やんの読書日記
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2004年08月17日(火) 車輪の下

ヘルマン・ヘッセ作
新潮文庫

ヘッセの少年時代をハンスとヘルマンという二人の少年を
借りて描いた作品
初めて読んだのは中学生のとき
そのあと何度も読んでいるが
久しぶりに読んでみて新しい感動があった。

親の期待を一身に受けて神学校を受験し、2番で合格。
しかし、神学校の息の詰まるような規則や
友人関係に疲れ、悪友の感化によって脱落していく少年。
故郷に戻っても彼の居場所はなかった。
行き着くところは死。
そういう筋書きはいつ読んでも同じなのに
若いころに読んだときは、周囲の好奇の目
過剰な期待に押しつぶされて彼は死んだと思って憤りを感じた。
その間にながれるヘッセ独特の詩的な描写に気付かなかったのは
どうしてだろう。故郷の川、森、花神学校の湖、
そういうものが生きて流れているのだ。

彼はなぜ故郷で自分を見つめることなく死んでしまったか。
絶望して泣き崩れる彼の心が痛いほど伝わってくる。
若いころ、自殺だとばかり思っていたが今では
そうではなかったように思える。
ほんの少しの休息を川に求めて、そのまま落ちてしまった。
事故なのだ。本当はヘッセはここで生き方を考えていたはずだ。

だからこそ風景描写がすばらしいのだと思う。


2004年08月05日(木) 11の声

カレン・ヘス作
伊藤比呂美訳
理論社

11人の証言者が入れ替わりに
1930年代のアメリカの世評を語る
フィクションのはずなのにリアルな新聞記事の感覚がする

彼らが話題にしているのは黒人とユダヤ人差別
KKK団のなす悪事のこと。
キュー・クラックス・クラン団
初めてその名を聞いたのは
映画「風とともに去りぬ」
スカーレットの2度目の夫が入団していたと思う。
黒人差別の秘密結社が現在でも存続するというのは
時代が危ういからだと思う。

銃でうたれたユダヤ人の職人、井戸に毒を入れられようとした黒人の少女。
それらがみなクラン団によって引き起こされている。
誰かを差別して自分は優越に浸る
そういう人間関係が戦争を引き起こすのだと思う
南北戦争もベトナム戦争もイラク戦争もみな差別からくる戦争だ

作者の言おうとしていることが
陰に色濃く表れていて見逃すことができない。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            


2004年07月26日(月) 夜明けの風

ローズマリ・サトクリフ作
灰島かり訳
ほるぷ出版

ローマンブリテンシリーズの最終刊
いるかの紋章つき指輪を持つアクイラの子孫は
サクソン人が南ブリテンに王国を作ろうとしている時代に生きた
ブリトン人の少年、オウェイン
ブリトン人がサクソン人に抵抗した最後の戦で
生き残り、逃亡する途中で少女レジナ出会う

出会いは突然、それも物乞いのようなレジナの態度に
嫌悪感を感じるオウェインなのに
少女を見殺しにできない
彼女が熱病にかかったときも、
自分だけ逃げるということをしない
そればかりか、自分の自由を売って彼女を助けるのだ
奴隷になったあとでも主人とその家族のために
尽くしてしまう。
これまでのアクイラにはない生き方だ。

オウェインの生き方
それは自由になれるはずの道を周りの人のためにいばらの道に
取り替えてしまう、そういう自己犠牲的な生き方だ。
ブリトン人としての誇りは胸の奥深くにしまいこみ
今自分が生きている世界でどう働くか
それが彼の誇り、生きる糧になっているようだ
そのためにさまざまな苦労をするオウェインだが
それがかえって、周りをつき動かしていくのがいい。

主人のベオンウルフが息子を託して死ぬ場面
ならず者のバディールの死
ブリトン人エイノン・ヘンの一語一語
それらがオウェインを揺り動かすけれども
彼の胸の奥にしまっていた信念は
レジナを迎えに行くこと
ブリトン人としてのアクイラの誇りを忘れず
自由の道を行くこと
自分が住むべき場所を見つけることだったのだと思う

最後にレジナと再会して
いるかの指輪を取り戻す場面が感動的だ


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