質が高く買われたんでしょう。 しかし、結局その水上機に乗ることなく、部隊は車を使って陸路での移動をすることになります。パイロットなのに陸路で逃走。しかも上空から標的にされてしまう。今までと逆の立場に追い込まれる主人公。しかも最後は白兵戦とくる。おまけに吹き矢まで出てしまう始末。この回、結局カザマは飛行機に乗らずしまいです。エースパイロットなのに、なんと空戦能力の見せ場なし。パイロットが吹き矢相手に戦うなんて、これをおかしいと言わずして、なんといいいましょう。 もっとも、そのおかげでパイロットととしてだけでなく、指揮官としての能力も有するということが判明することとなりますが。以前に教官としても、腕がいいとラウンデルに評価されていたましたし、のちに政財界の黒幕海音寺御前にも、目を掛けられているところみると、この人は一介のパイロットに収まらない、異才の人なのかもしれません。 そして、その道のプロ達が倒れる中で、歩兵としてはド素人のシンが最後まで生き残るというところがまたよいのです。 私は全編通して、ここの話が1等お気に入りです。マーク3の話は、ここだけ独立して読めるぐらい起承転結もはっきりしており、パリでやさぐれ→傭兵→裏切り→大統領の遺産…この劇的な展開をとげるストーリーには、新谷かおる…恐ろしい子!の一言なのです。主人公が一夜で大富豪になろうなんて、いったい誰が想像しえたでしょう。 ◇登場人物紹介◇ ▼シン 本編の主人公。アスラン王国空軍エリア88の生き残り。その中でもかなりの凄腕を誇っていたらしい。かつて所属していたエリア88は、後ろに目がある、ミサイル避けの魔法を使う、血管にジェット燃料が流れている、心臓がビス止めだ、など数々の都市伝説を持つ一騎当千の航空兵団。徐隊後、バリの町をうろうろしているところを、ボッシュにスカウトされる。今回の作戦行動の指揮官。フランス語が堪能で、見た目西洋人にみえなくもない東洋人。女のような外観に似合わず、肝が座っている。口癖は「裏切りには慣れている」 ▼ボッシュ マーク3の隊長。マーク3は、彼らが通ったあとは草の根一つ残っていないといわれる恐怖の殺人部隊。かつて作戦行動中に、自らの手で弟を殺害した過去を持つ。パリの町でふらふらしていたカザマに戦士の魂を見出し、スカウトに見事成功。カザマ本人に入隊の意思を固めさせた日本人観光客のネーちゃん達に感謝しておけ。カザマをして一人で千人を相手に出来ると言わしめる男。その戦闘能力は戦闘機の操縦のみならず、刃物から銃、はては吹き矢にいたるまで広範囲にわたる。空戦漫画の金字塔「エリア88」で、吹き矢が出たときには、誰一人とて予想していなかったその展開に、読者は言葉を失い恐慌をきたした。 ▼エラー マーク3の傭兵。狙撃の名手。暗闇でも90m離れた先にある3センチの標的を打ち抜くことが出来る。女みたいな顔に女みたいな体。素で女性に間違えられること多数。しかしそれを指摘すると、狙撃目標にされかねないので注意。でも2回目までは大目にみてくれるらしい。名前のいわれは、生まれたことそのものが間違い―エラーだったと実の両親に存在そのものを否定されたことから。学生時代その美しすぎる容姿が災いして、男に言い寄られたのを拒もうとして、相手を殺害してしまった過去がある。美少年のマストアイティム棒タイの制服がよく似合う回想シーンは、一部女子を中心に、爆発的人気を誇る。こうした過去ため同人女にはめっぽう愛される一方で、少年漫画版伝統の同人女叩きにより、彼の両親がしたのと同様、存在そのものが否定され、排斥されることもままある。 しかし、作中唯一といっていいほどのハッピーエンドキャラでもある。 ところで本人はよくあることさと言っていたけれど、本当にああいうことってよくあることなんですか?教えて男子校出身の人! ▼マップ マーク3の傭兵。元ラリードライバー。モンテカルロでクラス優勝の経験あり。地図を30分も見せれば、50キロ四方、縦横無尽に車で走り回ることが出来る。今回の作戦においても、ウニモグを使用し、その素晴らしいドラテクを遺憾なく披露。空戦がない本バンバラ編において、ウニモグはまさに主役メカの座にあるといっていい。鑓を持った土人にナビゲーター刺殺され、その報復に原住民をひき殺ろす回想シーンは、バンバラ編最大のクライマックス。アフリカは…いやだ…どこまでいっても血の臭いがする…これを収録せずカットしたワイド版は阿呆としかいいようがない。 ▼スラッシュ マーク3の傭兵。ナイフ使いに長けた傭兵。一撃で相手に致命傷を与え、絶命に至らしめることが出来る。過去の因縁話も語る前に、ボッシュに刺殺されるというある意味回想シーンをカットされたマップよりも不幸な人。もしかしたらバンバラの中で一番不幸な人かもしれない。彼の過去に何があったか、我々にはもう知ることは出来ない。 ▼ニップル マーク3の傭兵。爆発物処理が専門。女房とその浮気相手をロールスロイスごと爆弾を使って殺害し、15年の刑に服役する。そんなことがなければ、今ごろは特殊部隊の隊長あたりになっていたとも言われる人物。 体をはってパイナップルを受け止め、バンバラ大統領家族を守って爆死した最期は涙なしでは見られない。 ▼バンバラ大統領一家 アフリカにあるバンバラの大統領一家。大統領バルラ・オム・ナダド、リデア夫人、ライラ令嬢 ローデ子息。 バンバラはウラニウム・ダイヤの鉱山をもつ国。 革命勃発にともない、シン率いるマーク3部隊とともに、国外脱出を図るものの、あと一歩のところで、ボッシュの牙の前に倒れる。 大統領は死ぬ寸前に遺産をシンに譲りわたし、シンはそれを相続する。その資産は総額にして800億ドル。…そんなに貯めこんでいりゃ、革命ぐらいおこるわ…。一国の国家予算に匹敵する財産を私領し、一夜にして大富豪となった主人公の活躍は今後に続く。誰一人とて予測しえなかったこの最後のオチに、ストーリーテラー新谷かおるの真骨頂を見るのであった。生き残ったリデア王女はエラーとまとまる。王子も存命。しかし、将来成人した大統領子息が遺産返還を求めて、ひともんちゃくおこさないか心配だ。 ※エラーの個所だけ、解説に熱がこもっているのは、管理人が並々ならぬ思いを寄せているためです。 このメンバーでの作戦行動はこれが最初で最後ですが、時系列が許すのなら、他の話も見てみたかったなぁと思います。それぞれの登場人物も魅力的で、一人一芸というのちの砂の薔薇でも使用されるシステムも効果的に作動しており、一人、また一人と殺されていくアフリカの暗闇は、血肉沸き立ち手に汗にぎるとはまさにこのことで、文句無しでおもしろかった。このメンバーの出番がこれ一本だけというのは、残念なことですね。出来るものなら、この面子で別のミッションを、番外編あたりで書いてもらいたかったです。すでにパラレルになってしまいますけれど、それでもかまわないと思うくらい、私はマーク3が好きでした。 ところで、新谷氏の作品に『バランサー』というのがあって、これがマーク3を彷彿させる傭兵部隊の話で、第1話なんて、もうそっくりで、降下作戦から始まります。新谷節を効いていて最後の〆もびしっとキマっていて、1話に限ってはかなり好感触を得た漫画だったのですが、除々に凡庸になっていき、途中から何を血迷ったのか、突如忍者者に路線が変更になってしまいました。前半と後半ではおよそ同じものとは思えない作風と内容となり、その変貌にただ唖然となるばかりですが、いったいこの時期、新谷先生に何があったのでしょうか。傭兵モノがいきなり忍者ですもの。タイトルも当初は『ジャップ』から『バランサー』に変更になったと風の便りに聞きましたが、何かその辺に関係するようなことでも編集部から要請があったのでしょうか。私としては、1話が好きだったので、あの雰囲気で最後まで続けてほしかっただけに残念です。 最後になりますが、バンバラが好きなのは、コンバットスーツに軍用ベレーが格好いいとう極めて単純な、でもそれなりに重要な理由もあります。シンが肩にベレーを通して作業しているところが特に好き。芸が細かくって。この人は波々模様の飛行服より、こっちのほうが断然似合いますね。 絵柄もこのころが一番好きです。後半に入ると、ロリ化が進んでぷにぷにしてくるし、最後のほうになると、王宮のところから突然目にトーンが貼られたりして、ぷにろりめいてくるから、この辺が一番いい。 『背後の牙』の回の扉絵、マップとシンが並んで振り返っている絵、中でもあれが好きでした。
連日のアテネ五輪の金メダルラッシュのおかげで、日頃、日本の国家はスキヤキソング!国は土ですよ!くたばれ国家至上主義、これでもくらえ慎太郎!と新宿御苑で都庁に向かってロケット花火を打ち上げている人達も、にわかナショナリストに転向し、日の丸を掲揚しているころでしょうか。 なにはともあれテロに見舞われることなく、無事平和の祭典が終わることを祈りたいものです。 ギリシャ(作中ではギリシア)はサキ司令の母君の国というだけでなく、アスラン空軍の訓練所があり、そこを舞台にした話もあって、エリ8にとってもゆかりの深い国ですね。 ギリシャでの話は、地上空母編と山岳基地編に挟まれ、交戦もなく、部隊の再編成と新兵の訓練に明け暮れるなど、戦闘と戦闘の幕間的な話の色合いが強いです。 長さ的にもさほど長くなく、山岳基地に移るまでのつなぎの印象が強いギリシャ編ですが、レギュラーキャラとなるラウンデルとキムの登場や、シン・カザマの代名詞的存在になるタイガーシャークの登場をはじめ、シンに心理的ダメージを与えるささやかな事件が起こるなど、内容的はけして薄くはありません。 いやむしろ、濃いといっていい。 シンはここ神々の国で、神さまが自分たちの見方でないことを改めて知ることとなるのです。そして、鉄の杯を血で満たすため神々の国に別れを告げて再び地獄に戻っていきます、今日はそんなギリシア編についてです。 まずはギリシャの訓練所の位置について。 アクロポリスの丘にそびえたつパルテノン神殿、実り豊かなオリーブ畑、紺碧のエーゲ海、ゼウス以下神々の住処する宮殿があるオリンポス山等々・・・いかにもギリシャらしい名所旧跡が登場し、旅情情緒たっぷりのギリシャ編ですが、この話の舞台となるギリシャの訓練所というのは、どこに位置するのでしょうか。これがどうしてなかなかよくわからなかったりします。 ちょっと作中の会話を拾ってみると ------------------------------------------- 「オリンポスの・・・山・・・か。」 「市内に出てもいいってきいているぜ。」 「交換台?テサロニキ1919・・・ここは?」「スパルタ3512・・・」 「車をまわしていたんじゃ、時間がかかりすぎる。」 「どのくらいかかる?」「2時間・・・ってところですね。」 「右に見えるのがサラミス島です。そのむこうがペロポネス半島」 「ああ・・・基地で一番大きなジェット・ヘリだ。」 「空軍の方ね・・・基地はどこなの?」「テサロニキです。」「カルキディ半島ね。」 ------------------------------------------- うーん、訓練所はテサロニキにあるってことでいいのかな。 シンはテサロニキに電話していたし、スパルタの農園に不時着したF-5を回収しにきた空軍の人も、基地はテサロニにあると言っていたけど、これがシンたちがいる訓練所のことでいいのでしょうか。 けれど、訓練所の前にはオリンポス山とおぼしき山がそびえているですよね。地図を見ると、オリンポス山はマケドニアとテッサリアの国境近くにある標高2911の山なので、テサロキニからだとちょっと距離がありすぎます。あんなに近くに迫っては見えないんじゃないでしょうか。 それに、ミッキーとシンは休日を使ってアクロポリスのパルテノン神殿に観光にいくのだけれど、それもテサロキニからだと、車でアテネの市内観光に日帰りで行くのは距離的にちょっと厳しいような気がする。パルテノンの夕暮れを見てテサロキニまで帰ってこれるものだろうか。音速で飛んでいるわけじゃあるまいし。それともやはりここはミッキーは“市内”という言葉を使っているので、彼らが今現在いる場所はアテネ市内あるいは近郊で、テサロニキとは別にアテネ周辺に訓練所があると解釈すべきなんだろうか。でもそうすると、オリンポスの山からさらに離れてしまうし・・・。うーん、よくわからない。 オリンポス、アクロポリス、スパルタ、テサロニキ・・・テレビの旅行番組のごとく、名所旧跡間をわけなく移動し、ギリシャ情緒をふんだんに醸し出しているギリシャ編ですが、実際のところ訓練所はどこにあったと見るべきでしょうか。 よくわからないとえいば、時間のほうも同様にはっきりしません。 エリ8の時系列は不明瞭なのですが、A‐88がギリシャの訓練所で部隊の再編成をしたのは、いったいいつのことなのか、これもまた諸説が別れるところです。 サキの「あのときさっさと ここにきていれば残り1年半・・・命の心配をしないですんだものを・・・」台詞からすると、1980年1月あたりになるはずですが、1980年1月は砂漠基地で新年を祝っているので、ここはサキ司令の勘違いということで、もうちょっと後の時期とみるのが適当なのでしょうか。 また、パルテノン神殿の土産物屋におかれている雑誌LIFEには1981の文字が見えます。しかし、81年とすると、シンがサインしたのが、1978年7月なので、この時点で最低でも2年半を超える兵役をこなしたことになってしまい、ちょっと兵役終了までの期間が短すぎることになります。 のちに山岳基地でベンディッツが除隊したとき、シンは生き残っていれば、あと1年ぐらいかなといっているので、この時点で1981年というのはちょっと未来すぎるでしょう。 どちらをとっても矛盾が生じ、迷うところですが、まあ、この雑誌は時空の歪で未来雑誌が店頭に並んでしまったか、スーパーフライング発売が実行されたか、印刷所の誤植ということにして、1980年1月以降1981年未満というあたりにしておくのが無難なところかな。矛盾が多くて、あちらを立てればこちらが立たず、時空の狭間に取り込まれ、亜空間に消滅してしまうので、深く突き止めないで、そういうことにしておきましょう。 ところで仮に1980年ということになると、この年もオリンピックが行なわれた年になります。オリンピックは平和の祭典と呼ばれるだけのことはあって、その歴史は、戦争と平和と切っても切り離せない関係がありますね。ちょっと調べてみました。 1896年第1回 アテネ 1916年第6回 ベルリン 第一次世界大戦のため中止。 1920年第7回 アントワープ 戦争の傷跡が深く残るベルギーをあえて開催地に選ぶ 1940年第12回 第二次世界大戦のため中止 1944年第13回 〃 1948年第14回 ロンドン 第2次世界大戦の責任を問われドイツと日本は招待されず 1980年第22回 モスクワ ソ連のアフガン進行に対する制裁措置としてアメリカがボイコット。日本を含む西側諸国60の国と地域が不参加。 1984年第23回 ロサンゼルス モスクワ大会の報復としてソ連・東欧諸国など16の国と地域が不参加 1988年第24回 ソウル 北朝鮮不参加 2000年第27回 シドニー 韓国と北朝鮮の合同入場が実現。 うわー、こういうのを見ると、本当にオリンピックって人類の平和の祭典ということを痛感いたしますね。 (48年のロンドン大会って、第2次世界大戦の責任を問われ、日本は招待されなかったのか、知らなかった、戦争の責任のためか・・・。) そして、ギリシャで舞台再編成をしていたであろう80年のモスクワ大会ですが、そうそう、この大会は日本はアメリカに習いオリンピック不参加だったのです。日本の選手もみんな涙を飲んで出場できないことを悔しがりました。国をあげて、不参加の苦渋を味わった年でした。そして翌ロサンゼルス大会では、今度は逆にソ連がその報復措置として不参加でした。 え?なぜ、参加出来なかったのかって?それはですね、 ミッキーやシンがパルテノン神殿を観光していたころ、まだ、世界は冷戦時代だったのです。
オリンピックが始まりました。 今年はオリンピック発祥の地、というよりサキ司令母君の国が開催地ですね! オリンピックというのは不思議なもので、平素は、日の丸君が代強制ウゼー俺が好きなのは国という組織構成とか思想がどうこうというわけじゃなくて、風土や気候やもろもろの風のにおいやそんなものであって、ようするに土ですよ、国は!とラウンデルのおっさんみたいなことをいっている非国民も、にわかナショナリストに変身する期間でもあります。 今回はアテネ開催なので、うまくするとサキ・ヴァシュタールみたいな国籍不明なエキゾチックな混血美形に出会えるかもしれません。サキ司令ファンの方は、日の丸を振りかざしながら、選手から通行人、大会関係者から観客に至るまで、画面をくまなく探してみるとよいでしょう。ご武勲をお祈りします。 と前座はこのくらいにして、今日はアスランの所在地について考えてみることにしましょう。 前回エリ8は時間の経過が判然としないと述べましたけれど、アスランの場所については、少なくとも時系列よりはヒントがたくさん上げられているので、おおまかな場所の特定は出来そうです。アスラン王国はいまさら説明の必要もありませんが、中東にある架空の国です。しかし架空の国家といっても、亜空間に存在すのではなく、世界地図上に実在するポイントに位置する国です。何処にあるかは作中明確には記されていませんが、それをほのめかす記述は複数登場しているので、それらを総合すると自ずと所在地は明らかになってきます。 では作中の台詞をいくらか抜き出してみましょう。 -------------------------------------------------- 「テルアビブに着いたのが午前2時・・・そこから小型機をチャーターしてアスランに着いたのが午前3時」 「海の向こうは母上の生まれた国だ」 「この国はいくつもの部族が一つのオアシスを求め、寄り集まってできた国だ」 「アスランの首都東300キロにおいて、ブラシア国境において」 「ブラシアのむこうは、サージ、ロザリア、クロエの3国だ」 「中東の小国」 「北は海で、南は砂漠。西のスエズ進行は連中の逃げ道でもある」 「スエズを侵攻するなら・・・プロジェクト4はここ・・・エリア88を通過せねばならん・・・」 -------------------------------------------------- つまり、アスランは地中海に面しており、北にギリシャ、西にスエズ運河、東にパレスチナ地域、地中海沿岸南方に砂漠があることがわかります。そしてそれらの項目に当てはまる国を世界地図上で探すと、ちょうどそれに該当する地域があります。地図帳を広げれば、すぐに見当がつきます。さあ地図帳をもっている人は取り出してみましょう。広げてみましたか?もう見当はつきましたね。そうアスランの場所とは――シナイ半島。 ではシナイ半島とはどんなところでしょうか。簡単に調べてみました。 「シナイ半島はアジア大陸の西端、アフリカ大陸の東端にあり、北は地中海、南は紅海に面した三角形の半島です。現在はエジプト領で、南部にはモーセの十戒で知られるモーセ山を初めとした山岳地帯、北部は広大な砂漠地帯が広がり、地中海沿岸や紅海沿岸にはリゾート地も点在します。またシナイ半島には現在もベドウィンが生活しており、エジプト人とは異なる文化を築いています。」(本当に簡単だな・・・歴史について何も触れていないし) おお、間違いない、ここなら砂漠基地も山岳基地も海岸基地も、アスランの首都も、ゲールの精油所も地理的に存在しえるではありませんか。 はたして、アラビアンナイトみたいなスケスケの衣装をここの女性が着ているかどうかは判りませんが、しかし、アスランの所在地がシナイ半島であることは、これにより濃厚とみてよろしいのではないかと思います。違っていたら訂正よろしく。 しかし、シナイということは推察できても、これ以上はちょっとわからないですね。 それぞれの基地の所在地が明確にされていれば、私も公証人役場に遺言状を残して、自己責任で“大和航空で行くシナイ半島周遊エリア88スタンプラリーの旅”に出立するだけれどな。残念ながらこれ以上は判りそうもありません。 でもまあ、この半島の砂丘のどこかに88基地があるとわかるだけで私は満足です。砂に囲まれ何処にあるのか一般人にはわからぬあたりが、かえって見果てぬ夢というか、ロマンを醸し出してよいではありませんか。 それにしても、ファントム無頼の聖地の百里基地と比べると、エリ8の聖地はぐっと遠いですね。海の彼方の見知らぬ大地、所在地も不明な蜃気楼の向こうです。心も乾けば、財布も乾くエリア88。もっとも、その距離と乾きが、遠く故郷を希求するシンの心情と重なって、信者を魅了してやまないのでしょう。 私も命があるうちに、聖地巡礼してみたいものです。 でも、その前にまずは来月の百里祭だな。
|