やんの読書日記
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2003年05月01日(木) |
十二国記 月の影影の海 |
小野不由美 講談社X文庫ホワイトハート
スケールの大きい異界ファンタジーだ 十二国の王は麒麟によって決められる その麒麟は王に忠誠を尽くすのだけれど 王が暗愚だと国は滅んで麒麟も死ぬ 麒麟が死ねば王も死す 十二ある国はお互いを蹂躙してはいけない そうなれば天命にそむいたことになり その国は滅ぶ。 どこかの国の誰かに聞かせたい言葉だ。 中国的な儒教精神が息づいている物語だけれど、主人公の陽子は、現代の女子高生 異界の子どもに生まれるはずだったのに 触という変動によって倭国(日本)に流されて、現代の日本人の子どもとして生まれ育ってしまった。 十二国のなかの慶国の王として麒麟が選んだのか陽子だったために物語が始まる。いきなり異界につれてこられて妖魔におそわれ、逃げながら自分の真実の姿を知る陽子。 慶国の王はいつわりの王であるため、国が滅びかけている。 麒麟のケイキを捕らえて、真の王である陽子をもとらえようとする隣国の王。そこには天命にそむいて滅び行く自分の道連れを陽子に仕立てた、浅はかでおろかな人の姿がある。 陽子自身も、もとの世界に帰りたい一心で、自分が王である事から逃れようとして浅はかな行動をとってしまう。 天命と徳に彩られて、栄えるはずの国が滅び行く。それはいったいなぜか。 この先の続編が楽しみだ。
ローズマリ・サトクリフ作 ほるぷ出版
ケルトの原典。アイルランド神話の中心クーフリンの物語。 クーフリンといえばアイルランドの戦争「牛捕り」が有名で、 サトクリフのオリジナルにもところどころ出てくる。 太陽の神、槍のルガの息子クーフリンは力と知恵の英雄。 クランの猛犬という名前の通り、猛犬を素手で殺してしまうほど。 牛捕りで、クーフリンをわなにかけた女王メーブの書き方が、 闇の女王ボーディッカと王のしるしのリアサンにそっくりで驚いた。 完全に配偶者である王をないがしろにしているからだ。 同じアイルランドでも、メーブのいるコノハトは女系社会。 クーフリンのアルスターは男系社会。というのがよくわかる。 彼の武器は女戦死アイフェから譲り受けた魔法の槍ゲイ・ボルグ。 危険な槍で殺してしまったのは、親友と実の息子の二人だけだった というのが運命的で悲しい。この部分が、アーサー王によく似ていて、 何か関連がありそうな気がする。 自分の名前にかけて、犬を食べないという禁忌を守り通したクーフリンが 最期のときになって、犬の肉を魔女にすすめられるままに食べてしまう。 渡し場で血のついたものを洗う老婆。それがケルトの英雄の死を現す。 これを見たらどんな英雄でも運命は変える事ができない。 ケルトのどんな魔法も英雄の死を覆すことができない。 悲しいのに立派ですがすがしい、 それがケルトの戦士なのだろう。
2003年04月14日(月) |
シェイクスピアを盗め! |
ゲアリー・グラックウッド 白水社
芝居の台本を盗んで、別の芝居にかける。と言う事があったらしい。 著作権がない時代なので、盗まれたら損、 盗めばおおもうけと言う事になる。少年ウィッジは孤児だったけれど、 速記術を学ばされてその能力のために身を売買されて、 シェイクスピアのハムレットを速記させられる羽目に・・ 速記をした手帳がなくなり、どたばたのなかで ウィッジは少年役者の見習いになる。 台本を盗もうとしながらも、どうもそれができない彼。 知らないうちに宮内庁一座の人々と心を通わせていくところが 読んでいてなんだかうれしい。 それは孤児だった彼が、友達家族、信頼といった人としての愛情に 目覚めていくからだと思う。 特に同じ年頃のサンダーやジュリアンとの駈け引きがさわやかだ。 サンダーに「友達だろ?」と初めて言われてとまどっていた彼も その意味に気づいていく。 女である事を隠して役者になりたがったジュリアンが 役者を追われたときに思った同情心。 そう言うものがウィッジの成長を物語っているようだ。 続編「シェイクスピアを代筆せよ!」を先に読んでしまった。 この後にサンダーがペストで死んでしまうのがわかっているだけに、 ウィッジの出会いが 印象的に思えてしまった。
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