やんの読書日記
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2004年03月24日(水) アルフレッド王

アルフレッド王の戦い
アルフレッド王の勝利
CW.ホッジス作
岩波文庫

アングロサクソン七王国を統一したイギリスの王
世界史に登場する実在の人物
名前しか知らなかったが
この二冊を読んで、ブリテンの歴史を
もっとよく知るきっかけになった。

サトクリフの描いたローマン・ブリテンの時代の後
アングロ人、サクソン人がイングランドにやってきて
先住のケルト人を辺境においやり、ローマ人の支配を終わらせ
アングロサクソンの七つの王国を建てる。
その後に、ヴァイキングがやってきてイングランドは混乱するのだが
ウェセックスの王アルフレッドは困難の末にヴァイキングを追い払う。

彼の思想の背景にキリスト教があって
何度も裏切られ、そむかれてもキリストの博愛主義で
乗り越えてしまう。そのうえ、王の威信よりも仲間意識を重んじて
家来に愛される。そういう温かみのある人となりが描かれている。

イングランド南部の丘陵地帯の自然の様子も興味深い
白亜を露出させて丘に描いた「白馬」
満潮時に海になってしまう西部の低湿地
沼の王アルフレッドの再起の土地だ。

三度敵を許し4度目に服従させた諸葛孔明とよく似た
判断をしたアルフレッド。ヴァイキングの王グスルムは最後に捕らえられ
キリスト教に改宗する。ここの部分はかなり脚色してあるみたいだが
なぜ、アングロサクソンがその後世界を席巻したか
わかるような気がした。
けれどもグスルムがアルフレッドに、「おまえの神は理解できない」
というところ。これが本当だし、今でも根強い民族紛争と宗教的対立の
根源がここにあると思った。
世界史は戦争と略奪の歴史なのだろうか。
でもその中に、こういった平和を目指す人物がいたからこそ
感動的で厚みのある世界があるのかもしれない。


2004年03月23日(火) クリスピン

アヴィ作
求龍堂

イングランドの中世が舞台
アスタの息子とだけ呼ばれて
母とともに差別的な暮らしをしてきたクリスピンが
母の死後、領主の執事からいわれなき虐待を受ける

泥棒呼ばわりされ、殺されかけるクリスピンが
牧師の助言によって逃避行を始めるのだが
途中で出会った旅芸人の親方熊の弟子になることで
かわっていく。

母の存在自体がなぞ
クリスピンの出生になにか秘密がありそう
熊って何者
執事はなぜ執拗にクリスピンを追うのか

いろいろななぞが、一人の女性の告白によって
あっという間に解けていく
熊こそがクリスピンの秘密を早い段階で知っていた張本人だった

クリスピンを守ろうとする熊
それがなぜなのかよくわからなかったけれど
世界史に出てくる「ワット・タイラーの乱」
が背景にあることを知って熊の行動が
自由と平等を求める理想主義者だということを知り
やっとこの物語の本質がわかった。

熊との旅の途中でどんどん変わっていくクリスピン
そう仕向けていった熊が、始めの印象と変わって行くのが
よかった。


2004年03月13日(土) 夢の守人

上橋菜穂子作

人がこの世をはかなんで、夢の世界に生きたくなるとき
その夢を栄養にして花を咲かせる
夢に取り付かれた人は、この世では目を覚まさずに
死んでゆく。

呪術師タンダの姪
新ヨゴ皇国の皇太子チャグム
ヨゴ皇国の第一妃
彼らがみんな眠りから覚めなくなってしまう

それは会いたい人に会えない悲しみ
大事な子どもを亡くした悲しみからくるもの
タンダは、姪を助けようと花の宮へしのんでいくけれど
体を花守に奪われてしまう。

花守に奪われたタンダの体がバルサを苦しめる
体を傷つければタンダは二度と戻らないから
タンダを大事に思うバルサ
バルサを母親のようにしたうチャグム
自分の生まれ育ちを超越して、呪術師になったけれど
失った子どものことを忘れられずに
あやうく夢にとらわれそうになるトロガイ
そういった登場人物のこころ模様が危うい。

夢の中にいたいと思う人の弱さ
それでも生きようと思う人の強さ
そんなものを感じた


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