Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
横浜の海洋画展と帆船模型展
五月晴れ…には2日ほど早かったのですが、見事な青空の昨日、横浜帆船ツァーに行ってまいりました。 まずは桜木町駅前にて、日本丸の総展帆。 国民の祝日ゆえに、色とりどりの信号端による満船飾です。
続いては隣接の横浜マリタイムミュージアムで開催されている「萩原富吉展」へ。 大正生まれの萩原富吉氏は現在89才、10代前半に日本画家清水豊穂氏に弟子入りし、18才から船の絵を描いて来た職業画家。 横浜港に入港する船の乗組員たちの注文に応じ、絹の布に水彩画で貨物船、客船から帆船まで、あらゆる船の絵を描くのが仕事でした。 外国船を描いた絵には、背景に富士山が描かれたものが多く、船会社の旗や船名が正確に描きこまれています。
戦争中、戦後間もなくは船の仕事が減り、代わりに横浜港に来る外国人たちの肖像画など描いていた時期もあったそうです。 描かれた船の歴史は、日本の歴史そのもの。 海洋画展というより、港ヨコハマの歴史展と言って良いのかもしれません。
展示されている画には、帆船を描いたものが多く見られますが、カティーサークなど外国帆船の絵は日本人に人気が高く、注文も多かったようです。
海洋小説の表紙は帆船画が多く、ジェフ・ハントや勢古宗昭氏など多くの帆船画を見る機会がありましたが、その殆どが油彩で、水彩というか日本画の帆船画は、今回が初めてでした。 水墨の帆船画って味わいがあって良いものですよ。
絹の布に描かれているということと関係があるのかどうかわかりませんが、油彩と比べると水彩(日本画)の帆船は、帆の張力がより強く感じられます。油彩より細かく影がつくからなのでしょうか?
海と船のみならず、横浜港の歴史に興味をお持ちの方には、お勧めの展示会です。 会場内撮影禁止のため、この展示会については写真がありません。あしからずご了承ください。
その後、隣駅関内の、伊勢佐木町有隣堂本店ギャラリーにて、開催中の横浜帆船模型同好会「世界の帆船模型展」へ。 横浜の展示会の面白いところは、1月の銀座・伊東屋の展示会より展示の幅が広く、デコパージュやレリーフなど模型以外で帆船を描いた作品も展示されていること。 また今回は、三次元グラフィックソフトを使用した、船体形状設計の詳細なども展示されていました(下記写真)。
海洋小説ファンとして嬉しかったのは、ダドリ・ポープのラミジの書籍とともに展示されていた当時のフリゲート艦(下記写真)。
そして、 会場となった書籍店、有隣堂ならではの海洋小説バックナンバー勢揃い。ボライソーの5巻など本屋さんで目にするのは本当に久しぶりです。 日頃バックナンバーが見つからないとお嘆きの皆様>この機会に有隣堂で揃えられるのはいかがでしょう?
有隣堂の模型展は5月6日(日)まで。 マリタイムミュージアムの萩原富吉展は6月24日(日)までの開催です。
2007年04月30日(月)
オブライアン9巻、5月10日新刊
オーブリー&マチュリン9巻「灼熱の罠、紅海遙かなり」は、5月10日に発売が決まりました。 これでやっと、10巻までの穴が埋まりますね。 「灼熱の罠、紅海遙かなり(上・下)」 敵の拠点構築阻止のために紅海へ向かうオーブリーらの前に、砂漠地方の灼熱の地獄が! http://www.hayakawa-online.co.jp/product/issue_schedules/paperback/list.html
なんだかこの予告を読んでいると、リチャード・ハワードの「ナポレオンの勇者たち:激戦!エジプト遠征」を思い出すというか、熱砂の砂漠を「み、みず…」と言いながらよろよろ彷徨い続ける話のように見えますが、この話のキモはそこではない…と私は思うのですが、既読の方>ご意見いかが?
砂漠をさまようシーンはそんなに長くはないので、5月の発売日が異常気象で夏日に当たってしまっても、あまり長い間辛い思いをすることなく読み通せると思います。 マルタ島から東地中海、紅海と確かに気候的には暑めのところが舞台となっていますが、カリブ海や南太平洋ほど苛酷ではありませんし、
私が持っている9巻のイメージ…というかこの巻のキモはむしろ、スパイのマチュリン先生、諜報部員らしく活躍…というもの。 この巻は、オーブリーを主人公とした海洋冒険軸とは別に、マチュリンを主人公としたミステリー軸があり、2種類のストーリーが上手く融合した進行になっていると思います。
ゴールデンウィーク明けをお楽しみに。
2007年04月22日(日)
本日から横浜で、展覧会2題
本日からゴールデンウィークにかけて、横浜で帆船関係の展示会が複数開催されます。
まずは毎年恒例、JR関内駅歩3分の有隣堂伊勢佐木町本店ギャラリーで、本日21日から開催される世界の帆船模型展。 1月に銀座伊東屋で開かれる展示会よりは規模が小さいですが、横浜の展示会は会員の方の個性というか手作り感がにじみでてくるようで、私は楽しみにしています。
有隣堂 帆船模型展 http://www.yurindo.co.jp/info/2007hansen_mokei.html
また今年は、時を同じくしてやはり今日から、横浜マリタイムミュージアムでも海洋画展が開かれるようです。
日本丸メモリアルパーク・横浜マリタイムミュージアム http://www.nippon-maru.or.jp/
ゴールデンウィーク中は日本丸の展帆も2回予定されていますし、これにあわせて訪れてみるのも良いのではないでしょうか。
2007年04月21日(土)
ローズ(サプライズ)号船長のシアトル講演会
M&Cの映画で、サプライズ号役を演じたローズ号の船長をつとめたAndy Reay-Ellers船長の講演会が、先週日曜に米国シアトルで開かれたそうで、その記事がシアトル・タイムズ紙に掲載されていました。
シアトル・タイムズ紙 2007.04.09 http://archives.seattletimes.nwsource.com/cgi-bin/texis.cgi/web/vortex/display?slug=shipcaptain09&date=20070409&query=Sailor%27s+sea+stories+include+Hollywood
シアトルのレイク・ユニオン・パークでは「海を舞台にした芸術・冒険・ロマンス」と題した講演会が毎月1回ひらかれているそうで、今月のゲスト講演者がReay-Ellers船長だったというわけ。 なんだか面白そうですね、この講演会。海の向こうですから気軽には行けませんが、シアトル近郊在住の方がいらっしゃいましたら、おすすめかもしれません。
船乗りになって25年、貨物船、客船から帆船まで様々な経験を持つReay-Ellers船長も、映画製作にかかわるのは初めて。 映像には「実写」と「コンピュータ・グラフィク映像」の2種類しかない、と思いこんでいた船長と、帆船の帆は「総展帆」と「縮帆」しか無いと思っていた映画製作者は互いに似たり寄ったりで、結局彼らはお互いの溝を埋め、最高の映像を作り出すべく互いの領域に分け入って協力していくことになります。
Reay-Ellers船長は海上航海時にサプライズ(ローズ)号の船長を勤めるだけではなく、メキシコのセットでの撮影、果てはニュージーランド・ウェリントンでの模型制作や撮影にまで船長として立ち会い、サプライズ号が当時の実在の帆船らしく見えるように細かい指示をしていたとのことです。
実際に映画製作に立ち会ってみなければわからないことだが、スクリーンに写っているのは本当に上の部分だけだ。 実際にその下には信じられないほどの量の細かい裏方仕事がある、と船長は語ります。 ラッセル・クロウは寛大で親しみやすい男だよ、マスコミで定説となっている「暴れん坊」とはまるで違う、とも。
******************************************************: やっと年度末が終わった時には、見たかった映画は全て終わってしまっていました(泣)。 今週水曜にやっと時間ができたのですが、仕事帰りで(精神的に)疲れてもいたので、ウガンダの大統領はパスさせていただいて、かる〜く動物ほんわか映画に行ってしまいました。
「ユアン少年と小さな英雄」 スコットランドの忠犬ハチ公物語というか、19世紀半ばのエジンバラを舞台に、警官であるご主人が亡くなった後その墓を14年間守り続けたテリア犬の物語を、警官に可愛がられていたユアンという貧乏だけどけなげな少年を主人公に描きます。
ストーリーは定番ですし、予想通りの教訓くさいハッピーエンドで、日本だったら間違いなく「文部省特選の春休み映画」間違いなし。 なんだか懐かしのカルピス→ハウス食品提供「世界名作劇場」を見たような…フランダースの犬よりはあらいぐまラスカル? テリア犬が好きで、19世紀のスコットランドに興味があって、マニアなホーンブロワー・ファンの方にはおすすめかも。
第3部「二つの祖国」のアンドレ・コタール少佐役のグレッグ・ワイズと、第2部「侯爵夫人と悪魔」のドン・マサレード司令官役ロナルド・ピカップが出ています。 ワイズは善良なる牧師さん役、ピカップは救貧院の偽善院長。
あーしかし、余所からエジンバラに赴任してきた牧師さんの英語はわかるんですけど、エジンバラ住民たちの言ってることが最初ぜんぜんわからなくって…これが噂に聞くスコットランド訛りって奴なのねぇと実感を持って悟りました。
明日あさってと外出のため、明日の更新はありません。 明日日曜の夜の洋画劇場は「ブラックホーク・ダウン」ですね。冒頭にはヨアン・グリフィスがちらっと出てきます。 ヨアンの演じる役が体調を崩したので、巡りめぐって事務職の筈のユアン・マクレガーが現場に行くことになってしまって、戦闘に巻き込まれるという話なので、ヨアンはさっさと具合を悪くし戦場の本編には出てきません。
ジョシュ・ハートネットはもちろん、オーランド・ブルーム、エリック・バナ、ヒュー・ダンシーなど今現在ハリウッドで活躍している若手の出世作ではありますが、渋い脇役たちも印象的でした。 現場指揮官のジェイソン・アイザックス、デルタのニコライ・コスター・ワルドウ、司令官のサム・シェパード。 ただし、シビアな物語ですし、戦争映画なので惨いシーンもあります(夜9時からの放映なのでカットされてるかもしれませんが)。あまりお茶の間向きではないと思います。
この映画、公開時に米軍アフガン侵攻が重なって、いろいろ議論を呼んだ映画でした。 途上国では反発が強く、上映館が襲撃されるとか、逆に米兵を追い込むゲリラ戦のシーンが実際に反政府勢力のテキストに使われたり、 原作はマーク・ホウデンのノンフィクション小説、ハヤカワ文庫から出ています。 米軍の問題点を鋭くついた原作には、この時代に検討すべき価値があると思うのですが、娯楽色をも加えなければならないハリウッド映画化という過程で、その一部は薄められてしまっていて、その点では残念だと思います。 機会がありましたら、ハヤカワNF文庫の原作を一読されることをお勧めします。
2007年04月14日(土)
M&Cグーグル・マップ
オーブリー&マチュリン・シリーズ14巻までの地図をグーグル・マップ上に表された方があります(英語)。
http://cannonade.net/aubrey.html
「Books」のところから、希望の本のタイトル(1巻から順に並んでいます)を選び、「Apply」をクリックすると各巻の地図に飛べます。 もとは英語のページですが、飛んだ先のグーグルマップは日本語表示になるので、マップの見方は日本版と同じ。 「航空写真」をクリックすると写真を見ることもできます。
各巻一覧のページに戻る時は、左の「Links」の上から2番目の「Spoilers」をクリックしてください。これで戻れます。
このページを作られた方のご本業はマイクロソフトのエンジニアのようですが、 それにしても、凄いファンもいらっしゃるものです。
物語の舞台を個人旅行で旅しようとする方に、この地図便利ですよね。
2007年04月08日(日)
英奴隷貿易禁止法200年
3月25日は英国で奴隷貿易禁止法が制定されて200年の記念日、記念式典が開催されたという記事が日本の新聞にも出ていました。
毎日新聞「奴隷貿易廃止法成立から200年」 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070326-00000017-mai-int
この日にターゲットを合わせたのか、映画「アメイジング・グレイス」のロンドン・プレミアも先週末に開かれたようです。
「アメイジング・グレイス」ロンドンプレミア記事(日本語) http://movies.yahoo.co.jp/m2?ty=nd&id=20070326-00000037-flix-movi
誰かホーンブロワー関係者はプレミアに来なかったのかしら?って英国サイトも探してみたけれど、私は見つけられませんでした。 俳優関係者ではジェレミー・アイアンズが来てたみたいですけど、誰の関係かしらん?
さて、それはともかく、これを機会に存在をアピールしようとしている組織は他にもあり、 その一つが英国海軍。 英国防省のサイトに「英国海軍と奴隷貿易取締」という特設ページが開設されていました。 Royal Navy and Anti-Slavery http://www.royal-navy.mod.uk/server/show/nav.3938
これによれば、1807年の奴隷貿易禁止法成立以降、1866年までの60年間に500隻以上の奴隷貿易船を検挙、奴隷貿易の根絶に寄与したとあります。 西アフリカ海域に海軍力の13%を割き、奴隷貿易船の検挙に当たらせた。 この海域は水兵の罹患率が高く、疾病等で年25%の人員の損失を出していた。 取締の代価は、前世紀の奴隷貿易収入を大幅にうわまわるものだった。 …とあります。
奴隷貿易禁止法を推進したウィルバーフォース議員は、Kさんに教えていただいたところによると、オーブリー&マチュリンの17巻に話が出てくるのだそうです。17巻は奴隷貿易取締をめぐる話なのだとか。
現在のところ日本語訳されている海洋小説で、奴隷貿易をめぐる当時の様子がいちばん良くわかるのは、アレクサンダー・ケントのボライソーシリーズではないでしょうか? 船底の甲板に鎖でつながれ押し込まれた奴隷たち。逃亡を防止するため、航海中に鎖が解かれることはなく糞尿はたれ流し。 奴隷貿易船はその悪臭ですぐ、それと気づかれたそうです。 海軍の水兵たちは、家畜よりひどいその扱いに嫌悪を感じており、1807年以前でも奴隷船を発見すると臨検、積荷の押収(=奴隷の解放)などは行えた模様、ただ1807年の禁止法成立以前は、船主や船長らを検挙する権限が無かったため、実効的な手が打てず悔しい思いをする様子が、ボライソー19巻「最後の勝利者」などには描かれています。
シリーズの後半には、リチャード・ボライソーに好意的な政界の実力者としてサー・ポール・シリトーという脇役が登場しますが、彼は父親の代で財を築いた新興勢力の二代目。 しかしその父親の財が奴隷貿易であったため、ことさらに上流社会では成り上がりとさげすまれ、黒い噂の絶えないあやしげな人物と見られている。 このあたり当時…19世紀初頭の英国の価値観や雰囲気を小説の中からもつかみとることができます。
でもやはり、西アフリカ、海軍、奴隷貿易取締ときたら、 片方の表にひどい火傷を負い、奴隷商人たちに「半顔の悪魔」と恐れられる、ジェイムズ・タイアック艦長。 リチャード・ボライソーの旗艦艦長だった彼は、提督の死後、ふたたび西アフリカの海に戻ったという設定になっていますが、 上記国防省のサイトには、当時の奴隷貿易取締の様子がかなり詳しく述べられています。 読んでいるとどうしても、架空の人物でありながら、タイアックがちらついて困ります。 それだけ印象深いキャラクターだということなのでしょうけれども。
2007年04月01日(日)
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