やんの読書日記
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2004年01月28日(水) 精霊の守人

上橋菜穂子作
二木真希子絵 偕成社

100年に一度の日照りと
雨雲をつくり雨を降らせる精霊
精霊の卵を体内に宿らせて、卵を食う怪物から守る守人

守人シリーズの第一弾
何度も読もうと思ってためらっていたけれど
読んでみてよかった
いろいろな民族の神話が融合したような
話だけれど、全体を通して
アジア的な風景や、人々の暮らしが伝わってくる
この巻の守人はチャグムという皇太子だけれど
女用心棒のバルサや、呪術師のタンダに鍛えられて
たくましくなっていく場面がいい。
バルサが短槍を使いこなして敵と戦うシーンは
見事だけれど、チャグムとのふれあいの中で
養父とのこと自分のことを回想する場面が心に残る
用心棒としてではなく、人の子バルサの姿がさわやかだ。


2004年01月08日(木) シールド・リング ヴァイキングの心の砦

サトクリフ作
山本史郎訳
原書房

ノルマン人がイギリスを征服したことを
ノルマンコンクェストというのは「ロンドン」という
大長編を読んだときに知った。
イギリスでノルマン人の征服を受けなかったのは
スコットランドと
湖水地方だけだったらしい。
シールド・リングと呼ばれる盾の輪を心の中に持ち
結束してノルマン人に抵抗したのが、
ノルウェーからイギリスにやってきた
ヴァイキングの子孫たちだ。
かつては征服者だった彼らが次には征服される者になる
これは歴史の悲劇かも知れない。
湖水地方の谷の奥で一族を指揮し戦う三人の男。
族長のブーサル、アリ・クヌードソン、族長の弟でアリの養子エイキン
友好関係を結ぶためにアリがノルマン人のラルヌフ・ル・メスカンのもとに交渉に行くのだが、相手は彼を虐殺して帰す。
それが谷に住む人の結束を強めて「シールド・リング」という
心の砦になるのだ。どんなにシールドリングの秘密を強迫されても
誰も自白しない、そういう鉄の結束。
30年間その結束を守り、最後の戦いにノルマン人を追い払う。
少数の部族で、地理を生かして敵をおとしいれる知恵を働かせたのが
ビョルンだ。竪琴弾きの養父ハイトシンから竪琴のわざを引継ぎ
「剣の歌」を歌う彼は、いるかの紋章つき指輪を引き継ぐものだった。
湖水地方というとピーターラビットの故郷で
ナショナルトラスト発祥の地。なだらかな丘とたくさんの湖の
美しい土地に荒々しくて粘りづよい戦いの歴史があったとは
おどろきだ。他者に征服されることを潔しとしない人々
自分たちの生活を守り抜こうとする人々の心。
それは土地を昔のままに守り抜こうとするナショナルトラストに
引き継がれているような気がする。
この地で飼われていた羊の毛を脱色せず
そのまま使ってヴァイキングの旗に
オオガラスの絵を刺繍する場面があったが
あれはポターさんが飼っていたハードウィック種の羊なのだろうな
と思ったし、ノルマン人を撹乱させた「どこにも行かない道」が
もしか今も残っているのかもしれないと勝手に想像している。
族長ブーサルの名前がバターメア湖の名前で
残っているというらしいから。
ビョルンが戦いの後に歌うあらたな始まりの歌。
心に砦を持ったものが引き継いでいく新しい歌
いい終わりかただ。



2004年01月07日(水) 旅をする木

星野道夫編
文藝春秋

星野氏がカメラマンだということは知っていたが
随筆がこんなにすばらしいことを初めて知った
旅をする木というのは、アラスカの南東部の暖流が寄せる
比較的暖かい森林地方にある針葉樹のことだ
アラスカの高山から流れ出す雪解け水で
河岸が侵食され、生えていた樹木が倒れて押し流され
アラスカの北極圏の海岸にまで流される
そういう木の旅を大きな時の流れとして星野氏はとらえている。
短編の随筆集で、一番興味深かったのが
トーテムポールの発見談と
アリューシャン列島からわたってきたモンゴロイドの話だ。
トーテムを作った人々は
氷河期にシベリアからアリューシャン列島を
歩いて渡ってきてアラスカやカナダに定住したらしい
日本人にもよく似た顔つき
鯨をとり、自然を崇拝する人々は
どこかでつながっていると思っていた私は
この章を読んで、やっぱり、という確信にとらわれた。
氷河期からしてみればたかが2000年で
めまぐるしく変わってしまった人と地球を、
憂えながら自然のなりゆきを大きな心で見ている
星野氏の哲学が感じられて
胸がどきどきした。


2004年01月06日(火) イニュニック

星野道夫編
新潮社

生命という意味のアラスカの言葉
星野氏が追いかけていたものは
クマや、ムースや、鯨、小動物、木々や草花
アラスカの手付かずの自然の中に入ると
都会がものすごく狭くなるという
それはウィリアム・モリスも言っていた。
彼の場合はアイスランドだけれど。

アラスカに行こうと思ったきっかけは
子どものころからの読書にあったことをここで知った
アラスカ大学へ留学するところ
定住してしまうところなどはとてつもなく大胆に思えるのだが
それは彼の心の奥底にあった真実がそうさせたのだろうと
感じた。探検家にありがちな大きく開いた心
日々の暮らしにきゅうきゅうとしないおおらかさ
そして、生命の重みや弱さや強さを
感じることのできる感覚。
それが星野道夫を偉大にしていることを知った。


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