やんの読書日記
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サトクリフ作 乾 侑美子訳 評論者
サトクリフの初期の作品 女の子が主人公 鎧師のおじさんの家に引き取られたタムシンが 故郷から離れて居場所のない思いをしているのだけれど いとこのピアズやちびちゃん、おじさん、おばさんに 囲まれて過ごすうちに、自分の夢をかなえる手前までいく。 魔法使いのおばあさんがくれた赤いチューリップの球根が タムシンを導いてくれたのだ。
チューダー朝期のロンドンが舞台 大航海時代の幕開け そういう時代背景を下地にしていて テムズ川の流れや日の光 草花の香り、音楽など情景描写がきれいで 幸せな子ども時代のサトクリフの姿を見ているようだ
畠中恵作 新潮文庫
あやかしと病弱な大店の若旦那が 連続殺人事件を解決すると言う 捕り物帖のようでもあり江戸の人情ものでもあり 妖怪ものでもあるふしぎで明るい物語。 あやかしというと陰陽師に出てくるような かなり危ないモノかと思えば 若旦那と一緒に店の離れで活躍するあやかしは 家守みたいに小さくてかわいい感じがする。 体の弱い若旦那にぴったりついてその身をお守りするのも 手代に化けたあやかしでこちらはやさおとこだ。 ひょんなことから殺人の現場に遭遇してしまった 若旦那が殺人犯があやかしであることを突き止めて 最後の火事場で封じ込めるまでの 登場人物のせりふや動きがとても面白い。 江戸の風物、商売の動き、町屋のつくり 人の考え方など当時の江戸の風物を見ているようだ。 若旦那だけに見えるあやかし、と言うのにはわけがあるのだけれど 病気の自分のために家族や店の人がしてくれたことを思って 殺人を繰り返す凶悪なあやかしを退治しようと考え付いた 若旦那の姿にすっきりしたものを感じた。 甘やかされて育ったぼっちゃんと言う感覚はない。 気概のある若旦那。このあとも続編があればイイナと思ってしまった。 江戸時代の日本人は周りの自然現象にもあやかしを感じていたのだろうか。 そう考えると現代の機械と道具に囲まれた生活が つまらないものに感じてしまう。
新藤悦子作 講談社
オスマントルコのスレイマーンの時代 青いチューリップを作り出すことに 信念を持っていた人々と モスクのタイル画を描く絵師たち トルコとペルシャの国境の山岳地帯で 暗躍する義賊 たった3個の青いラーレ(チューリップ)のために 様々な人が現れてかかわりあっていく その人々の中で一番引かれたのは 絵師頭の孫でラーレの研究者の娘ラーレだ オスマンの世界では偶像禁止 肖像画も禁止されているのだそうだが ラーレの母はひそかに自分の娘の肖像画を描いていたし 文様を描けと指導する祖父も、最後のほうでわかるのだが 自分の妻の肖像画を描いていたのだ。 ラーレは見たものをそのままに描きたいという欲求があり 祖父の教えに矛盾を感じるのだけれど 最後にはそれが解消される。 囚われの身となった父を助ける旅をして 自分も義賊にとらわれてしまうのだけれど 女首領にすすめられて壁画を描くときのラーレの姿が 一番生き生きとしている。 女首領の父が残した言葉 「パンは飢えを満たし、絵は魂を満たす」いい言葉だ。 青いラーレは2つは盗まれ 最後の1つは燃やされてしまうが スルタンがラーレに熱狂するあまり 人民の平和を忘れてしまうからだと静かに語る ラーレの父の誇り高い姿もすばらしい。
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