やんの読書日記
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2005年01月01日(土) ローマ人の物語 ユリウスカエサル ルビコン以前


ユリウス・カエサル...新潮文庫

塩野七生著
新潮文庫

ローマの独裁者カエサルの青年期からガリア遠征の終わるまで
ルビコン川を越えてローマの反逆者の汚名を着せられるまでの
カエサルの行動はいかに。
カエサルというと第一回三頭政治の大立役者
独裁者で暗殺された悪人、というイメージが強かったが
この本では私のイメージを覆して戦上手、統率力のある
将軍カエサルという新しいイメージが出来上がった
若いころのプレイボーイの様子
読書好きで借金をしていても尊大に振舞う様子
それが人をひきつける要素になっていて
ガリア戦では神出鬼没でとらえどころのないガリア人を
次々と攻略していく
読みどころはヴェルチンジェトリクスとの攻防
ガリア人の最強の指導者となったヴェルチンとの戦いは
「カエサルを撃て」にも正確に書かれているが
塩野さんの本ではカエサルの賢さが前面に押し出されていて
その緻密な描き方にかなりうならされる。

ガリアを平定したカエサルを待ち受けていたのは
元老院最終勧告
要するに、反逆者の汚名を着せられたわけだ
国境のルビコン川を越えれば処刑に
カエサルはこれまでの経歴を無駄にすることを
一番に嫌ったため
ルビコン川を渡ることになる。
「賽は投げられた」


2004年11月27日(土) カエサルを撃て

佐藤賢一
中央公論新社

カエサルのガリア戦記8年のうちの最後に当たる空白の時期。
ガリア人の不世出の首長だったウェルキンゲトリクス
との攻防。ガリア人とはローマの呼び方で
ヨーロッパに古代からいたケルト人のことで
部族ごとにばらばらな動きをしていて
ローマ人に征服されてしまう人々のことだ
ガリア人攻略の最後に来てカエサルは
このウェルキンゲトリクスに翻弄される。
ケルト読みではヴェルチンジェトリクス
子どものころに父を叔父に殺され、母は息子を育てるために
その身を売って暮らした。父の意志を継いで
ガリアの統一を志す彼は、精神がねじくれてはいたが
戦となれば天才的な能力を発揮して
カエサルのローマ軍団を苦しめる。
カエサルを撤退までに追い込み
ガリア人の総力をかけてその兵力の数では圧倒的だったのに
なぜ敗れ去ったのか。
そして最後は自分の身と引き換えにガリア人の安泰を願うと言う
引き際のいさぎよさ。

作者はヴェルチン側に立ってはいるが
その精神のゆがみ方が人間的ではないところに
読み手が嫌気を感じるように仕立てているように思える。
カエサルの描き方も中年のおじさん的だ
ところが、カエサルを撃つことに終始しているあいだに
自分の生きかたを見つめなおし
自分の命がガリア人全部と引き換えられると覚悟したときに
はじめて人間的に生まれ変わる
最後の引き際のよさにカエサル自身が「自分は負けた」
と感じてしまう。表題どおりにカエサルは撃たれてしまうのだ
塩野七生のローマ人の物語カエサルでは、2人の戦略が手に取るように
詳しく書かれている。ヴェルキンジェトリクスは高潔の志士として
カエサルは有能な政治家として描かれているのが相対的だ。


2004年10月30日(土) 生きのびるために さすらいの旅

デボラ・エリス作
もりうちすみこ訳
さ・え・ら書房

アフガニスタンに住み
元は裕福な知識階級の娘だったパヴァーナが
タリバンのアフガン制圧で一転して
父を失い家族とはなればなれになって
生きていく物語。
連作になっていて、前作では父を牢に入れられて
働き手を失った一家をパヴァーナが男の子の姿をして働いて
食べるものを手に入れるという物語
二巻目では、姉が結婚のために旅立った先で
空爆があり父と2人だけになってしまったパヴァーナが
旅を続ける話。とちゅうで父はなくなり一人旅のあいだに
男の子や赤ん坊、女の子と知り合って
一緒に暮らしたり旅を続けて、空腹や危険な目に遭いながら
難民キャンプにたどり着いて、最後には母に再会する
という前向きな光のある物語だ。

難民の生活が想像を超える悲惨なものであること以上に
悲惨なところから抜け出そう、未来に向かって生きようとする
少女や少年の生き方に胸を打たれる。
自分が今できること
それを精一杯やることの大切さを教えてくれた。


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