Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
ナポレオンの密書
「ナポレオンの密書」を入手して読んでおります。 この年齢になって新作を読めるというのは嬉しい。この前にホーンブロワーを読んだのは…えぇと20年前!? その間いろいろありましたよねぇ。 やはり一番大きいのは、英国ITVでのテレビドラマ化ですが。
プリマス港湾司令官がフォスター艦長…じゃない海軍少将と聞いて、にや〜り。 だめだわ。 原作ホーンブロワーがヨアンの顔で出てくることはないんですけど、フォスターはデニス・ローソンの顔で出てきてしまふ。 いやでも「人を小馬鹿にしたような顔つき」と書かれてしまったら、あのベストキャストを思い出さない方が難しいじゃありませんか。 でもフォスター艦長があの性格のままだったら、陸に張り付きの港湾司令官は、現場主義の提督にはお辛いのでわ? フォスターより大幅に温厚な性格のバレンタイン・キーン(inボライソー・シリーズ)でも、現場を離れてのプリマス港湾司令官は寂しそうでしたもの。 …などど、余計な心配をしてしまったり。
それより、最初この小説を読んでいてちょっとわかりにくかったんですけど、 というか今でもちょっとひっかかりはあるんですけど、 ホットスパー号喪失の軍法会議って、何処で開かれたのですか? いやハイバーニア号の艦長室だというのはわかっているのですが、いったい全体ハイバーニア号は何処にいるのでしょう? ひょっとしてこの軍法会議はブレスト沖の海峡艦隊で開廷されたということでしょうか? それは、海峡艦隊だったら開廷に必要な艦長の定足数は満たせるとは思うんですが、
私最初は軍法会議は港内で開かれるものと思いこんでいたので、ここはプリマスだと思っていたのですが、裁定が下った後、乗組員たちがプリマスまで給水艇に便乗すると聞いて、あらら?まだブレスト沖? ホットスパー号が座礁したことになっているブラック・ロック暗礁というのは、ブレスト湾の北側にあたるSt.Mathews岬とウェサン島の間にある暗礁なのですが(M&Cの地図本"Harbours and High Seas"をお持ちの方は207ページの地図参照)。
でも本を読んでいると、それ以外に考えられませんね。 5月20日にはホーンブロワーはまだブレスト沖にいて、それからイギリス海峡を横断してプリマスへ…ということのようです。
この物語の続きが読めないことは何とも残念ですが、致し方のないことではあるでしょう。 作者の創作ノートにあった「スパイになることに良心のとがめを覚える」ホーンブロワーについては是非、その精神状態をフォレスターの筆で読んでみたかったと思いますが、言っても詮ないこと。
トラファルガー直前のヨーロッパ本土へ潜入は、ダドリ・ポープのラミジ・シリーズには2回ほど出てきますが、子供時代をイタリアで過ごし、今風に言えば帰国子女であるラミジには、イタリア人のふりをして正体を隠すことが自然とできましたし、カタロニア人とのハーフであるマチュリンに至っては、このような問題は全く生じません。 ホーンブロワーは、本来のきまじめな性格ももちろんありますが、ラミジやマチュリンと比較すると、そのあたりがやはりイギリス生まれイギリス育ちの生粋のイギリス人なのだなぁと思います。
2007年03月25日(日)
やっと「長州ファイブ」行けました
やっと見に行けました「長州ファイブ」。 もう六本木のシネマートで11:00〜13:10の1回のみの上映になってるんですが、春分の日のお休みにやっと。 これは良い映画です。 幕末・明治のあの時代がお好きな方は是非ぜひ! それから、途上国との技術提携とか技術移転とか、留学生とかと様々な形で関わっていらっしゃる方にも是非ご覧いただきたいと思います。
物語の冒頭は、1862年の生麦事件から始まります。 現横浜市の生麦で、居留地から遠乗りに来ていた英国人男女4人が薩摩藩島津家の大名行列を下馬もせずに横切ってしまい、無礼だとして、うち一人が斬り殺されたという事件、 引き続き、長州藩士による英国公館焼き討ち事件が描かれます。 高杉晋作率いる長州藩攘夷派の中に、後に英国に留学する長州ファイブ…5人の姿も見られます。
けれども本当に攘夷でいいのか?という疑問が彼らの中に芽生える…「敵を知り己を知らば百戦百勝」と佐久間象山に言われたこともきっかけとなって、彼ら5人は夷敵を知るべく英国に密航留学することを決意します。
このあたりの周囲の歴史上の人物たち…寺島進の高杉晋作、泉谷しげるの佐久間象山、原田大二郎の村田蔵六(大村益次郎)が、いい味を出しているんですよね、 高杉は自らを「狂」と称していた人ですが、寺島=高杉にはそのアクが十分にあるような気がします。
ちょっと話が逸れました。 話をSail hoに戻します。そう、船出です。ハウステンボスの汽走帆船「観光丸」が英国商船として登場です(きちんと赤の商船旗が翻ってました)。 帆船ファンとしてはやはり、岬の影から観光丸が出てくるだけで「おぉぉ〜っ」という感じ。 出航時はガフセイルのみ、途中、横帆のフルセイル・シーンや、汽走シーンもあり堪能させていただきました。 途中、英国船員たちが陽気に海の唄を歌うシーンがあるのですが、あれは何の唄なのかなぁ。たぶん有名なシーシャンティだと思うんですけど。 観光丸は、実際のところ幕府海軍伝習所の練習船を復元しているから、商船ではないのかもしれませんが、19世紀半ばということで時代的には間違いはないのでしょう。 あ、そうだわ。あの時代にはもう「ヘッド」って無いのかしらん? おなかをこわした伊藤俊輔がたいへん苦労して用を足していらっしゃいましたが。
そしてトレイラーにもあるロンドン入港シーン。 CGでも当時のロンドンを見ると感激します。テムズ川に帆船があふれているんですよ(感涙)。
鎖国状態;人力と手工業の日本から、産業革命をほぼ終えた英国にやってきた5人には何もかもが驚異の世界、 それはカルチャーショックなどというものではなかったでしょう。 文化のみならず時代の差をも経験しなければならなかったのですから。 映画は、彼らの試行錯誤を丁寧に描いていきます。
後半、物語は5人のうちの一人、グラスゴーに造船技術を学びに赴く山尾庸三にフォーカスします。 海洋ファンにはこれはありがたいです。 どこまで正確に再現されているのかはわかりませんが、当時のグラスゴーの造船所などが登場するのです。 映画はこの山尾が、5年間の留学を終え、グラスゴー大学の教授と造船所の技師たちに見送られて英国を去るところで終わります。
私がこの映画を見たいと思ったきっかけは、歴史的興味だったのですが、今回考えさせられたのは、150年前の歴史ではなく現代のことでした。 山尾は英国人たちに「日本には工業が無い」と断言します。 今の日本は世界一のランクに属する先進工業国ですよね。150年前には全く無かったところから始めて、ここまで来て、そして今は途上国から技術研修生を受け入れていたりする。 技術力というのは、当たり前のようにあるもので、その意味を考えたりすることもないのだけれど、 グラスゴー大学の教授が山尾に送る言葉に「エンジニアは革命家だ」というものがあります。 長州ファイブの5人の留学生のうち、誰でも名前を知っているのは後に政治家になった伊藤博文と井上馨。技術者であった残り3人(山尾、遠藤、井上勝)の名前は歴史の教科書には載っていません。 でも今の日本が何で持っているのかと言えば、工業力と技術力。そのあたりの大切さを今、技術力が軽んじられつつある時代にもう一度、見直した方が良いのではないかしら? などととまぁちょっとまじめに考えてしまった次第です。
まだご覧になっていらっしゃらない方がありましたら是非、おすすめの映画です。
2007年03月21日(水)
ハヤカワ新刊は金曜23日
ハヤカワ文庫NV、C・S・フォレスター「ナポレオンの密書」は、今週金曜日3月23日の発売です。 みなさま忘れずに、書店へGO!
司馬遼太郎の「愛蘭土紀行」にも言及されていた「マックール未亡人の秘密」が収録されていることを願います。 これはアイルランドの1798年叛乱からみの話なのですが、マチュリンもディロンも知らなかった20年前に読んだ時と、彼らの立場を知りアイルランドも旅行した今では、読んだ印象も感想もだいぶ変わってしまいました。
2月〜3月の早川は「冒険小説フェア」開催中だったようで、最寄り駅のU隣堂書店にもフェアの帯をかけられた文庫が平積みされていましたが、 あろうことかフォレスターの「海軍士官候補生」のとなりにファインタックの「大いなる旅立ち」が並んでいて、思わず笑ってしまいました。 古くて苔むしたセリフではありますが、やはり「責任者でてこ〜い」と、 冒険小説フェアにニコラス・シーフォートを加えた方と、この2作品を偶然か故意かわかりませんが隣同士に平積みにしたU書店の店員さんのお二人に、そのココロをお尋ねしてみたいものだと。
そりゃぁ、今回の冒険小説フェアにはハインライン等の青背SFも何冊か入ってましたから、ファインタックが入っていてもおかしくありませんし、中央部にはギャビン・ライアルの「深夜プラス1」と、レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」という冒険小説の古典も、きちんと並んでおりましたけれども。
私はやっぱり、冒険小説というとギャビン・ライアルとか、デズモンド・バグリィとかね。 人的驚異(敵に襲われるとか)もですが、やはり大自然の驚異にも立ち向かわなければならないトコロが、冒険小説のミソであり魅力だろうと思いますので。 最近の冒険小説ジャンルは、IT化しているものが多いですが、クリス・ライアンなどは最先端を行きながらも自然と人間の部分を残していてくれるのが嬉しかったりします。
今週の海外情報紹介は、資料となりそうなホームページのご案内。
http://www.pbenyon.plus.com/Naval.html 英国の個人の方のホームページのようですが、18世紀から20世紀にかけての英国海軍の資料がまとめられています。 米国のオブライアン・フォーラム掲示板で話題となっていました。 資料の宝庫、どこから手をつけたら…という感じですが、ブックマークしておいて、必要に応じて必要なページを参照させていただきたいと思っています。
2007年03月18日(日)
お茶をにごす
今週はちょっと雑談にて失礼。 いま年度末で、今年は予定を10日前倒しているので先週は仕事が大変なことになって、さすがに自分のことに時間を使っている余裕がありませんでした。 趣味の情報収集もほとんど出来ていません。…のでちょい古ネタでお茶を濁させていただきます。申し訳ありません。 来週あたりは復帰できる筈です。
アメリカのAmazon.comに、4月発売のボライソー最新刊がupされました。 イギリスでは1月発売だったのですが、表紙が前号から写真になってしまったので、ちょっと二の足を踏んでいて、 アメリカ版は前号もジェフリー・フバンドの帆船画でしたので、今回はどうか?と思っていたら、 やったわ。アメリカ版は今回も帆船画です。こちらをご覧くださいまし。 オーダー待っていて良かったわ。私は4月末にアメリカ版を購入しますので、入手できるのはゴールデンウィーク頃かと。
ナポレオン戦争時代の海軍を舞台にした歴史ファンタジー(?)「コランタン号の航海」のおかげで、ずいぶんと久しぶりに新書館の月刊漫画誌Wingsを購入しているのですが、 この雑誌に18世紀末の本草学者 平賀源内の漫画も連載されていて、 見ていると源内って、マチュリンと同じnaturalist(M&Cの映画では博物学者と訳されていた)だなぁって思うのですよ。 本草学というのは、薬草学のことだとこれまでは思いこんでいたのですが、対象範囲は薬草を超えているんですね。 源内は石綿を掘り出して実用化するようなことまでやっていますが、これって要するにアスベストだから「露天堀りしたら危ないのでは?」と漫画を読んだ知人が指摘しておりました。
調べてみたら、日本の本草学は博物学とイコールなのだそうです。 18世紀末のあの時代というのは、そうやって先駆的な学者の好奇心が世界を広げていった時代なのですね。 当時の日本は鎖国だったから、珍しい植物も動物も岩石も、この日本国内でしか採取できなかったけれど、 この時代に七つの海に進出していて、珍しい土地に行く機会を得ることができたマチュリンや欧米の博物学者たちは、本当に幸福だったのかも…と狭い日本に閉じこめられて苦悩する源内を見ていると思います。 だって、世界が謎に満ちていた時代なんて20世紀初頭までで、現代はもう珍しい植物とか新種の発見なんて機会は滅多になく、 19世紀半ばまで鎖国をしていた日本が、発見や探検の機会に参加できたのは、19世紀末の30年そこそこなのですから。
まったくの余談ながら、先々週(2月25日)放送のNHK大河ドラマ「風林火山」で武田に攻め滅ぼされた、海ノ口城主平賀源心は、平賀源内のご先祖さまになります。 今年の大河ドラマ、個人的には結構はまっているのですが、これはこのHPとは無関係なので…。
幕末の時代にロンドン留学する若者を描いた映画「長州ファイブ」を何とか見に行きたかったのですが、年度末のこの時期で結局かないませんでした(最終上映が18時台というのは早すぎ(泣)。せめて19時スタートにしてくださいませ)。 アカデミー賞の授賞式で紹介される映画を見ていると、見たいものが山ほどあるのに。 とにかく、きっちりお仕事を終えて、年度末を終えたいと思います。
2007年03月11日(日)
Amazing Grace
アカデミー賞発表の月曜日、今年は他人事だなぁ〜と思いつつ、映画情報で探していたのは、全米映画興行成績でした。 アカデミー賞の結果については、リメイクが作品賞というところにちょっと引っかかりがあるんですけど、でも私まだ「ディパーテッド」を見に行けていませんので、全ては作品を見てから(って何時になるんでしょう? 少なくとも新年度に入ってからですけど、まだやってるのかしら)にしようと思います。
さて、こちらでの当座の問題は、先週末の全米映画興行成績。 18世紀末〜19世紀初頭のあの時代を舞台に、ヨアン・グリフィス主演の「Amazing Grace」が、23日から全米公開になりました。 地味な映画だからトップテンに来ないかも案じていたのですが、何とか10位を確保、ヨカッタ。 …って、私が心配する筋合いではないって、よくわかってるんですけど。でも同じあの時代だし、それにやっぱりヨアンのその後は気になるというか、ホーンブロワーですし。
Amazing Grace 公式ホームページ(英語) http://www.amazinggracemovie.com/
この映画、ノートン社のオブライアン・フォーラム(掲示板)でも早速やはり、話題になっていまして。 公開直後に映画館に出向いた米国のオブライアン・ファン多数。 「良い映画だった。オブライアンのファンはきっと気に入ると思う。見に行くことをおすすめする。ドックヤードと甲板のシーンはリアル。幾つか細かい史実にはずれる点はあるが、全体の歴史考証は忠実」 というのが、掲示板に書き込まれたアメリカのオブライアン・ファンの主な感想です。
オブライアンの小説では12巻と15巻で、マチュリンの患者として顔を見せるクラレンス公爵が、この映画に登場するのだとか。 上記公式ホームページを見ていると、首相の小ピットなども出てきますし、この方はラミジ・シリーズにちらっと出てきたと思いますが、まぁ同じ時代ですから、時代背景を知るには良い映画なのではないでしょうか?
上記ページから予告トレイラーを見ることができますので、当時の議会の雰囲気などちょっとわかるかも。 でもヨアンがホレイショと同じ髪型で(あの時代ですから当たり前ですが)、私服で甲板に立っていると(議員さんの役ですから)、何かヘンですね(笑)。 あ、最後に老けメイクのヨアンもご覧になれますよ。
この映画の日本公開が実現するように祈ります。 配給会社さま>よろしくお願いいたします。
2007年03月04日(日)
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