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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
カティサーク号復活

火事で閉館を余儀なくされていたロンドン・グリニッジのカティ・サーク博物館が、4月26日再び開館しました。

Cuttysurk relaunches
http://www.rmg.co.uk/cuttysark/

市長の公約通りロンドンオリンピックに間に合う修復、そして、マラソン競技はグリニッチも通過し、ランナーはカティサーク号の真横を駆け抜けるそうです。
ロンドンマラソンのクライマックスは、競技場のファイナル・ラップではなく、トラファルガー広場からアドミラルティ・アーチをくぐり、ザ・マル大通りの最後の直線を走り抜けてゴールですから、これは見ざるをえないか?(でも時差の関係で放送は夜中だから録画?)

しかしカティサーク号は、火事があったから致し方ないとはいえ、超近代的なカバー構造物にがっちり守られて、海上を自在にはしり回った往事の姿を思い描きにくくなってしまったのは、ちょっと残念な気もします。

下記は、女王陛下とエジンバラ公が、開館前日にグリニッチのカティサーク号を訪問なさった新聞記事です。
じつはこの日、新しいロイヤル・バージの進水式がジュビリーで執り行われたので、ご夫妻は午前、午後と船関連の行事に出られたことになります。
ロイヤル・バージもなかなか見応えがありますので、記事の写真をたっぷりとお楽しみください。

Resplendent in red! Queen brightens the gloom as she names Gloriana, the first royal barge to be built in 100 years
http://www.dailymail.co.uk/femail/article-2134915/Queen-brightens-gloom-names-Gloriana-royal-barge-built-100-years.html#ixzz1t5eKsFUo


2012年04月29日(日)
ロシュフォールの復元船

Hermione号は英国海軍にとっては悪名高い叛乱船(※注)の名前ですが、フランス海軍にとっては記念すべき艦の名前です。

フランス艦Hermione号は、1778年にフランスのロシュフォールで建造された、12ポンド砲搭載の小型フリゲート艦で、ラ・ファイエット侯爵率いる義勇軍とともにアメリカ独立戦争に参戦し活躍しました。
このHermione号の復元船が現在、ビスケー湾に面したフランスのロシュフォールで建造中です。
建造中の艦を紹介するYou Tube映像が英語サイトに紹介されていました。
が、この映像、フランスのものなので、字幕や解説はフランス語です。
私の仏語はカタコトですので、解説を求めないでくださいませ。
でも「砲列甲板ってフランスではこう言うんだ」、とか仏語の勉強になりますよ。

French Frigate Hermione
http://www.youtube.com/watch?v=tdNwZwkxk8E&feature=youtu.be

戦隊構造の木組みがとてもよくわかるので、模型を作られる方には面白いでは?
特筆すべきは船底部です。
進水してしまうとここには海水が溜まりますから、私、木造船の船底を見るのは、これが生まれて初めてでしたよ。


※注)イギリス海軍のH.M.S.Hermioneは1780年にイングランド・ブリストルで建造された32門艦、1792年(スピッドヘッドとノアの叛乱の年)に西インド諸島で叛乱が起き、スペイン領の港にてスペイン側に引き渡された。
これを奪還したのが、サプライズ号(当時の艦長はエドワード・ハミルトン)でこのいきさつはパトリック・オブライアンのシリーズでは原作3巻(上)6章に触れられている。
この叛乱のいきさつはダドリ・ポープの「TheBlack Ship(未訳)」に詳しく、ポープはまたこの奪還作戦をもとにした海洋小説をラミジ・シリーズで書いている。


2012年04月22日(日)
ザ・ロープ帆船模型展

ザ・ロープ帆船模型展に行ってきました。
ちょっと傾向が変わったでしょうか?

以前より自由度が上がったというか、以前は軍艦や歴史的に由緒ある船(ビーグル号など)、いわゆる正統派の帆船模型が多かったように思いますが、最近は帆船全般、国も英米仏にかたよらず、アジアもあり、地中海の民間船もあり。
オランダの造船所の夏の風景…というジオラマや、モビール(吊し船のディスプレイ)も楽しく拝見しました。

でも海洋小説ファンとしてはやはりこれにうけてしまいます。
副官ってたいへん。


2012年04月15日(日)
春の帆船模型展

今年の関東の帆船模型展は、東京(ザ・ロープ)、横浜、とも春開催となります。

ザ・ロープ帆船模型展
日時:2012年4月15日(日)〜21日(土)
    15日:12:00〜19:00
    16〜21日:10:00〜19:00
場所:東京交通会館B1Fゴールドサロン(JR有楽町駅前)

詳細は下記
第37回ザ・ロープ帆船模型展


世界の帆船模型展(横浜)
日時:2012年5月2日(水)〜7日(月)
    2〜6日:11:00〜19:00
    7日:11:00〜17:00
場所:クイーンズスクエア横浜クイーンモール2F みなとみらいギャラリー
    (みなとみらい線みなとみらい駅、JR桜木町駅)
詳細は下記
横浜帆船模型同好会第34回世界の帆船模型展


2012年04月08日(日)
第九軍団のワシ

渋谷ユーロスペースに「第九軍団のワシ」を見に行ってきました。
西暦120年のブリテン島を舞台にした、ローズマリー・サトクリフの歴史児童文学の映画化です。
私がこの児童文学を読んだのは、まだ世界史を本格的に知る前の中学1年生の時でした。二人の青年の冒険物語として面白かったというのが当時の印象でしたが、今回の映画化に際し再読してみたところ、思わぬ発見がいろいろありました。
世界史を知り、英国の歴史関係小説を30年近く読んだあと読むと、中学1年の時にはみえなかったものがいろいろとみえてきます。

というわけで今日は番外で「第九軍団のワシ」を語らせてください。
前半は、原作再読で発見したことの話、後半は今回の映画の話になります。
明かなネタばれはしませんが、感想から結末がわかってしまう部分があります。
その箇所には***ねたばれ警告***を予告しますので、ネタばれを避けたい方は警告以下の部分をお読みにならないように御注意ください。

映画「第九軍団のワシ」の予告編を見たときに私は「あっ!」と思いました。
下記公式サイトの写真にもありますが、このワシ、このサイトにいらっしゃる方の多くが「見覚えがある」と思われる筈です。

映画「第九軍団のワシ」公式サイト
http://washi-movie.com/index.html

そう、ショーン・ビーン主演のナポレオン戦争の歴史ドラマ「シャープ・シリーズ」に出てくるフランス軍の鷲の軍旗。
ドラマでは第二話になる「Sharpe's Eagle」に登場します。バーナード・コーンウェルの原作では第一巻「イーグルを奪え」に当たります。

原作の児童文学を読んだのは子供の頃だったので、映画を見る前に原作、「第九軍団のワシThe Eagle of the Ninth」を読み返しました。
そしてびっくり。
コーンウェルの「イーグルを奪え」は、サトクリフの「第九軍団のワシ」とネガポジの関係にある。
というかコーンウェルは、読者であるイギリス人の多くが子供時代にサトクリフの「第九軍団のワシ」を読んでいることを想定した上で「イーグルを奪え」を書いてるんだと思います。

「第九軍団のワシ」は2世紀のローマ軍の侵攻したブリテン島の北の荒野で5,000人のローマ兵が軍団の象徴である「ワシ」とともに忽然と消えた歴史の謎を題材にしたミステリーです。
サトクリフの小説の中では、この失踪の謎は以下のように解き明かされます。

***ねたばれ警告***

第九軍団は北への進軍を開始する前から、内部から腐っていた。
司令官は軍人出身ではなく、そのうえ経験ある将校たちの意見に耳を傾ける雅量も持ち合わせていなかった。
軍団からは次々と脱走者が出ていた。敵(ブリテン島の原住氏族)から絶望的な攻撃を受けた兵士たちは、ついに司令官に対して暴動を起こした。しかし叛乱を起こした兵士への処分は十人に一人の処刑と決まっていた。
そこへ敵が襲撃を仕掛けてきた。混乱の中、司令官は兵士に殺された。
有能で勇敢な指揮官だった副司令官は、生き残りを集め、「ワシ」を守って退却しようとした。
彼らは最後まで「ワシ」を守ろうとした。だが数に勝る敵に追い詰められ全滅した。原住民の氏族は戦利品の「ワシ」を翼のある神として祀り上げた。

これどこかで聞いた話だと思いませんか?

十人に一人の処刑を十人に一人の鞭打ち刑に置き換えたら、第九軍団がサウスエセックス連隊、司令官がサー・ヘンリー・シマーソンにぴったり当てはまる。
「ワシ」を守って戦死した副司令官(サトクリフの原作では主人公マーカスの父)がレノックスになり、ワシを取り返す主人公マーカスがシャープに当てはまる。
でも、「第九軍団のワシ」はローマ人の主人公がブリトン人の原住民からワシを取り返す話であり、「イーグルを奪え」はイギリス軍がフランス軍の鷲を奪う物語。

約1700年後にかつてのブリトン人の末裔は、同じようなことをやってることになります。

こんなこと、中学1年で「第九軍団のワシ」を読んだ時には思いもしなかったのですが、
いろいろな小説を読んで人生経験を重ねると、なかなか面白いものがみえてくるものですね。

そんな私は、どうしても映画「第九軍団のワシ」とドラマの「Sharpe's Eagle」を頭の中で比べてしまう。
映画「第九軍団のワシ」は細部がちょこちょこと原作とは異なっています。
原作よりもより深く、ローマ人のマーカスとブリトン人のエスカの人間関係にフォーカスした物語になっているのですが、原作にはないセリフがあったりする。

マーカスとエスカは対立から始まり、旅の途中で互いを理解し信頼しあうようになるのですが、その理解が原作とは少し、方向性がずれている気が私にはして、そこがちょっと気になるところでしょうか?

***さらにネタばれ警告***

映画では最後にマーカスは黄金の「ワシ」を掲げ、「この『ワシ』の名誉のために命を落としたローマ人とブリトン人のために」と言う。
映画だけを見た人には、それが相互理解、またはローマ人とブリトン人の共有する価値観の一つの形のように見えるだろうと思います。
でも私は、それは原作とは違うんじゃないか?と思うんですよね。

原作ではマーカスが取り返した「ワシ」は既に黄金の輝きも失い、羽根ももげた姿になっている。マーカスは父と第九軍団の名誉を取り返したけれども、それで第九軍団が復活するわけではない。マーカスは報償として土地を貰えることになるが、故郷ローマではなくブリテンの土地を希望し、ブリテン人の娘と結婚してこの地に土着することになる。
土着ということがもう一つの理解と融和の形なんだけれども、

映画ではそれが栄誉だけで終わってしまう。そこに抵抗感があるんです。
「ワシ」を奪い返す途中では多くの戦いがあり、大勢の人が死ぬ。子供すらも。
それを見ていると私は、「Sharpe's Eagle」の最終シーンでルロイ大尉がつぶやいた「その『ワシ』のために、あまりにも多くの血が流れ過ぎた。デニーも死んだ」というセリフを思い出してしまう。デニーというのは、少年士官候補生のこと。

あの時ルロイの感じていた虚無感を、映画「第九軍団のワシ」を見ていた私も感じました。
こちらの映画でもあまりにも多くの血が虚しく流れ過ぎていると思う。
ここで「Sharpe's Eagle」を持ち出すのは筋違いだということは良くわかっているけれど、「第九軍団のワシ」が名誉の価値観を共有し、栄誉の達成をして偉業を達成しましためでたし、めでたし、で終わってしまうのは、原作の価値観とは違うような気がするのですが。

その一点をのぞけば、後はとても良く出来た歴史映画だと思いました。
マーカス役のチャニング・テイタム、エスカ役のジェイミー・ベルは素晴らしいし、アクイラ叔父はドナルド・サザランドだし、グアーンがマーク・ストロングなのはベスト・キャストでしょう。
あの「リトル・ダンサー」の名子役ジェイミー・ベルが、こんな渋いてアクの強い青年に成長したのはびっくりでした。複雑な背景を持つエスカにはぴったりだったし、今後もクセのある役をいろいろとこなしていきそう。

舞台となるスコットランドの荒野が印象的です。

歴史映画としては傑作、ぜひご覧になることをおすすめします。


2012年04月01日(日)