やんの読書日記
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主に使い魔として使われるだけの霊狐野火と 聞き耳の能力を持った少女小夜と のろいから遠ざけるため、離れ屋敷で育てられた 領主の息子小春丸
三人の出会いから始まるこの物語の 底辺にあるのは、呪い呪われる二つの家のしがらみだった 呪師である主が狐笛を吹けば、野火は命令どおりに 人を殺さねばならない。 殺す人は主の仕えている領主のいとこに当たる人物の息子 冒頭でであった小春丸だった。 小春丸を守るために動いている人物、大朗と接触し 自分の能力を敵に知られてしまった小夜も、野火にとっては 殺すべき相手となってしまう。
主に使われるだけの自分につらさを感じる野火 殺された母と、自分の出生の秘密を知った小夜 敵方に操られ、自由を失うことを恐れる小春丸
互いを助けよう、という強い気持ちが 主の呪力を打ち破ることになるのだけれど 呪いの力に、呪いで対しようとした人々に そうではない、人を思う力で対した場面が心に強く残った
それは小夜の母花乃が、娘に伝えたかったこと 領主同士の土地をめぐる争い、恨み、呪いを 時間をかけて解きほぐしていくことは母の願いだったのだ それを、小夜が果たしたときに 呪いは消え、野火は狐笛から解放され 小春丸は自由になる。 幸せとは、自分の心が自由であると言うことなのだと 読み終えて実感した。
呪いの基であった、土地若桜野と大朗の住む梅が枝屋敷の風景 小川の流れや菜の花畑、梅の香り・・・・・ 春の野の風景が私の母の故郷を思わせてなつかしく、暖かい
この物語を読むと、小数民族の哀しみが 重く伝わってくる。 神の守人として登場してくるのが 少数民族としてロタ王国の歴史上抹殺されてしまった タルの民の少女アスラだ バルサは、アスラを自分の少女のころと 重ね合わせてしまう。
アスラは猟犬カシャルたちに命を狙われるが それを阻止しようと動き始めるバルサやタンダ
アスラと兄チキサを少数民族のいまわしい者としては見ず 暖かく包んでくれるような人物の登場がうれしかった バルサが追っ手をまいたあとで立ち寄った商家のおかみマーサだ。 カシャルでありながら、アスラを殺さずに 彼女の異能者としての能力を封じ込めようと 思い始めるスファルもまた奥深い。
続編ではアスラは救われるのだろうか
上橋菜穂子作 二木真希子絵 偕成社
精霊の守人、新ヨゴ皇国の皇太子チャグムを救った 女用心棒バルサが自分の養父ジグロの名誉回復のために 25年間離れていた故郷のカンバル王国に戻る
新ヨゴ皇国からカンバル王国へ抜ける洞窟に中で彼女を出迎えたものが 最後まで誰なのかわからない。 権力と富を得るための陰謀をめぐらすジグロの弟ユグロ。 はじめはユグロの陰謀にただ真正面に対して 戦うバルサかと思ったら、大違いの展開が待っていた。
陰謀が渦巻くなかで、 良心をもった人々に助けられるバルサ 殺された父の妹、ユーカ叔母、ジグロの甥と姪に当たるカッサとジナ。 そういう人たちとのかかわりがとても暖かくて人間的だ 特に闇の中で視界のきく小さな人々 この人々の存在なくしてこの物語は語れないという感じだ。
最後にユグロの陰謀は打ち砕かれ 無念に死んでいったジグロの魂はバルサによって弔われるのだが 養父ジグロが自分育ててくれた裏で 自分(バルサ)さえいなければという憎しみが あったという感情に気づくバルサの桎梏が心に響く。 バルサの心は癒されていないのかも知れない。
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