やんの読書日記
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2003年01月12日(日) 闇の女王にささげる歌

ローズマリ・サトクリフ作 評論社

サトクリフの女性を主人公にした話はこれが初めてだった
イケニ族の女王ブーディカがローマの支配に抗って戦いを起こし、
一時期はローマ化された町を焼き尽くしたが
結局、ローマ軍団の組織力と統率力に敗れる。
ローマ人として、軍人としての誇りをえがいた
ローマンブリテン4部作とは全く反対の立場の
征服されるものがここでは描かれている。

ケルト人を制圧するはずだった第九軍団があとかたもなく消え、
軍団のワシが消えるという事件があった。
この事実が本書に書かれていたのを見てあっと驚き
「第九軍団のワシ」をもう一度読みなおすことになったが、
ボーディッカの名でこの女王の名が出ているのに気がついた。
ローマとの平和的友好の引き換えに武器を奪われ、
戦士を差し出すことを強制させられる。
それはローマがケルト人をさげすんでいたことの証拠だと思う。
抵抗すれば家を焼き畑に塩をまくという徹底したやりかたに
ブーディカが挑んだのは、民族の叫び、
勇気と誇りの表明だったのだと思う。

「ケルトの白馬」でイケニ族は民を生かすために、
別天地を求めて旅立った。
その後でこの事件が起き、
イケニ族はちりぢりになったのだろうか
ブーディカのように最期をとげたものもいただろうし
第九軍団のワシのコティアのように、
ローマ人と連れ添って生きていくものもあっただろう。
どのような生き方をしても、
誇りだけは失わない人物がサトクリフ作品の骨になっている。

父の剣を最期までたずさえ、
ケルト人の先頭をいくブーディカの姿が焼きついて離れない


2003年01月02日(木) 落日の剣

ローズマリ・サトクリフ作  原書房

落日の向こうへ行く、と言うのは死を示す言葉
アーサー王、大熊アルトスの最期が
わかり切っているだけに、逆に明るい兆しが現れないだろうかと
一縷の望みを抱いてしまう。
アルトスの滅亡の原因は二つ
イゲルナとの罪の関係によって生まれたメドラウト
妃グエンフマラと親友であり忠臣であるベドウィルの不倫

イゲルナとの関係が壊れようとするとき
なぜあんなにももどかしい態度を取るのだだろう
悪の根源とわかっていながら自分がまいた種だとして
メドラウトを包含してしまうのはなぜなのか
そこにはどうすることもできないしがらみに
自信喪失のアルトス、弱い人の子アルトスがいた

九頭の馬の下に眠る黒い媚人の少女
サクソンによって殺された少女をアルトスが手厚く葬り
黒い人たちを味方につけたシーン。
この墓の跡が実在すること。
アーサーのモデルとなった人物が必ずいると信じていた
私にとってこの本は、その思いを確実にしてくれた

ともしびをかかげてに引き続いて登場するアクイラ、フラビアン
アンブロシウス。彼らがいつかはブリテンに闇が訪れることを
知りながらなお、ともしびをかかげてサクソンと戦う
その誇りあふれる動きがアルトスに結集されて
今に伝わるほどの英雄伝となったのだろう。

これまでに読んだどのアーサーよりも力強く誇り高い王。
うらはらの、人間的な王の姿に感動の嵐が吹き荒れている


2002年12月25日(水) アネイリンの歌

ローズマリ・サトクリフ作 小峰書店

ケルトの戦の物語と副題つきのこの物語、古詩「ゴドディン」
イギリスにサクソン人が押し寄せてきた
600年代のスコットランドの王国 ゴドディンの戦いが
竪琴ひきのアネイリンによって語り継がれてきたものらしい。
サクソン人が押し寄せてきた頃に活躍した人といえばアーサー王。
彼の名はケルト読みでアルトス。
アルトスのしたブリテンの統一がもはや失われたときに、
ゴドディン王が民族300を集めて
サクソン王に戦いを挑み、そして敗れ
たった一人の戦士カナンのみが帰還する。
そう言う内容にサトクリフがその想像力で、
従者として戦いに臨んだプロスパーとコンを登場させている。

ゴドディン王の兵の召集に従って、300の戦士に混じった
ゴルシン王子と主従関係を結んだプロスパーは
王の訓練場で戦士たちと友情を培う。
ケルト人としての誇り高き誓いをかわし、サクソンの王の館を攻める。
攻めたときにはその王はもはや退却していて、
来ない援軍を待ちつつ最後の決戦に出る。
ゴドディン王がケルトの召集状クラン・タラをまわしたのにもかかわらず
同盟国の戦士は来なかった。
ゴドディン王の命令により、
途中まではせ参じた氏族たちが故郷に返される。
その事実を知った最後の生き残り
カナンが感じた絶望のシーンが哀れだ。

カナンの命を救い、アネイリンとともに
ゴドディンに帰還したプロスパーの回想録の形を
取っているのだけれど、アネイリンの歌が
プロスパーによって歌われているといった感じだ。
プロスパーはアネイリンの歌には出てこない人物のはず、
それを語り手にしてしまう
サトクリフの想像力の深さにまた感じ入ってしまった。
全文にまたがる凛とした空気は滅び行くものの
最後の誇りを示しているように思えた。

われこの誓いやぶることあらば
緑の大地開いてわれをのむべし
灰色の海おしよせてわれをのむべし
天の星落ちてわが命を絶つべし

訳者が違っていてすこし表現がちがうけれど
ケルトの誓いは、名文だ



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