やんの読書日記
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佐藤賢一 中央公論新社
カエサルのガリア戦記8年のうちの最後に当たる空白の時期。 ガリア人の不世出の首長だったウェルキンゲトリクス との攻防。ガリア人とはローマの呼び方で ヨーロッパに古代からいたケルト人のことで 部族ごとにばらばらな動きをしていて ローマ人に征服されてしまう人々のことだ ガリア人攻略の最後に来てカエサルは このウェルキンゲトリクスに翻弄される。 ケルト読みではヴェルチンジェトリクス 子どものころに父を叔父に殺され、母は息子を育てるために その身を売って暮らした。父の意志を継いで ガリアの統一を志す彼は、精神がねじくれてはいたが 戦となれば天才的な能力を発揮して カエサルのローマ軍団を苦しめる。 カエサルを撤退までに追い込み ガリア人の総力をかけてその兵力の数では圧倒的だったのに なぜ敗れ去ったのか。 そして最後は自分の身と引き換えにガリア人の安泰を願うと言う 引き際のいさぎよさ。
作者はヴェルチン側に立ってはいるが その精神のゆがみ方が人間的ではないところに 読み手が嫌気を感じるように仕立てているように思える。 カエサルの描き方も中年のおじさん的だ ところが、カエサルを撃つことに終始しているあいだに 自分の生きかたを見つめなおし 自分の命がガリア人全部と引き換えられると覚悟したときに はじめて人間的に生まれ変わる 最後の引き際のよさにカエサル自身が「自分は負けた」 と感じてしまう。表題どおりにカエサルは撃たれてしまうのだ 塩野七生のローマ人の物語カエサルでは、2人の戦略が手に取るように 詳しく書かれている。ヴェルキンジェトリクスは高潔の志士として カエサルは有能な政治家として描かれているのが相対的だ。
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