Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
デイビー・ジョーンズのロッカー
先週発売された原作10巻あとがきで、映画字幕翻訳の苦労が紹介されていました。 なかなか大変だろうとお察しいたします。
私は翻訳を仕事にしているわけではありませんが、業務の必要上から実務翻訳の夜間講座に3年通い、時々は建設分野の専門文献を訳す羽目に陥っております。 それでまぁこういう問題を論じるとどうも、私は実務翻訳モードで考えてしまう部分があって、その分ファンとしては見方が甘くなるきらいがあるんですが。
実務翻訳はとにかく「わかりやすく」がモットー。英文の中身を日本語でわかってもらうのが至上命令。そのためには手段を選ばない…とまでは言いませんが、長文を勝手に切り分けたり、多少の訳語を補ったりもします。 でも、文学翻訳というのは、そういうものではないと思うのですよね。 文学の場合、著者は注意深く単語を選び、文書を切り、英文のトーンを決めていきます。 翻訳文章も当然、このような著者の意図を留意した上で、似たような意味の日本語と、文章構成を探していかなければならないでしょう。 いずれにせよ翻訳者は黒子ですから、全面的に原文筆者に気をつかう作業になり、翻訳者の思いこみや推測に関しては極力慎重にならなければなりません。これは実務翻訳の場合も同じです。
映画の場合はどうなるのでしょう? やはり或る程度は監督の意図に留意し、気をつかった上で、字数制限をクリアしていかなければならないわけですから、これは本当に大変なお仕事だと推察します。 そのうえ、どうも翻訳環境はめぐまれていないらしく、十分な時間がとれない状況のよう。
2002年の夏頃でしたか、「ロード・オブ・ザ・リング」の第一作の字幕翻訳が大問題になっていた時に、英字新聞紙が日本の映画字幕翻訳の現状を問題視する記事を掲載していました。 製作期間が短く締め切りに追われる、という問題はある程度想像していましたが、一番驚いたのは、字幕翻訳者は映画のVTRを、映画会社の試写室しか見ることができないという事情でした。公開前の作品はVTRの持ち出しが制限されるらしいのです。
これはちょっとあまりに翻訳者が気の毒だと思いました。 同じ「Sorry」ひとつをとっても、状況によって「ごめん」にも「すまん」にも「悪かった」にもなりえます。そしてたぶん、最初に映画を製作した監督や、演じた役者さんはその「Sorry」に様々な意図や万感の思いをかけている筈。でも、一度見ただけで、翻訳者がその状況を完全に記憶することはなかなか難しいですから、やはり訳しながらもう一度見て確認したいのが人情ではないかと。
そんなことをつらつら考えながら…、「マスター・アンド・コマンダー」ですが、 海洋モノの字幕翻訳には二つの方法があると思うのです。 日本の観客に気をつかって訳す方法と、監督の意図により気をつかって訳す方法。 この作品、歴史考証の正確さにこだわったウィアー監督は、手かげんせず海洋専門用語オンパレードで攻めていらっしゃいます。 というわけで字幕翻訳の扱いは、このどちらを優先するかで決まってくるのではないかと。
昨年夏公開の「パイレーツ・オブ・カリビアン」は前者でしたね。 かなりの専門用語が、わかりやすい日本語に置き換わっていました。 日本の観客はおそらく、アメリカの観客以上に映画を理解できたのではないでしょうか?
「アラン海に行く」(徳間文庫から出ている海洋小説シリーズ)の著者デューイ・ラムディン氏がその後書きの中で、アメリカの読者はイギリスの読者と違って子供の頃から海洋小説に親しんでいないから基礎知識がない、アメリカ人向けの海洋小説はそのあたりに気をつかわなければならない、というような内容のことを書かれていたのですが、「パイレーツ」では、「hands before the mast(平水夫)」とか「club-hauled(捨て錨で回頭)」とか「be lost to Davy Jones Locker(海のもくずと消える)」とか、海の言葉がぽんぽん出てきます、果たして普通のアメリカ人、どこまでわかるものなのでしょうか。(( )内が日本語字幕の訳です。) 先の緊迫したシーンで、「え?デイビー・ジョーンズ(Davy Jones)って誰?」と思ったアメリカ人はきっといた筈。 そのあたりを考えると、一見娯楽作でご都合主義(なぜ2人で大型帆船が操船できるの?)に見えながら、英語版のセリフに関してはこの映画、結構アメリカ人観客には不親切、と言えそうです。
実務翻訳モードで割り切って考えると、映画の中の海洋専門用語って2種類あるのではないかと思うのです。 観客が意味をわかっていなければならない専門用語と、聞き流しても良い専門用語。 聞き流しても良いものは、ムリにわかりやすい日本語に訳す必要ないでしょう。ウィアー監督の意図通り、本来のバリバリの専門用語そのままで構わないと思います。艦が回頭するタイミングさえわかれば良いのであれば、「おもかじ」は「右(この時代は左?)に舵をきれ」ではなくても良いでしょう。 「おもかじ」の方が本物らしく聞こえますし、なにより本物に聞こえることがウィアー監督のねらいなのですから。
ただ、観客が意味がわかってないと困るもの、例えば「パイレーツ…」でウィル・ターナーが銃を自らの顎に当てて叫ぶ「I'll pull this trigger to be lost to Davy Jones Locker」みたいなものは、やはり日本語に訳出した方が良いのではと思います。 もっともあそこでデイビー・ジョーンズが誰か知らなくても、ウィルは銃を顎に当てているわけだから「(エリザベスを解放しなければ)死んでやる!」って言いたいんだってことはわかりますけどね。 デイビー・ジョーンズというのは、海底をうろついて溺れた水夫を見つけては自分の蔵に閉じこめてしまう人…と子供の頃に読んだ英国の海洋児童文学に書いてありました。余談ながら私にとってショックだったのは、このデイビー・ジョーンズの「蔵」の英語が「ロッカー」だったことなんですが。いやそのずっと私、デイビー・ジョーンズの蔵って、海底に日本の質屋さんの蔵みたいなものがあると信じてたので。 「海のもくずとなる」という字幕訳は上手いなぁと感心します。同じような日本の伝統的言い回しをはめこんでいるわけだから。
10巻のあとがきで言及されていた「艦尾マスト」って、冒頭のシーン?中程?終盤?どこでしょう? ぶっちゃげて言えば、マストが倒れたことだけが問題なら「ミズンマスト」でも良いと思うんですが、倒れたマストの位置が問題になるのなら「艦尾マスト」じゃないかと…と、こうスッパリ割り切ってしまう私は、やっぱり実務翻訳者で海洋小説ファン失格?
どちらかというと私が気にしているのは、「It works as a sea-anchor」というセリフの字幕です。 何処で登場するかは申しません。ねたばれになってしまいますから。でもこれ、結構重要な意味を持つ、観客にはしっかりわかっていてもらわないと誤解を招きかねないセリフなんです。 「海錨として作用する」では普通の人にはわかってもらえないと思います。 「このままでは転覆する」まで意訳してしまいたいところだけれど、そこまでやったらやりすぎでしょうか? 本職の方がこれをどのように訳されるのか、ちょっと楽しみです。
お知らせ:12月7日〜9日付けでケアンズ旅行記をupしました。海だらけではあるものの、個人的な旅行記で、「M&C」本編情報に関係のあるものではありません。いずれケアンズに行って映画を見てみたいとか、グレート・バリアリーフのクルーズ船に乗ってみたいと思っていらっしゃる方には多少なりと参考になるかもしれませんが。
2004年01月31日(土)
アカデミー賞ノミネート
2003年アカデミー賞のノミネート作品が発表されました。「M&C」は作品、監督、美術、撮影、衣装デザイン、編集、メイクアップ、音響、音響効果、視覚効果、計10部門でノミネート、これは「LOTR:王の帰還」の11に次ぐ数です。ノミネート数は以下「コールドマウンテン」7、「シービスケット」7、「ミスティック・リバー」6、「パイレーツ・オブ・カリビアン」6となっています。 アカデミー賞の発表は 2月29日夜(日本時間3月1日)となります。
歴史ドラマのリアル感を出そうとしてこだわった美術、衣装、メイクアップ(水兵の手足や歯を見よ)、撮影(蝋燭光での撮影など)、音響などが評価されているのが、実際に映画を見た者としてはとても嬉しい。 観客に媚びるようなシナリオの改変をせず、1億5千万ドルをかけ、骨太で本物の地味な歴史ドラマを貫きとおしたことは、元手と興行収入でしか映画を評価しない米国の経済紙からは評価されずとも、やはり見ている人は見ていて評価してくれるのだなぁと。 もちろん、クロウとベタニーの熱演はあるのですが、この映画はスターだけで客を呼ぶ映画ではない。それを承知の上で細部を評価し、作品賞としてベスト5に残ったことを感謝したいと思います。 正直言って…コールドマウンテンとどちらが作品賞に残るか、かなりハラハラものだったので。
興行収入だけが映画の評価ではないし、若者にうけるだけが映画の価値ではない。 外国語映画賞に選ばれた日本映画が「たそがれ清兵衛」だというのは象徴的ですね。 一昨年にこの映画が日本で高い評価を得た中に「大人にも見られる映画である」という理由がありました。いつもはあまり映画館に足を運ばない年配者や中年男性の心をとらえた映画であると。 「マスター・アンド・コマンダー」の観客層を見ていると、「たそがれ清兵衛」のこの評価を思い出します。 アカデミー賞のこの評価を受けて、日本での広告宣伝がどう変わっていくのか?興味深く見守っていきたいと思っています。
以下は主要映画関連のノミネート者一覧です(ドキュメンタリー賞などは含まれていません)。
作品賞(Best picture) ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還 "The Lord of the Rings: The Return of the King" (New Line) A Wingnut Films Production Barrie M. Osborne, Peter Jackson and Fran Walsh, Producers ロスト・イン・トランスレーション "Lost in Translation" (Focus Features) An American Zoetrope/Elemental Films Production Ross Katz and Sofia Coppola, Producers マスター・アンド・コマンダー "Master and Commander: The Far Side of the World" (20th Century Fox) A 20th Century Fox and Universal Pictures and Miramax Films Production Samuel Goldwyn, Jr., Peter Weir and Duncan Henderson, Producers ミスティック・リバー "Mystic River" (Warner Bros.) A Warner Bros. Pictures Production Robert Lorenz, Judie G. Hoyt and Clint Eastwood, Producers シービスケット "Seabiscuit" (Universal/DreamWorks/Spyglass) A Universal Pictures/DreamWorks Pictures Production Nominees to be determined
監督賞(Directing) フェルナンド・メイレレス("City of God" Fernando Meirelles) ピーター・ジャクソン("The Lord of the Rings: The Return of the King" Peter Jackson) ソフィア・コッポラ("Lost in Translation" Sofia Coppola) ピーター・ウィアー("Master and Commander: The Far Side of the World" Peter Weir) クリント・イーストウッド("Mystic River" Clint Eastwood)
主演男優賞(Actor in a leading role) ジョニー・デップ(Johnny Depp in "Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl") ベン・キングスレー(Ben Kingsley in "House of Sand and Fog") ジュード・ロウ(Jude Law in "Cold Mountain") ビル・マーレー(Bill Murray in "Lost in Translation") ショーン・ペン(Sean Penn in "Mystic River")
助演男優賞(Actor in a supporting role) アレック・ボールドウィン(Alec Baldwin in "The Cooler") ベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro in "21 Grams" ) ジャイモン・フンスゥ(Djimon Hounsou in "In America") ティム・ロビンス(Tim Robbins in "Mystic River") 渡辺 謙(Ken Watanabe in "The Last Samurai")
主演女優賞(Actress in a leading role) ケイシャ・キャッスル=ヒーズ(Keisha Castle-Hughes in "Whale Rider") ダイアン・キートン(Diane Keaton in "Something's Gotta Give") サマンサ・モートン(Samantha Morton in "In America") シャーリーズ・セロン(Charlize Theron in "Monster") ナオミ・ワッツ(Naomi Watts in "21 Grams")
助演女優賞(Actress in a supporting role) Shohreh Aghdashloo in "House of Sand and Fog" パトリシア・クラークソン(Patricia Clarkson in "Pieces of April") マーシア・ゲイ・ハーデン(Marcia Gay Harden in "Mystic River".) ホリー・ハンター(Holly Hunter in "Thirteen") レニー・ゼルウィガー(Renee Zellweger in "Cold Mountain")
長編アニメーション賞(Animated feature film) ブラザー・ベアー("Brother Bear") ファインディング・ニモ("Finding Nemo") "The Triplets of Belleville" (Sony Pictures Classics)
外国語映画賞(Foreign language film) "The Barbarian Invasions" A Cinemaginaire Inc. Production (カナダ) "Evil" A Moviola Film & Television Production(スウェーデン) たそがれ清兵衛("The Twilight Samurai") 松竹(日本) "Twin Sisters" An IdtV Film Production(オランダ) "Zelary" A Total HelpArt T.H.A./Barrandov Studio Production(チェコ)
美術賞Art direction "Girl with a Pearl Earring" 美術: Ben Van Os 装置: Cecile Heideman "The Last Samurai" 美術: Lilly Kilvert 装置: Gretchen Rau "The Lord of the Rings: The Return of the King" 美術: Grant Major 装置: Dan Hennah and Alan Lee "Master and Commander: The Far Side of the World" 美術: William Sandell 装置: Robert Gould "Seabiscuit" 美術: Jeannine Oppewall 装置: Leslie Pope
撮影賞(Cinematography) "City of God" Cesar Charlone "Cold Mountain" John Seale "Girl with a Pearl Earring" Eduardo Serra "Master and Commander: The Far Side of the World" Russell Boyd "Seabiscuit" John Schwartzman
衣装デザイン賞(Costume design) "Girl with a Pearl Earring" Dien van Straalen "The Last Samurai" Ngila Dickson "The Lord of the Rings: The Return of the King" Ngila Dickson and Richard Taylor "Master and Commander: The Far Side of the World" Wendy Stites "Seabiscuit" Judianna Makovsky
編集賞(Film editing) "City of God" Daniel Rezende "Cold Mountain" Walter Murch "The Lord of the Rings: The Return of the King" Jamie Selkirk "Master and Commander: The Far Side of the World" Lee Smith "Seabiscuit" William Goldenberg
メイクアップ賞(Makeup) "The Lord of the Rings: The Return of the King" Richard Taylor and Peter King "Master and Commander: The Far Side of the World" Edouard Henriques III and Yolanda Toussieng "Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl" Ve Neill and Martin Samuel
音楽賞(Music (original score)) "Big Fish" Danny Elfman "Cold Mountain" Gabriel Yared "Finding Nemo" Thomas Newman "House of Sand and Fog" James Horner "The Lord of the Rings: The Return of the King" Howard Shore
主題歌賞(Music (original song)) "Into the West" from "The Lord of the Rings: The Return of the King" 作詞作曲:Music and Lyric by Fran Walsh and Howard Shore and Annie Lennox "A Kiss at the End of the Rainbow" from "A Mighty Wind" 作詞作曲:Music and Lyric by Michael McKean and Annette O'Toole "Scarlet Tide" from "Cold Mountain" 作詞作曲:Music and Lyric by T Bone Burnett and Elvis Costello "The Triplets of Belleville" from "The Triplets of Belleville" 作曲:Music by Benoit Charest 作詞:Lyric by Sylvain Chomet "You Will Be My Ain True Love" from "Cold Mountain" 作詞作曲:Music and Lyric by Sting
音響効果賞(Sound editing) "Finding Nemo" Gary Rydstrom and Michael Silvers "Master and Commander: The Far Side of the World" Richard King "Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl" Christopher Boyes and George Watters II
音響賞(Sound mixing) "The Last Samurai" Andy Nelson, Anna Behlmer and Jeff Wexler "The Lord of the Rings: The Return of the King" Christopher Boyes, Michael Semanick, Michael Hedges and Hammond Peek "Master and Commander: The Far Side of the World" Paul Massey, D.M. Hemphill and Arthur Rochester "Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl " Christopher Boyes, David Parker, David Campbell and Lee Orloff "Seabiscuit" Andy Nelson, Anna Behlmer and Tod A. Maitland
視覚効果賞(Visual effects) "The Lord of the Rings: The Return of the King" Jim Rygiel, Joe Letteri, Randall William Cook and Alex Funke "Master and Commander: The Far Side of the World"Dan Sudick, Stefen Fangmeier, Nathan McGuinness and Robert Stromberg "Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl" John Knoll, Hal Hickel, Charles Gibson and Terry Frazee
脚色賞(Adapted Screenplay) "American Splendor" Written by Robert Pulcini & Shari Springer Berman "City of God" Screenplay by Braulio Mantovani "The Lord of the Rings: The Return of the King" Screenplay by Fran Walsh, Philippa Boyens & Peter Jackson "Mystic River" Screenplay by Brian Helgeland "Seabiscuit" Written for the Screen by Gary Ross
脚本賞(Original Screenplay) "The Barbarian Invasions" Written by Denys Arcand "Dirty Pretty Things" Written by Steven Knight "Finding Nemo" Screenplay by Andrew Stanton, Bob Peterson and David Reynolds, Original Story by Andrew Stanton "In America" Written by Jim Sheridan & Naomi Sheridan & Kirsten Sheridan "Lost in Translation" Written by Sofia Coppola
2004年01月28日(水)
英国では4月12日にDVD発売
日本では2月28日から公開の「マスター・アンド・コマンダー」ですが、英国では4月12日にDVDが発売になります。 このプレオーダーが既に開始されており、Amazon.ukから予約が可能です。 UK版DVDは「Region2 PAL方式」です。日本ではパソコンでは見ることが出来ますが、テレビに接続されたDVDプレーヤーでは見ることが出来ません(日本のテレビはNTSC方式のため)。 アマゾンUKプレオーダーへのリンクはこちら。
英国の新聞オブザーバーにポール・ベタニーのインタビューが掲載されました。内容は主に映画「ドッグヴィル」に関するもので、「M&C」への言及はごくわずかのため要約の予定はありません。 が、つくづく…ポールって面白い人だと思うので、お暇な方には一読の価値ありだと思います(今回はヘンな写真はついていません)。 I'm just a blond actor, you know? 「ドッグヴィル」に出演することになったのは、Stellan Skarsgardに強制徴募(pressgang=英国海軍さんが水兵を徴兵する時に使う言葉)されたからだ…なんて答えてますので、海軍用語は身についていらっしゃるようで。
「美男美女の美しい写真が見たい」とおっしゃる向きにはこちら、 Love Stories ポールとジェニファー・コネリーのラブストーリーについて。
「マスター・アンド・コマンダー」がノミネートされていた2003年ゴールデングローブ賞の結果は以下の通りとなりました。
映画部門 作品賞(ドラマ部門):「ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還」 作品賞(ミュージカル・コメディ部門):「Lost in Translation」 監督賞:ピーター・ジャクソン(LOTR:王の帰還) 主演女優賞(ドラマ部門):シャーリーズ・セロン(Monster) 主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門):ダイアン・キートン(Something’s Gotta Give) 主演男優賞(ドラマ部門):ショーン・ペン(ミスティック・リバー) 主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門):ビル・マーレー(Lost in Translation) 助演女優賞:レニー・ゼルウィガー(Cold Mountain) 助演男優賞:ティム・ロビンス(ミスティック・リバー) 外国語映画賞:「アフガン・零年/OSAMA」 脚本賞:ソフィア・コッポラ(Lost in Translation) 主題歌賞:「Into the West」(LOTR:王の帰還) 音楽賞:ハワード・ショア(LOTR:王の帰還)
テレビ部門 作品賞(ドラマ部門):24 (Fox) 作品賞(ミュージカル・コメディ部門):The Office (BBC America) 主演女優賞(ドラマ部門):Frances Conroy, Six Feet Under 主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門):Sarah Jessica Parker, Sex and the City 主演男優賞(ドラマ部門):Anthony LaPaglia, Without a Trace 主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門):Ricky Gervais, The Office ミニシリーズ作品賞:Angels in America (HBO) ミニシリーズ主演女優賞:Meryl Streep, Angels in America ミニシリーズ主演男優賞:Al Pacino, Angels in America 助演女優賞:Mary Louise Parker, Angels in America 助演男優賞:Jeffrey Wright, Angels in America
2004年01月26日(月)
ねたばれ無しに10巻を読む方法(下)
引続き、10巻「南太平洋、波乱の追撃戦」下巻について、ねたばれ防止法。 以下の部分を避けてお読みください。
第5章〜第7章 とくに問題なし。
第8章 P.180, 3行目「スティーブンは自分専用の椅子に」〜P.180, 10行目「なら誰も落ちる筈がない。」
第9章 P.198, 16行目「でもまさかマチュリン、」〜P199, 4行目「元へ戻る方向へある程度は必ず行くものですよ。」 P.232, 8行目「もちろん覚えていますとも」〜P.232, 12行目「たのですか?」
第10章 P.253, 5行目「あのひどく不快だった」〜P.253, 10行目「そのどれも手なづけたものだ。」
以上です。 今回のねたばれ防止は主に5巻〜6巻にかけての部分です。ジャックもスティーブンもついついアメリカに居た時の思い出をしゃべってしまうので、困ったもの。この物語の展開上、彼らがボストンに居たことは隠しようがないのですが、前後の経緯や詳細などは、出来れば5〜6巻が日本語訳されるまで知らずにいた方が楽しめるのではないかと。
今回、10巻を読んで、あらためて脚本のジョン・コーリー氏と、ウィアー監督に脱帽しました。 映画のストーリー展開は原作とはかなり異なるのですが、いくつかのエピソードについては形を変えて、挿入箇所を変え、そのまま使っているのですね。とんでもなく複雑なパズルの組み替えが行われています。
でもやはりストーリー展開の必要上、かなりのエピソードや一部のキャラクターが割愛されているのは、残念な限りです。 あぁあのシーンをクロウとベタニーで見たかったのに…(くすっ)。
補足説明が必要な点については、まだこの巻をお読みでない方も多いと思いますので、少々時間をおいて、2〜3週間後にとりあげたいと思っています。
2004年01月25日(日)
ねたばれ無しに10巻を読む方法(上)
早川書房から、映画「マスター・アンド・コマンダー」の原作「南太平洋、波乱の追撃戦(原題:The Far Side of the World)」が発売されました。表紙はラッセル・クロウとサプライズ号、英米版のMovie Tied Edition版「Master and Commander」の表紙を使っています。 ジェフ・ハント氏描く「The Far Side of the World」の表紙はサプライズ号の帆の一部と南太平洋の岩礁という地味な図柄なので、映画版の表紙の表紙で正解だと思いますが、もしMovie Tied Editionの「The Far Side of the World」の原書を買われる予定の方はご注意ください。日本語版「南太平洋、波乱の追撃戦」の表紙は、英米版では1巻「Master and Commander(日本語版タイトル「新鋭艦長、波乱の海へ」)の表紙になっています。10巻「The Far Side of the World」の表紙は艦長中心の異なる絵になっていますので、くれぐれもお間違いのないよう。
さて、この「南太平洋、波乱の追撃戦」、日本では3巻「特命航海、嵐のインド洋」の次に発売されていますが、ご存じの通り、原作では10巻目に当たります。間には4巻〜9巻の6冊分の物語が実は隠されていることになります。 以前に海洋小説系の掲示板で「10巻は読みたいが、4〜9巻のネタバレは困る」という声ご意見がありましたので、ご要望にお応えして、今回は「4〜9巻のネタバレなしに10巻を読む方法」を伝授させていただきます。 …と言っても、私が10巻を入手したのは今日の午前中でして、まだ終わりまで読み切っておりません。でもこういうものは早いほうが良いですよね。うっかり読んでしまってはおしまいですから。
そこで今晩は取り急ぎ(上)巻分のみupします。(下)巻については明日の夜になりますので、「ネタバレは困る」とお考えの方は、恐縮ながら(上)巻を読み終わった後でひとまず本を置き、明日のup(夜になります)をお待ちください。
第1章(P.19〜P.69) 第一章の読み方には二通りの方法があります。(1)細切れにネタバレを防ぐ方法、(2)第二章以下の事情さえわかれば良いとわりきって必要情報だけを得る方法。
(1)細切れにネタバレをふせぐ方法 以下のところを読まないようにご注意ください。 P.21, 10行目「だが裏切られた」〜P.22, 10行目「す募る。」 P.28, 10行目「当の婦人、ローラ・フィールディングは」〜P.29, 14行目「かった。」 P.48, 5行目「送迎艇の舵を取っているボンデンが」〜P.50, 1行目「いた。」 P.54, 2行目「申し分なく看護されている患者を」〜P.57, 14行目「が大変な底力を持っているとは思わない」 上記のほとんど全ては直前9巻のネタバレです。9巻でジャックとスティーブンが別々に取り組んだ任務(海戦と諜報活動)の結果がとりまとめて述べられています。10巻を読むには全く必要のない情報なのですが、ここを読んでしまうと将来9巻が邦訳された時に、全ての種が最初から明かされてしまうことになりますので、ご注意ください。
(2)第二章以下に必要な情報だけを得る方法 こちらは逆に第一章の中から以下の部分だけをお読みください。 P.31, 13行目「あれやこれやの考え事が、」〜P.35, 3行目「艦して、当直士官にこれを見せろ」と言った。」 P.65, 1行目「そんな快報を祝う以上に」〜P.69第一章の最後まで 前巻までの事情は一切考えずに、今回の航海に必要な背景だけを知る方法です。
第4章(P.201〜P.262) 以下のところを読まないようにご注意ください。 P.207,16行目「まったくそのとおりだった。」〜P.208, 15行目「れることだし、」 P.216, 14行目「そうしたところで大差ないですよ」〜P.217,4行目「は単なる幻想、俗信の誤りです」
以上です。第2章、第3章、第5章には、ねたばれ危険箇所はありません。 ジャックがかつてボストンにいたということは諸処で明らかになりますが、これだけでは大したねたばれにもなりませんので、あまり気にせず読み飛ばしてくださいまし。 その他…些細な疑問がいろいろ出ると思われますが(「この牧師のマーティンという人は誰?」とか)、このあたりは来週以降、さしさわりのない程度に解説できればと思っています。
2004年01月24日(土)
雑多な情報いろいろ
本日は雑多な情報をごたまぜにお伝えいたします。 まずは海外雑誌情報から、
Interview with Paul Bettany by Stelllan Skarsgard 英国のインタビュー・マガジンに掲載されたポール・ベタニーのインタビュー。インタビュアーはベタニーと「ドッグヴィル」で共演したStellan Skarsgard。ベタニーとジェニファー・コネリーの間に誕生した男の子の名前の由来になっている俳優さんです。 「M&C」の話題はほとんど無いので要約はしませんが、ベタニー・ファンの方は必見。 ファン以外の方もクリックして写真だけでものぞいてみたら…って女性の私が言ったら「すけべ!」って後ろ指さされるかしら? 一枚はお風呂場の写真なもので。 このインタビュー記事のタイトルのStellan Skarsgard氏の横に「(King Arthur)」とあってリンクがつながっています。これはSkarsgard氏が全米ではこの夏公開の映画「キング・アーサー」に出演されているかららしいのですが、ここのリンクをクリックするとびっくり。「King Arthur」の情報一覧ページにつながっていました。 ご存じの方はご存じでしょうが、この「キング・アーサー」には、英ITVテレビのドラマ「ホーンブロワー」でホーンブロワーを演じたヨアン・グリフィスがランスロット役で出演します。ヨアン・ファンの方はこの情報ページをブックマークしておかれると良いのではと思います。
さて毎月21日は各映画専門誌の発売日ですが、今月発売の各誌、ほとんどが「LOTR:王の帰還」一色で、「M&C」の本格特集は来月のようです。その中で比較的詳しくあらすじまで書かれていたのが「スクリーン」誌でしたが…詳しすぎて大ねたばれになっています。これじゃぁストーリーの6割を語っているじゃないの。 お読みになる方はご注意ください。
さて、現在アメリカでは、「マスター・アンド・コマンダー」の映画公開をきっかけに、ちょっとした海洋小説ブームが巻き起こっているようです。原作2巻「Post Captain(邦訳:勅任艦長への航海)」は増刷が間に合わず品切れ状態のようですし、Naval Institute Pressが出版している当時の解説本は軒並み「品切れ・再販予定不明」。2003年10月29日の日記でご紹介した関連書籍のかなりのものが現在アメリカからは手に入りにくくなっています。 メイキング本やBrian Lavery氏の解説本など英国でも出版されているものは、Amazon.ukから購入されることをおすすめします。英国の方はまだ1〜2日で入手可能な状態のようです。 かくいう私は、12月23日の米Amazonに出したオーダーが、未だに入荷予定未定で発送されていません。う〜ん。まぁドルはこの1ヶ月で3円ばかり安くなったから少しはなぐさめになりますけど、映画のサントラ版なんてグズグズしているようちに日本で発売になってしまいますね。とほほ。
先週の火曜日、ついにオーブリー&マチュリン・シリーズの9巻「Treason's Harbour」を読了しました。ぎりぎりセーフで今週の10巻邦訳発売に間に合ったことになります。 やっと和書が読めるようになったので、「青い地図」を入手しました。これはジャックよりひと時代前のキャプテン・クックの航海を追った旅行記風のノンフィクションです。 クックの第一回南太平洋探検航海には、博物学者のサー・ジョセフ・バンクスが同行しました。このバンクスという人物、「青い地図」を読む限りなかなか魅力的な人物なのですが、「M&C」の原作者パトリック・オブライアンもこの人物には惹かれるものがあったようです。 オーブリー&マチュリン・シリーズの執筆以前に、オブライアンは「ジョセフ・バンクス」の伝記を上梓しています。 ところで、英国版オーブリー&・マチュリン・シリーズの各巻末には、専門家の解説が付されていますが、9巻「Treason's Harbour」の解説は、Louis Jolyon West氏の「The Medical World of Dr. Stephen Maturin」で、当時の英国医学界を紹介したもの。 その解説の中に、このサー・ジョセフ・バンクスが登場します。 マチュリンは英国学士院(Royal Society)との関係が深いのですが、これはカトリックでアイルランド人とカタロニア人のハーフで私生児であるという彼の背景からすると非常に異例のことでした。英国の貴族階級とつながりの深い学士院のようなところは、異端者には厳しいのが当たり前だからです。 にもかかわらずマチュリンが学士院に認められた設定になっているのは、オブライアンが「ジョセフ・バンクス」の伝記作者であることを考えれば当然のことだろう…とWest氏は解説します。ジャックとスティーブンが活躍していたこの時代、実際の歴史上で英国学士院の中心人物だったのがサー・ジョセフ・バンクスだったからです。バンクスは伝統・格式や政治にとらわれない自由な見識の持ち主で、ナポレオン戦争のさ中ですら科学の発展のために、敵国フランスの科学者と交流を試みようとしていました。バンクスであれば、マチュリンの背景がどれほど異端なものであれ、喜んで学士院に迎え入れたであろうと。 さらにWest氏は、諜報機関でのマチュリンの上司サー・ジョーゼフ・ブレインについて、そのモデルはジョゼフ・バンクスではないかと推察しています。 そう聞くと空想の翼は広がりますね。あの昆虫への奇妙なこだわりと言い、少々のことには動じない肝っ玉と言い、今は好々爺のサー・ジョーゼフ・ブレインも、若い頃はきっと、バンクスのようにとんでもない命がけの探検航海に出て、それこそ世界の果てまで旅をしたのではなかろうか。それだけの識見と修羅場経験がないと、おそらく諜報機関の長などつとまらないでしょうし。
サー・ジョセフ・バンクスについてもっと知りたくなって、パトリック・オブライアンの「ジョゼフ・バンクス」を注文してしまいました。 はぁっ、苦労して1年かかって洋書9冊読み終わったばかりだというのに、我ながら物好きなことです。
2004年01月23日(金)
BAFTA(英国アカデミー賞)ノミネート
英国映画テレビ芸術アカデミーによる2003年アカデミー賞のノミネート作品が発表されました。「マスター・アンド・コマンダー」は、作品、監督、助演男優、撮影、衣装デザイン、プロダクション・デザイン、音響、特殊視覚効果の8部門でノミネートされています。 受賞作品の発表は2月15日(日)の予定です。
アメリカで発表される各賞(ゴールデン・グローブ賞など)と比べてみると、「ミスティック・リバー」「シービスケット」「アメリカン・スプレンダー」の評価が低いのですが、これはこの3作品がアメリカ社会の特殊事情を背景としているため、アメリカ人により強くアピールしているのではないかと。 2月の(米国)アカデミー賞がどうなるかわかりませんが、アカデミー賞というと映画の世界選手権のような印象を持ちがちですが、やはりアメリカ人が選ぶ賞ではあるのだなぁと思うのでした。
英国アカデミー賞ノミネート作品は以下の通り。
英国アカデミー賞(BAFTA Awards, British Academy of Film and Television Arts ) 作品賞(FILM) * Big Fish - Bruce Cohen/Dan Jinks/Richard D Zanuck * Cold Mountain - Sydney Pollack/William Horberg/Albert Berger/Ron Yerxa * The Lord of the Rings: The Return of the King - Barrie M Osborne/Fran Walsh/Peter Jackson * Lost In Translation - Sofia Coppola/Ross Katz * Master and Commander: The Far Side of the World - Samuel Goldwyn Jr/Peter Weir/Duncan Henderson
英国作品賞(The Alexander Korda Award for the Outstanding British Film of the Year) * Cold Mountain - Sydney Pollack/William Horberg/Albert Berger/Ron Yerxa/Anthony Minghella * Girl with a Pearl Earring - Andy Paterson/Anand Tucker/Peter Webber * In This World - Andrew Eaton/Anita Overland/Michael Winterbottom * Love Actually - Duncan Kenworthy/Tim Bevan/Eric Fellner/Richard Curtis * Touching the Void - John Smithson/Kevin MacDonald
監督賞(The David Lean Award for achievement in Direction) * Big Fish - Tim Burton * Cold Mountain - Anthony Minghella * The Lord of the Rings: The Return of the King - Peter Jackson * Lost In Translation - Sofia Coppola * Master and Commander: The Far Side of the World - Peter Weir
脚本賞(ORIGINAL SCREENPLAY) * 21 Grams - Guillermo Arriaga * The Barbarian Invasions (Les Invasions Barbares) - Denys Arcand * Finding Nemo - Andrew Stanton/Bob Peterson/David Reynolds * Lost In Translation - Sofia Coppola * The Station Agent - Tom McCarthy
原作付脚色賞(ADAPTED SCREENPLAY) * Big Fish - John August * Cold Mountain - Anthony Minghella * Girl with a Pearl Earring - Olivia Hetreed * The Lord of the Rings: The Return of the King - Fran Walsh/Philippa Boyens/Peter Jackson * Mystic River - Brian Helgeland
外国語作品賞(FILM NOT IN THE ENGLISH LANGUAGE) * The Barbarian Invasions (Les Invasions Barbares) - Denise Robert/Daniel Louis/Denys Arcand * Belleville Rendez-vous - Didier Brunner/Sylvain Chomet * Etre et Avoir - Gilles Sandoz/Nicolas Philibert * Good Bye Lenin! - Stefan Arndt/Wolfgang Becker * In This World - Andrew Eaton/Anita Overland/Michael Winterbottom * 千と千尋の神隠し - 宮崎駿/ 鈴木敏夫
主演男優賞(Actor in a Leading role) * Benicio del Toro - 21 Grams * Bill Murray - Lost In Translation * Johnny Depp - Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl * Jude Law - Cold Mountain * Sean Penn - 21 Grams Mystic River
主演女優賞(Actress in a Leading role) * Anne Reid - The Mother * Naomi Watts - 21 Grams * Scarlett Johansson - Girl with a Pearl Earring, Lost In Translation * Uma Thurman - Kill Bill Vol. 1
助演男優賞(Actor in a Supporting role) * Albert Finney - Big Fish * Bill Nighy - Love Actually * Ian McKellen - The Lord of the Rings: The Return of the King * Paul Bettany - Master and Commander: The Far Side of the World * Tim Robbins - Mystic River
助演女優賞(Actress in a Supporting role) * Emma Thompson - Love Actually * Holly Hunter - Thirteen * Judy Parfitt - Girl with a Pearl Earring * Laura Linney - Mystic River * Rene Zellweger - Cold Mountain
音楽賞(THE ANTHONY ASQUITH AWARD for achievement in Film Music) * Cold Mountain - Gabriel Yared * Girl with a Pearl Earring - Alexandre Desplat * Kill Bill Vol. 1 - The RZA * The Lord of the Rings: The Return of the King - Howard Shore * Lost In Translation - Kevin Shields
撮影賞(CINEMATOGRAPHY) * Cold Mountain - John Seale * Girl with a Pearl Earring - Eduardo Serra * The Lord of the Rings: The Return of the King - Andrew Lesnie * Lost In Translation - Lance Acord * Master and Commander: The Far Side of the World - Russell Boyd
編集賞(EDITING) * 21 Grams - Stephen Mirrione * Cold Mountain - Walter Murch * Kill Bill Vol. 1 - Sally Menke * The Lord of the Rings: The Return of the King - Jamie Selkirk * Lost In Translation - Sarah Flack
プロダクション・デザイン賞(PRODUCTION DESIGN) * Big Fish - Dennis Gassner * Cold Mountain - Dante Ferretti * Girl with a Pearl Earring - Ben van Os * The Lord of the Rings: The Return of the King - Grant Major * Master and Commander: The Far Side of the World - William Sandell
衣装デザイン賞(COSTUME DESIGN) * Cold Mountain - Ann Roth/Carlo Poggioli * Girl with a Pearl Earring - Dien van Straalen * The Lord of the Rings: The Return of the King - Ngila Dickson/Richard Taylor * Master and Commander: The Far Side of the World - Wendy Stites * Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl - Penny Rose
音響賞(SOUND) * Cold Mountain * Kill Bill Vol. 1 * The Lord of the Rings: The Return of the King * Master and Commander: The Far Side of the World * Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl
特殊視覚効果賞(ACHIEVEMENT IN SPECIAL VISUAL EFFECTS) * Big Fish * Kill Bill Vol. 1 * The Lord of the Rings: The Return of the King * Master and Commander: The Far Side of the World * Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl
メイクアップ&ヘア賞(MAKE UP & HAIR) * Big Fish - Jean A Black/Paul Le Blanc * Cold Mountain - Paul Engelen/Ivana Primorac * Girl with a Pearl Earring - Jenny Shircore * The Lord of the Rings: The Return of the King - Richard Taylor/Peter King/Peter Owen * Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl - Ve Neill/Martin Samuel
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さて、年が明けてから、あちらこちらで「マスター・アンド・コマンダー」の記事が散見されます。 私が気づいているだけでも、先週末発売の「ぴあ」「TVガイド」、1月19日発売の「CUT」、この21日に映画専門各誌が発売になれば、さらに記事は増えるものと思います。
19日発売の「CUT」にはラッセル・クロウのインタビュー記事と、試写会情報のところに半ページの映画評も掲載されていました。 この映画評のライターは、原作未読、海洋モノも殆ど見たことはないという方のようですが、評の中でこの映画について、「丁寧なつくり」「人間関係に説得力がある」「海戦も船上での手術も初めて見たが、実際はこのようなものだったのだろうと納得する」と書かれていたので安心しました。 私が納得していたのは、原作や海洋モノの下知識に支えられている部分があるからだろうか…と思っていたので。
この映画によって初めて、海洋冒険モノでの人間ドラマの面白さに目覚めてくれる方がいらっしゃれば、これに勝る喜びはありません。 現在発売中の「日経エンタティメント」誌でも「今年みたい映画アンケート」の比較的上位に来ています。 「王の帰還」の公開2週間後というのがちょっと不利かとも思いますが、逆に東京の有楽町マリオンあたりは「王の帰還」が混んでいるからと言って「マスター・アンド・コマンダー」に流れてくれるお客さんを期待してもいいかな?…なんて。 でも実は私「マスター・アンド・コマンダー」の前売り券を買った時に、「マリオンの日劇1は混雑の場合、全席指定になる可能性があります。その場合は指定券との引き替えが必要になりますのでご承知おきください」と言われました。…どきっ。
2004年01月20日(火)
ジャックとバイオリン(音楽担当トネッティとクロウ)
しばらく前のものになりますが、オーストラリアの「lime light」誌12月号に載ったラッセル・クロウとリチャード・トネッティ(Richard Tognetti)の記事をご紹介します。
First Mates クロウとトネッティの出会いは90年代初めのニューヨーク・カーネギーホールでのコンサートだった。トネッティのオーストラリア室内楽団のアメリカ公演で、アメリカに滞在していたクロウはオーストラリア領事館の招待で会場にいた。 その日はコンサートの最終日で、公演後にはパーティが予定されていたのだが、ドリンクを提供することになっていたスポンサーが突然手を引いてしまった。そのことを知ったクロウはすぐさま領事館のスタッフに現金を渡し、パーティの危機を救ったのだった。
彼らは今や親友と呼べる間柄である。昨年のクロウの結婚式で演奏を担当したのもトネッティだった。 新作映画「マスター・アンド・コマンダー」にトネッティを巻き込んだのもクロウだ。トネッティは映画のサウンドトラック用に作曲し、演奏し、またメキシコに1ヶ月滞在してクロウのバイオリン指導にあたった。
彼らには多くの共通点がある。同い年、根っからのアーティスト、華麗な面をもちながら愛嬌があり、ロマンティックで繊細で暗いむっつり屋。インテリっぽさを見せないが、自信に満ち、自由な心をもって地に足をつけて生きている。 「僕たちの関係は、基本的にはユーモアにもとづいているんだ」とクロウは言う「トネッティには第六感のようなものがあって、それが室内楽団を引っ張りエネルギーを与えている」
映画「マスター・アンド・コマンダー」の中で大きな意味をもつのは、クロウ演じるオーブリー艦長と、軍医スティーブン・マチュリンとの友情である。マチュリンはチェロを弾き、彼とオーブリーとのデュエットは美しく、時に激しくまた哀しく、たいがいは精神を高揚させるものだ。 「バイオリンの演奏というのは、言葉で表現できないものだ」とトネッティは言う。「でなければ、言葉にできないものを表現するもの…かな。言葉の尽きたその先に、音楽は舞い上がる」 物語の中で音楽は中心的な位置を占めている。バイオリンで奏でられる民謡、モーツァルト、ボッケリーニ、バッハ、コレルリ、ヴォーン・ウィリアムズ。 「音楽はただ流れているものではなく、音楽のあるところには意味がある。その場にふさわしい曲が最新の注意をもって選定され、意図的に配されているんだ」 「ピーター・ウィアー監督は音楽の果たす役目を、情感とドラマを盛り上げる手段として音楽が果たす役目をきちんとわかっていた」
映画の出演を決めたクロウはトネッティにバイオリンの指導を依頼するとともに、彼をウィアー監督に紹介した。室内楽団のアメリカ公演を聴いたウィアー監督は、トネッティに映画音楽の作曲を依頼する。 「映画音楽の作曲というのは驚くべき経験だった」とトネッティは続ける。 「いつも僕がやっていることとは全く異なる。いつもは音楽のために音楽を奏でている。だが映画音楽は言葉の代わりに、明らかに情感を伝えるものなんだ」
クロウへのバイオリン指導についてトネッティは語る「僕は友人にバイオリンを教えているのではなく、映画スターに指導しているのでもなかった。僕の生徒は、全てのキーを完全に学び取ろうと決心していた。ふつうの俳優はそこまではやらない。撮影スタッフは当初、一般的なバイオリンの弾き方だけを指導して貰えば良いと考えていた。演奏の細部の撮影については音楽家に吹き替えてもらえば良いと。だが彼は自分の吹き替え役は自分が務めることを望んだ。つまり完全に曲に指の動きを合わせるということだ」
4ヶ月間、クロウは空き時間を利用してはバイオリンの練習をした。それは明け方の5時だったり、一日の撮影が終わった深夜のこともあった。クロウ自身は稽古を「映画のために今までに行ったトレーニングのなかで最も厳しいもの」だと評する。「バイオリンに比べれば、剣劇などたいしたことはない」 「重要なのは、僕がバイオリンと格闘して、理解できたこと。ジャックが愛しているのと同じようにバイオリンを愛せるようになったことさ。ジャックからバイオリンを取り除いたら、彼の複雑なキャラクターを理解することはできないだろう。彼にバイオリンという要素を加えることで、もはや存在しない男の全体像を見ることができるようになるんだ」
2004年01月18日(日)
「M&C」海外(米以外)では堅調な興行成績
Variety誌によれば、アメリカでは観客動員数にやや難のある「マスター・アンド・コマンダー」ですが、海外での興行成績は堅調のようです。ヨーロッパでの評判が高く、敵国とされたフランスでも善戦。もっとも興行成績の良いのはイタリア、続いてイギリス、スペインという順位。現在のところ海外での興行収入総計は7,580万ドル。 全米興行収入が先週現在で8400万ドルですから、合計では1億5千万ドルを上回るわけで、とりあえず制作費分は稼いだわけですね。よかった、よかった。
さてアメリカ・ワシントンDCのスミソニアン博物館では機関誌の12月号に、「Tall Ships & Salty Dogs」と題して、ジャック・オーブリーのモデルと言われる18〜19世紀の実在の艦長トマス・コクランに関する記事を載せています。また原作者パトリック・オブライアンに関する記事も掲載されています。 コクランの記事では、コクランとジャックを比較しながら解説していますが、ここには未訳巻のねたバレが含まれますので、ご注意ください。
Tall Ships & Salty Dogs 本文下の「PDF」という部分をクリックするとPDFファイルで機関誌本文が入手できます。
さて、こちらのHPは海外情報の中継を主にしており、国内情報までは手がまわりませんが、niftyの映画関係ページに「マスター・アンド・コマンダー」の動画の見られるかなり大がかりな特集ページができていますのでご紹介します。
「マスター・アンド・コマンダー」BBスペシャル BBということで、ブロードバンドでない私はお呼びでないわけなんですが(動画は確認できていません)、「インタビュー」のページには概要が日本語でまとめられていますので、読むだけでもためになります。
2004年01月17日(土)
こんなパンフレットがほしい
先日の土曜日、海王丸の出航を見送ったあと、近くのワールドポーターズでお茶しかたがた、ポーターズ内のシネコンに寄っていろいろな映画のチラシを拾ってきました。 その中で「あぁこれはいぃなぁ」と思ったのが、「ニューオリンズ・トライアル」の三つ折りパンフレット。 「マスター・アンド・コマンダー」にもこういうチラシがあったら良いなぁと思います。
このパンフレット、三つ折りの中を開くと、二面の上、三分の一を使って「映画ファン最高のごちそう--名優激突のお楽しみ」というタイトルで、映画評論家の渡辺祥子さんが、ダスティン・ホフマンが演じる弁護士と、ジーン・ハックマン演ずる陪審コンサルタントの法廷内外での対決の見どころを紹介してくださいます。 三つ折りの右三分の一は「ニューオリンズ・トライアルを楽しむために」と題して弁護士の中嶋博行氏が、アメリカの陪審員制度について解説されています。 このパンフレットを見た人は、名優の演技対決にわくわくしながら、陪審員制度に関する前知識もバッチリの状態で、映画に望めるわけです。
この「ニューオリンズ・トライル」アメリカでの公開タイトルは「Runaway Jury」と言って、原作はジョン・グリシャムの小説「陪審評決」。映画賞レースではかなり評価の高い作品でした。 でも最終的にゴールデン・グローブ賞の蓋を開けてみたら、この作品も「Big Fish」も入らなかったのに、「M&C」は入ってしまったんですよね。「M&C」ってそれだけのドラマ性と見応えのある作品なのに…。
「マスター・アンド・コマンダー」にもこんな感じの“読める”パンフレットを作っていただけないでしょうか? ピーター・ウィアー監督の描き出す豊かな人間ドラマと、ラッセル・クロウとポール・ベタニーの名演技にスポットライトを当てた大人向き、映画ファン向きの内容充実パンフレット。 そして右側三分の一には当時の歴史情勢と当時の帆走軍艦の解説など。 これなら観客は、ある程度わかった上で映画館に足を運べると思うのですが。
余談ですが、横浜ワールドポーターズ内のシネコン(ワーナーマイカルみなとみらい)…「M&C」を見に行くにはおすすめかもしれません。横浜新港のすぐ近くにある映画館は、外に出れば汐の香り、対岸には旧日本丸…というわけで、映画の余韻を楽しむには最高の環境です。 ケアンズで映画を見た私は、映画館を出たあとまっすぐ海を見に埠頭に行ってしまいました。 本当にその場にいるような迫力満点の海の映像と、音響効果に浸った後には、やっぱりホンモノの汐の香りが恋しいのでした。
◆昨日の補足 昨日の記事で意味不明であった、「グッドバイ・イレーヌ」ですが、友人のYがこの歌の来歴と歌詞を探し出してくれました(本当にありがとう!)。この歌は20世紀初頭にアフリカ系アメリカ人のLeadbellyという人が作ったもののようですが、現在は英国のフットボールの応援歌になっている模様。その場合Ireneはアイリーンと読むと思われますので、「グッド・バイ・アイリーン」となります。 プレミアリーグなどよくご覧になるサッカーファンの方で、この歌がどのような時に歌われているかご存じの方、いらっしゃいますか? この歌の歌詞はアイリーンという女性に別れを告げる内容のようですが、「Sometime I have a great notion to jump in the river and drown」という一節があるので、強いて言えばこれが「マストから落ちる」と対応しているのかな?…と。
★第9回米放送映画批評家協会賞 「M&C」がノミネートに入っていた全米放送映画批評家協会賞、最優秀作品賞は以下の通りになりました。 作品賞:「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」 監督賞:ピーター・ジャクソン(「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」) 主演男優賞:ショーン・ペン(「ミスティック・リバー」) 主演女優賞:シャーリーズ・セロン(「モンスター」) 助演男優賞:ティム・ロビンス(「ミスティック・リバー」) 助演女優賞:レニー・ゼルウィガー(「コールドマウンテン」) アクティング・アンサンブル賞:「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」 脚本賞:ジム・ジェリダン、クリスティン・シェリダン、ナオミ・シェリダン(「イン・アメリカ」) 若手俳優賞:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ(「クジラ島の少女」) アニメーション賞:「ファインディング・ニモ」 家族映画賞:「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」 テレビ映画賞:「Angels in America」 外国語映画賞:「The Barbarian Invasions」 主題歌賞:"A Mighty Wind", クリストファー・ゲスト、マイケル・マッキーン、ユージン・レヴィー(「A Mighty Wind」) 音楽賞:ハワード・ショア(「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」)
2004年01月12日(月)
船乗りを演じるために(Vanity Fair誌記事より)
Vanity Fair 英国版にたいへん長いラッセル・クロウの記事が掲載されています。 この中から「マスター・アンド・コマンダー」に関わる部分のみご紹介いたします。
The Far Side of the Russell Crowe
ジャック・オーブリーを演ずるにあたって、クロウはまず海への恐怖と船酔いを克服しなければならなかった。彼は少年時代にボートで外洋に出てガス欠になり、漂流した経験があった。ニュージーランドへの船旅では7メートルの波に翻弄された苦い経験もある。 メキシコの撮影現場に行く前に、彼はさまざまな航海を経験し、船酔いを克服しようとした。酔い止めの薬を飲みながらカメラの前に立つことは出来ないからだ。
だがもう一つ問題があった。高所恐怖症だ。そして脚本は彼にサプライズ号の策具を登ることを要求していた。「僕が演じるキャラクターは、マストに登ることに何の問題もなかった。だからもし僕がそのキャラクターを演じられるのであれば、僕にも何の問題は無い筈なんだ」 副長役のジェームズ・ダーシーは、マストのてっぺんまで登るというアイディアに、実際かなり難色を示していた。一時はブルースクリーンで撮影しようかという案も出た。クロウはダーシーに言った。「それでは、画面が安っぽくなってしまう。考えてみろよ。僕だって高いところは怖いしし、その危険性も承知している。でも僕は登るつもりだし、命綱をつけるつもりもない。もし落ちたら「グッド・ナイト・イレーヌ」*になるだけさ。だがここまで体を使って仕事をしてきてわかったことは、ジャックに出来ることは僕にも出来るということだ」 「海面から157ft(52m)、6ft(2m)のうねりに揺れるマストを、ジェームズはしばらく見上げていたが、登ったよ。下りて来た後、彼は僕に尋ねた。『どのようにしたら、気のすすまぬことをやれるようになるんですか?』僕は答えた『そういうアプローチではないんだ。君はエンターテナーとして重要な役を演じているんだから、真綿にくるまれているわけにはいかない。君は役になりきることで人々にエンターテイメントを与えることができるのだから』」
クロウを見守ってきたウィアー監督は、このように評する。「彼は空想家ではないし、芸術の神が下りてくるのを待つようなことをしない。その反対で、彼のアプローチは計算されし尽くされており、また非常に実践的だ。彼は脚本を読み込み、細密に調整していく。私が今までに仕事をした俳優の誰よりも深く、脚本を細部まで検討するんだ。単語ひとつジェスチャーひとつまで」
*訳注)「グッド・ナイト・イレーヌ」は歌の題名だ…というところまではわかったのですが、どのような内容の歌かは調べられませんでした。ご存じの方、ご教示ください。
2004年01月11日(日)
A.G.ブラウン氏の原作映画比較サイト
アメリカにまた一つ、大変ためになるサイトがオープンしましたので、ご紹介します。 ただし、アドレスだけです。 なぜって、これは大変なねたバレ・サイトでもあるからです。
アンソニー・ゲーリー・ブラウン氏は、パトリック・オブライアンの百科事典とも言うべき「Persons, Animals, Ships and Cannon in the Aubrey-Maturin Sea Novels of Patrick O'Braian」(2003年10月29日の日記で紹介)の著者として知られていますが、そのブラウン氏が、映画公開にちなんで、映画と原作を比較対照したサイトを開設されました。
Master and Commander : The Far Side of the World
このサイトでは、各登場人物、艦船について、原作と映画を比較し、その差違を明らかにしています。 また10巻以外から映画に借入されたエピソードについても、その出所を細かく教示しています。 そのためこのサイトは、大ねたバレの最たるもの…全てがねたバレで構成されていますので、とてもではありませんが今この時点で、日本語でご紹介することはできません。 ねたバレを全く気にされない方のみ、その点をよくご承知おきの上でこのサイトをお訪ねください。
さて、話題変わって、 今日は横浜新港まで海王丸の出航を見にいってきました。 午前中に用事のあった私は、果たして1時45分の出航に間に合うかどうかわからなかったのですが、桜木町駅に1時半に着けたので、これは行ける!と、急ぎ足で埠頭をめざしました。 横浜市第二庁舎の角を曲がったとたんに目に入る高いマスト。 マストを見ると、ドキッとしませんか? そして次の瞬間にはワクワクと。 子供の頃、羽田がまだ国際空港だった時代、浜松町から乗ったモノレールが羽田整備場のところで地上に出ると建物の向こうに飛行機の尾翼が見えるのですが、それを見ると子供心にドキっとしたものでした。それが外国へとつながる翼だったから。 私の中では、大型帆船のマストと国際線の尾翼は同じものなのです。
でもこのマスト、よく見ると、私に唯二つわかる信号旗が。 P旗、ブルー・ピーターこと出航旗。思わずさらに急ぎ足。 小説でしか航海を知らないアームチェアー・セイラーの私がわかる信号旗は、P旗とQ旗(検疫船旗)の2つだけ。それ以外の旗って、なぜか小説ではあまり登場しません(後は本格的な信号になってしまう)。 そしてP旗と言えば、常に出港旗を掲げてきたことでビリー・ブルーと呼ばれたというコンウォリス提督…という連想になります。
新港埠頭には、海王丸乗組員の家族の方を中心に、かなり多くの人々が見送りに来ていました。 人混みの中から、先に来ていたFさんを探しだしました。彼女いわく「ちょっと遅れてるみたいなの。よかったわ。まにあって」 タラップを見ると、ちょうどご家族の方が下船中。 私たちが居たのは船首部の横ですが、船首もやい綱の脇で待機している航海士のトランシーバーの音が大きくて、岸壁の私たちにまで出航状況の通信が聞こえてきます。 思わず私…「今はトランシーバーがあっていいわねぇ」と。 本当に船に乗っていらっしゃる方はきっと笑われるでしょうけれど、200年前の小説ばかり読んでいる私は、現代の帆船を見るたびに「今は○×があって便利ねぇ」とつい思ってしまいます。トランシーバーの無い時代は、メガホンで命令を怒鳴っていたのですから。 現代の人間なのに、200年前の状況の方が慣れているとは困ったものです。
家族の下船が終わり、もやいが1本になると、出航旗のとなりに、H旗が上がりました(H旗は水先案内人を乗せているという意味だそうです)。甲板には訓練生が整列し、登り方用意。 タグボートが曳航を始め、最後に残ったもやい綱がはずされます。船首がまわり始めると訓練生が登檣開始。 海王丸の登檣礼を見るのは2回目ですが、等間隔にきちんと揃っていて本当に綺麗です。 見上げるとフォアマストにはニュージーランド国旗。 これは今回の目的地がニュージーランド北島のオークランドだからでしょうか? 気づかぬ間に出航旗が降ろされ、代わりにU旗W旗と数字旗の1番。 よく見ると対岸に停泊する海上保安庁の巡視船にもU旗W旗が上がっています。 家に帰って調べてみましたら、U+Wは「ご安航を祈る」という意味だそうです。出航していく側に数字旗の1番がついている理由はわからないのですが(どなたかご存じでしたらご教示ください。) タグボートの助力で方向転換を終えた海王丸は、汽笛を鳴らした後、ベイブリッジを抜けて出港していきました。
先日の海星のような出航見送りはつらいでしょうけど、今回のようなお見送りは楽しい。自分は行けなくても、あぁこの海は本当にオークランドにつながっているのだなぁと思うと、なんだか楽しい気分になってしまうのです。 空港で飛行機を見て楽しくなるのと同じ気分ですね。 いつか私もオークランドに行けるといいなぁ(そして、南島に行って、ロード・オブ・ザ・リングのロケ地を見るの)。
2004年01月10日(土)
エピック・ムービーと興行収入
「マスター・アンド・コマンダー」については、今のところまだ続編の話は出てきていません。 この一本だけでは諜報員マチュリンの裏の顔を見ることができませんし、ボンデンにももっと活躍してほしい、とは思うのですが、アメリカにおけるエピック・ムービーの今後は厳しそうです。 ハリウッドの現状に関する記事を2本くみあわせでご紹介します。
Big budget movies take hit at the box office Gross Behavior
秋から冬のエピック・ムービーの中で、ビジネスとして成功をおさめたのは「ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還」だけである。 この映画は9400万ドルの制作費で、2億9040万ドルを稼ぎ出した。 だが他の映画を見れば、投資(制作費)は興行実績に見合わない。
「マトリックス・レボリューションズ」は1億7500万ドルの制作費で興行収入は1億3800万ドル。 1億3500万ドルの制作費の「マスター・アンド・コマンダー」は、批評家たちからは絶賛され、アカデミー賞候補に名前が挙がっているものの、現在まだ制作費の61%にあたる興行収入しか稼ぎ出していない。 トム・クルーズの熱演にもかかわらず、制作費1億4000万ドルの「ラスト・サムライ」が得た興行収入は、制作費の64%だ。 「大作映画と言えるのは、実際に利益を上げた映画だけだ。その他の映画は投資対象としては失敗と言わざるをえない」と断言する関係者もいる。
これに対して、各映画会社の経営陣は、アメリカ国内の興行収入だけで映画を判断されることをひどく嫌がる。 映画収入にはDVDやケーブルテレビでの放映、海外での興行収入も含まれるからだ。 だがその一方で、やはりアメリカ国内での興行収入が喧伝されることも確かなのだ。
20世紀FOX社の2003年興行収入を見ると、稼ぎ頭は全米で2億ドルをたたき出した「Xメン2」。「ジャスト・マリッジ」と「フォーン・ブース」は制作費が3000万ドルで興行収入1億ドル、ビジネス的には大成功である。「マスター・アンド・コマンダー」は、正統派の映画作品以外のなにものでもないが、商業的に価値のある作品とはいいがたい。
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ふうっ(ため息)。 やはり続編は難しいのでしょうか? 作品の価値を興行収入だけで判断されてしまうのは、やはり悲しいものがあります。でも一般大衆ウケする映画イコール、ハリウッドの名画ではもちろん無いわけで。やはりアカデミー賞の呼び声が高い、日本では今週末から公開される「ミスティック・リバー」は、アメリカでは6000万ドルそこそこの興行収入しか挙げられませんでした。 確かに、安いの投資で高い収益は商売の基本ですが、しかし、ハリウッド以外で高額の投資(制作費)を投入できるところは無いのが実情ですし。とくにセットやロケにお金がかかる時代もののエピックムービーは、正確に当時を再現しようとすればするほど制作費がかさみます。 なんとかならないものでしょうか。
2004年01月09日(金)
新聞広告の謎
関東地方では1月5日(月)の全国紙に「M&C」の全面広告が載りました。 この広告がまた論議を呼んでいるようです。
問題は紙面左側に掲載されたブレイクニーの母親宛の手紙です。 この手紙、確かに映画本編には全く登場しません。少なくともオーストラリアで上映されている公開版では。 しかしこれは発行部数の多い三大新聞の全面広告ですし、アメリカのショービジネスは著作権や表現にはうるさい筈ですから、この手紙にも何処かに何らかのもとはあるのではないかと。 実際、メイキング本にはスチール写真が掲載されていても本編には無いシーンがありますし、米国版公式ホームページの艦長日記に書かれていても、本編には出てこないエピソードもあります(今年は申年だと言うのに…ってナマケモノは猿ではないのでしたっけ?)。 ですから、編集時にカットされたシーンの可能性もあるでしょう。
ただ、一つだけ明らかに間違いがあって、それはあの手紙の上にあるロケットの黒髪の女性…あれは実はジャックの奥方のソフィーの肖像画なのです(これは映画本編に登場します) あら?ソフィーが黒髪?って。確かに私も映画を見た時にはそう思ったのですが(彼女は確か金髪のはず)。 それともこれは小道具の方の間違い?
ウィアー監督は、DVDで物語を補足するつもりはないと明言しているので、この謎は解けずじまいかもしれませんが、何とも不思議な新聞広告なのでした。
2004年01月07日(水)
ふたりのジャック
こと「マスター・アンド・コマンダー」に関する限り、ロサンゼルス・タイムズという日刊紙は、なかなか着眼点の面白い新聞だと思います。サンディエゴ海軍基地の現役士官に意見をもとめたり、また今回のような面白い記事を組んでみたり…、 まじめな特集を組む東海岸のニューヨーク・タイムズ紙とは対照的。
Masterful Commanders by Lisa Rosen
ふたりのジャックの話をしよう。 ひとりは船長にして指揮官で、見渡す限りの全てを統べる。 いまひとりは落ちぶれた海賊だが、がっぽりお宝を狙っている。 この二人、ジャック・オーブリーと、ジャック・スパロウの間には、どちらの映画にもコロン(:)の後にサブタイトルが付く…以上の共通点があるという。
二人とも血管には海水が流れていて、心から船を愛しんでいる。 ラム酒をこよなく愛する気のいい乗組員たちは、しかし、見張っていないと何をしでかすかわからない。 天性の船乗りの勘に恵まれながら、間抜けなユーモア感覚も共有している。 小粋な剣さばきの達人だが、その長い髪には太陽と海の影響が深く染み通っている(つまりは、がさがさでべとべと)。
海の上で戦ったらどちらが勝つのかはわからないけれど、二人のジャックの戦いは、きっと見物になるだろう。 比べてみると好対照だとわかる二人。でもハリウッドにはいつでも、二人のための場所がある。
◆秋波をおくる オーブリー:この役を演じた俳優は、このために増量したそうだが、その効果はふんぞり返って歩く姿に威厳をつけた位のものだ。 残念ながらこの映画には女性はほとんど登場せず、秋波は美しいブラジルの美女に送る羨望のまなざしにあらわれるのみ。しかし彼には任務がある。だが…、例え彼がどれほど妻を愛しているとしても、映画の中で彼の発した乾杯の辞を耳にした観客は、この士官は紳士か?と疑うだろう。 (訳注:乾杯の辞についてはねたバレのため訳しません。本編をお楽しみに。このシーン映画館でも思わず笑いが漏れてました)
スパロウ:肉付きの良いオーブリーと比べたら、ガリガリ。もしお好みなら、あかに汚れぼさぼさ髪のかぶさる金歯の顔をピシャリとはたいてやりなさい。キャプテン・ジャッキーと名前を変えたら、ちょっとはかわいくなるかもしれないけれども。人を引きつける彼のセクシーな魅力は全く役立たずで笑い飛ばされるだけ。映画の中では女どもには張り飛ばされ続ける彼だけれど、観客の少女たちからは黄色い声が上がっている。
◆お気に入りの叫び オーブリー:「英国のため、故郷のため、拿捕賞金のために!」 スパロウ:「甲板に出ろ! ろくでなしどもめ!」そして、もちろん「飲み明かそうぜ!野郎ども!ヨーホー!」
◆船長の良心をつつく相棒役 オーブリー:愛すべき、だがなかなかに鋭いブルネットの髪の軍医、ドクター・スティーブン・マチュリン。艦長の親友で口喧嘩相手。 スパロウ:愛すべき、だがなかなかに鋭いブルネットの髪の鍛冶屋、ウィル・ターナー。船長の文字通りの喧嘩相手だが救世主。
◆やる気のもと オーブリー:勝利。彼の愛する国王と国と海軍に捧げる軍務。そして彼を出し抜いたフランス私掠船船長に一矢報いること。 スパロウ:自由。彼の最愛のブラックパール号が体現するもの。
◆料理と酒の好み オーブリー:大飯喰らいで酒飲み。妙なプディングが大好き。ラム酒も。戦いが終わった後には夕食会を催すのが何よりの楽しみ。 スパロウ:どうやらラム酒以外は摂取していないように思える。
◆損害を与えた死傷者数 オーブリー:カウント不能。少なくとも剣闘士マクシマスの倒した数よりは多い。 スパロウ:唯一人。ただし死に値する男。
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ちがうのでは? と私に反論なさらないでくださいね。私はただ要訳しただけですから。 同じ海洋モノでも全くジャンルの違うものを比較していますから、ムリは承知の上で。 ま、お遊び、お遊び。
お正月休みが終わり、明日から仕事始め。 ウィークデーはまた更新できなくなると思います。 まぁもはや欧米からは情報も少なくなっているので、今年は各映画賞関連などニュースのみ速報で、その他に関しては週末を中心に今までご紹介しきれなかった11月頃のストックを徐々に要訳していく、という形で対応したいと考えています。
オーストラリア旅行記は、休み中に書き終わりませんでしたので、暇ができましたら(いつのことだろう?)また後日ということで。 よろしくご勘弁くださいまし。
2004年01月04日(日)
歴史考証の仕事--ゴードン・ラコ氏の功績
カナダの日刊紙トロント・スター2003年11月16日およびニューヨークタイムズ紙11月27日より、艦船関係の歴史考証を担当したゴードン・ラコ氏の記事を、2本組み合わせでお送りします。 Battle cry for accuracy トロント・スター紙2003/11/16 The Master Rigger ニューヨークタイムズ紙2003/11/27
ゴードン・ラコは以前、19世紀初頭に英国がカナダ北部Penetanguisheneに建設した海軍基地史跡の保存や資金調達に関わる仕事に携わっていた。予算が限られ、ラコは営業活動に励まざるをえなかった。 その過程で彼はカナダ・オンタリオの映画協会と関わりを持つようになり、CBC製作の「カナダ:人々の歴史(Canada:A People's History」やBrian McKenna製作のドキュメンタリー「1812」にアドバイザーとして助言を行ったりしていた。
ラコ夫妻は昔からパトリック・オブライアンの原作小説のファンだったが、映画化は難しいだろうと話していた。事実、この小説は映画化が実現するまで10年、ハリウッドを漂流していた。歴史・艦船双方に及ぶ歴史考証の複雑さから引き受ける監督がいなかったのだ。
ラコがこの複雑な歴史考証に関わることになったきっかけは、ローズ号船長との電話だった。再艤装が必要となったローズ号ではその資金を提供してくれる後援者を捜していた。そこで私は船長に言ったんだ。「そう言えばオブライアンの小説を映画化とする話しがあったと思うが、どこの映画会社が製作しているんだろう?」と。 これがきっかけとなってラコは映画のプロデューサー、ダンカン・ヘンダーソンと出会い、18ヶ月後にメキシコのFOX社の撮影スタジオに赴くことになったのだった。
当初の仕事は、ローズ号の改装にかかわる技術的助言と、船乗り役の俳優たちへの基礎的な指導だった。だが、ラコは、ヘンダーソンとウィアー監督から、歴史考証全般にも責任を持ってくれと依頼されることになった。 かくして、雰囲気の再現にこだわる完璧主義者ピーター・ウィアー監督と、朝から晩まで現場を離れず自分の演じるキャラクターについてはありとあらゆる情報を求めるラッセル・クロウとの仕事が始まったのだった。
ラコは朝5時から夜10時まで撮影現場に詰め、雨あられと寄せられる質問に回答を与えていった。 質問内容は歴史的な事象から、当時の水兵たちの娯楽(今考えると内蔵のひっくりかえりそうなシロモノ)にまで及んだ。
歴史的正確さにこだわった結果、砲撃音は全て、実際の複製砲を発射して録音された。 砲弾の与える損傷についても、ラコ率いるスタッフは、当時と同じオーク材で船腹を復元し、実際に砲撃して撮影した。その破壊力、木片の飛び散り方など全てがハイスピード・カメラに収められた。
ラコはラッセル・クロウの個人教授も務め、当時の艦長の立ち居振る舞いから知識にいたるまで、それが自然と身につき映画に反映されるように指導した。 「彼ほど熱心に仕事をする俳優は見たことがない」とラコ氏は語る。 クロウの集中力はもはや周知の伝説だが、この映画も例外ではなかった。わずかな時間のシーンにも彼は手を抜かない。艦の候補生たちに六分儀を使った航海術を指導するシーンのために、ラコ氏は4時間もクロウに付き合った。「彼は六分儀を完全に使いこなしたいと言うんだ」とラコ氏。 (訳注:このシーンは本当に1分も無いのです。途中で他の士官が艦長を呼びに来るので、候補生への指導は中断されてしまいます)
ラコ氏はメキシコのFOXスタジオの巨大プールに建造された複製セットのサプライズ号を「フランケン・シップ」と呼ぶが、これはこの複製セットのマストが途中でカットされているからだという。「フリゲートはその策具と下部の横帆だけで十分な推力を得てしまい、プールに船を固定し揺れを起こす油圧装置に負担をかけてしまう」そのため、セットでの撮影したシーンでは、マスト上部をCGIで合成している。もちろん「親愛なる婆さんローズ号(Dear Old Rose)での撮影シーンでは全て自前だ」
この映画に、ラコ氏が最も貢献できたと考えているのは、当時の艦内のヒエラルキーと人間関係を正確に再現したことだった。これはストーリーテラーとしてのウィアー監督の仕事に直接かかわるデリケートな考証作業である。監督はラコに、生き生きとした船上生活の再現を求めた。
「ハリウッド映画は長年徹底的に、水兵たちは士官に絶対服従という概念を植え付けてきたが、実際のところ同程度の比重で士官は水兵たちを頼りにしている。その一体感(sense of community)が、私にとって肝心な点なんだ。我々はそれを映画に表そうとしてきた。それがわかりやすいように脚本も手直しした」 かくして映画には、長期間にわたり閉鎖空間に閉じこめられてきた乗組員たちの絆が反映されることになった。
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この記事、全米公開前後の嵐のような情報洪水の中でざっと目を通し、それっきり内容をコロッと忘れていたのですが、今読み返してみるとつくづく納得…というか、自分の書いた映画の感想を思い出してドッキリ…というか、私ったらすっかりウィアー監督とラコ氏の術中にはまってますね。 でも本当に、この「サプライズ号乗組員の絆」は見事に画面に現れていると思います。
「ハリウッド映画は長年…」というのも、思い当たるふしがいろいろと。アレック・ギネス主演の「デファイアント号の反乱」…はまぁ反乱モノだから致し方ないとしても、グレゴリー・ペックの「ホーンブロワー」とか、どうしても視点が士官に偏ってしまうんですね。 いま猛烈にもう一度見てみたいのは一番最近のハリウッド作品であるメル・ギブスン&アンソニー・ホプキンスの「バウンティ:愛と反乱の航海」なんですが。これどうでしたっけ?
年末にセイル・トレーニング・シップ「海星」が、横浜を離れました。上記の記事にも登場しますが、サプライズ号を演じたローズ号も、3年前には同じような状況にあったのです。幸いにも映画「マスター・アンド・コマンダー」がローズ号を救ってくれましたが、撮影が終了した現在、ローズ号は西海岸のサンディエゴに停泊したまま、母港であるロードアイランド(東海岸)に戻りセイル・トレーニングを再開するめどはたっていないようです。なかなか難しいものですね。
2004年01月03日(土)
オーブリーの時代の海軍について
海外からのニュースが一段落している間に、11月末の公開前後の記事で後日まわしになっていたものを、少しずつ紹介して行きたいと思います。 まずは11月25日の英日刊紙The TIMESから、「マスター・アンド・コマンダー」公開特集として、当時の海軍を紹介した記事。 これは12月31日付けでご紹介したチラシの訂正:士官候補生の実際、に対応する内容ともなっています。
Master and Commander Souvenir この特集は3本の記事から構成されています。
■Nelson's navy by Guy Liardet 勝利は、良く統率され、装備に優れ、勇敢で技量のある大胆な男たちによって勝ち取られるもので、コクゾウムシのついたビスケットや鞭打ち刑や強制徴募隊によって得られるものではない。18世紀の資料は何よりもそれを語ってくれる。
戦時であった1813年に艦隊勤務についていた水兵や海兵は14万2千人に及んだ。これはかなりの数であり、人員確保は重大な問題となった。「強制徴募(農村などに出むいて成人男子を強制的に徴募する)」は徴兵制よりはましな手段、必要悪として世間一般に認めれていた。 1793年から1815年まで続いたフランスとの戦役において、新兵における志願と強制徴募の割合は当初50:50だったが、最終的には25:75に変化した。
平時においてはしかし、海軍は志願兵には困らなかった。志願者にとって海軍の魅力は、逆説的に聞こえるかもしれないが、海上では意外と仕事量が少ないこと、陸の上よりはましな食事、拿捕賞金を得られるチャンス、少額ではあるが確実に支払われる給料、世界各地を訪れるチャンス、愛国心などであった。 海上での厳しい規律は、規則によって上から押しつけられるものではなく、納得づくの協力体制である。帆走船では統率された操帆作業が全てであり、海では全員の安全のために命令は絶対遵守である。
きつい、危険、そのうえ給料の安い職業でありながら、海軍は士官志願者には困らなかった。海軍士官への道は、紳士階級(gentry)の少年たちに広く開かれており、家が裕福であるか否かは問われなかった。将来の士官となる候補生に対しては無料で訓練が施された。少年たちは将来の名声や幸運を夢みて14才未満で海軍に入った。12才になる前に二度の海戦を経験した者もあった。 全ての士官は、例外なく最初は下士官(候補生)としてそのキャリアを開始することになっていた。この時点での階級に少年の生まれた家の社会的地位は全く関係しない。
えこひいきや特権、コネなどは有害なものと考えられ、それらを行使した結果、失敗に終わる例も少なくなかった。 これとは別に、だが勤続の長い艦長は、たいてい若い士官たちの追随者を抱えているものだった。艦長となれば、自分の艦には能力や気心の知れた優秀な士官を確保したいものなのである。若い士官たちは勇気と忠誠をもって艦長に仕え、艦長は昇進の機会を与えて彼らに報いた。
■Horatio Nelson by Colin White (トラファルガー海戦で有名な)ネルソン提督はジャック・オーブリーのヒーローである。ジャックは軍帽の被り方も提督にならっていた。原作小説にネルソン提督が登場することはないが、オーブリーはネルソンその人に会ったことがあるという設定であり、彼の口からその思い出が語られる。 その一つは「戦略にはこだわらず、常に全力で敵に襲いかかれ(Never mind manoeuvres, always go at'em)」であり、今ひとつは「君、その塩をとってくれないか?」という言葉にまつわる身近な思い出である。 訳注:この話しは映画にも登場します。
だが実はこのエピソードには問題がある。 ネルソン提督の旗艦ビクトリー号の軍医だったDr.William Beattyによると、提督は塩が壊血病の原因の一つであると信じており、塩の使用を禁じていたというのである。 また「Never mind manoeuvres, always go at'em」は、長年ネルソンの言葉であると信じられてきたが、最近の研究によると、これは同時代の勇敢なフリゲート艦長コクラン卿の言葉らしいことが明らかになった。 ネルソン提督が海戦にあたり戦法を部下たちに説明したスケッチが、昨年(2002年)発見されたが、このスケッチからも彼が事前にあらゆる面から戦略を検討していたことがわかり、これは彼が決して「戦略にこだわらず襲いかかる」ような指揮官ではなかったことを物語っている。
2005年はトラファルガー海戦から200年に当たる記念の年であり、英国では「SeaBritain 2005」と題した記念の催しが数多く開催されるが、これに歩をあわせ、上記の最近の発見も含めた、数多くのネルソン提督関連書籍の大艦隊(armada)が出版される予定である。
タイムズ紙の特集には上記2本の記事の他に、トラファルガー海戦に参加したBenjamin Stevensonが姉妹に書いた手紙の原文(ポーツマスの海軍博物館に資料として保存されている)も掲載されています。
2004年01月02日(金)
明けましておめでとうございます
明けましておめでとうございます。
お正月の東京は驚くほど静かで、空は青く、夜は星がいつもより多く、綺麗に見えます。 我が家は海からは車で30分ほどですが、この時期は車が少なくなっているため、船の汽笛が聞こえるのです。 1月1日の午前0時、新年を迎えた瞬間に東京港に停泊中の船は一斉に汽笛を鳴らすのですが、これが毎年、新年を迎える合図となります。
さて、ついに2004年がやってきました。「マスター・アンド・コマンダー」日本公開の年です。 地味で、ある意味では玄人好みかもしれないこの映画が日本でどう受け入れられるか、これによって今後の日本における海洋小説の出版やドラマ放映などがどのように変わっていくのかわかりませんが、少しでも多くの方に海洋歴史冒険ドラマの魅力を受け入れていただけることを願ってやみません。
お正月にちなんで、おめでたいニュースのご紹介です。 ラッセル・クロウ夫妻に12月末、待望の第一子チャールズ君が誕生しました。
現在店頭に出ている専門誌「Movie Star 2月号」によれば、クロウはしばらく家族中心に生活を送り、アカデミー賞にノミネートされた場合でも授賞式に出席しない可能性があるとのこと。 この同じ2月号には実は先輩新米パパ ポール・ベタニーの記事も載っています。奥様のジェニファー・コネリーはポールのことを「父親になるべくしてなる人」と評しているそうですけれど、そのポールがまもなく父親になるラッセルに送ったアドバイスは「今のうちによく睡眠をとっておいた方がいいよ」だったそうです。
やっとお正月になって、少し時間もできましたので、以前より宿題となっていた11月17日付「ロンドン・プレミア(後日補足予定)」の補足訂正をすることができました。ご参照ください。 また先日のケアンズ旅行記についても、12月7日〜9日の日付にさかのぼり、このお正月休み中にアップする予定です。
なかなか時間が足りず、十分な対応の出来ないサイトですが、今年もよろしくお願い申し上げます。
2004年01月01日(木)
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