やんの読書日記
目次|昨日|明日
ロード・ダンセイニ作 河出書房新社
ケルト系ファンタジーの大家の作品と聞き いちばん読み安い短編集を選んだ 訳は流麗で、詩を読んでいるかのよう。 夢の中のお話なので、幻想的で美しいのもあれば 悪夢もあり、冒険ファンタジーもある。 たいていの物語には空想の都市が出てきて 突如として消滅したり、崩壊する。 ここの部分は指輪物語や果てしない物語 の感覚によく似ている。 感覚がかけ離れていてよく分からなかったのもあるけれど なかでも「ヤン川を下る長閑な日々」の情景が綺麗でよかった。 「サクノスを除いて破るあたわざる堅砦」はケルト神話の クーフリンのようで面白かった。 全体に流れるケルト的思考 ダンセイニ卿はアイルランド人だということなのだろう。
浅田次郎作 講談社文庫
話題の作でいつも書店に平積みされている。 歴史物それも清朝の末期とくれば いわずと知れた西太后。 この物語は西太后派と皇帝派の争いが縦軸になっているが 芯は運命に翻弄されるひとりの少年とひとりの役人の 生き様だ。極貧の少年春児が星占いによって天下の宝を 自分のものにすることを知り、何が何でもその道を行こうと 自ら自分の体の一部を切り捨てて宦官になる。 庶子ではずれものの郷士の次男文秀が科挙にトップ合格する。 そういう場面は運命を自分のものにしていこうとする すさまじさや力強さが感じられて手に汗を握る。 同郷のふたりが相反する別々の道をすすみ 政治に翻弄されていく。春児は星占いの人生を 実現し、文秀は夢破れて逃亡する。
これまで見知って来た歴史上の人物が 当時のなにものかによって美化されあるいは 歪曲されていることがこの物語を読んでよく分かった。 特に西太后がその中心だ。 宦官や、清を打ち立てた韃靼人も これまでは不可思議な遠い人種のように見てきたが それは当事者のわなであることを今やっと思い知った。 清朝がなぜ繁栄、崩壊したのか そのことがよく分かった気がする。
塩野七生作 新潮文庫
に聖地をイスラム世界からとりもどそうとした十字軍時代 巡礼者の安全を確保し医療活動を行っていたのが騎士団 ロードス島を根拠地にしていた聖ヨハネ騎士団の物語だ 「キリストの蛇の巣」とイスラム世界から呼ばれたロードス島が トルコのスレイマーン一世に攻められて落ちていくまでを描いている
ヨハネ騎士団の若い騎士が主役となっているのだが スレイマーン二世の君主としての立ち回りの方が 印象深い。蛇の巣として本当は徹底的に攻略したいはずなのに かえって彼の方が騎士ではないかというくらいの 立派な交渉をしている。 しかし、たった数百の騎士が何万ものトルコ軍団に 徹底抗戦する場面は粘り強いという月並みな言葉では 言い表せないくらいすごいものがある。 それはきっと騎士道精神という言葉で表わされるのかもしれない
ロードスで破れ、マルタ島に移り 最後はローマへ移住した聖ヨハネ騎士団が 現存して活動しているということを知って なぜか青い血ということの意味が分かるような気がした。
|