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廊下側のすきま風 2005年08月31日(水)

夏が終わる
もうすぐみんなの腕は隠れる

寒さが厳しくなればなるほど
誰も廊下には出なくなるだろう
君とすれ違う回数も
少なくなるだろう

廊下側の一番寒い席で
ひりひりと両足をすりあわせる
ストーブのそばはあったかすぎるでしょう
だから

ぱたぱたと走る靴音
くだらない言葉の羅列
それらさえもただいとおしいもの

半袖のシャツ
長袖のシャツとセーター
くり返して
期限付きでくり返して

来年もこの席に誰かが座るだろう
再来年もこの席に誰かが座るだろう
姿形はいっしょだけれど
違う思いをもった誰かが座るだろう

遠くから見たらいっしょに見えるだろう
何年も何年もいっしょに見えるだろう
永遠のくり返しに見えるだろう

でもいたよ
一人ずついたよ

そうしてみんないなくなっていく

君がいなくなる
心の中からゆっくりと

少しだけ目を閉じて
ほおづえをついて
耳をすまそう
聞こえてくる
一人一人の声




羽に埋もれた羽 2005年08月24日(水)

窒息しそうなこの羽の中で
追う
君という名の羽
追う
羽の中の羽

真っ白な中の白

僕の腕が引き千切れたら
君はその血を見れるか
君はその音を聞けるか

君という名の羽
それが血に染まったら
それだけが血に染まったら
僕ら一緒になろう

君が僕を殺すのが先か
僕が君を見つけるのが先か
なんだか腑に落ちないけれど
まあそういうことだ

君を抱きしめようとしても
逃げちまうから
やっぱり握りしめるよ
強く
痛いと言うまで

さて競争だ
早く決着をつけよう
僕は待てない
君も待てないだろう




隠れた鬼 2005年08月13日(土)

もーいーかい

まーだだよ

隠れた木陰の中に
蝉が一匹
いた
倒れていた
腹を見せて倒れていた

きっと
一週間泣き散らして
それだのに
誰にも助けてもらえなかったんだ
それだから
こうやって倒れてる

もう助けられない
もう泣いてないから
もう助けられない

もーいーかい

まーだだよ

蝉をくるりと掌に包んで
顔をそうっとそうっと近づけた

パリッ

何の味もしないんだね

もーいーかい

まーだだよ

もーいーかい

もーいーよ




線香花火 2005年08月10日(水)

二人でしゃがみこんで
じいじいと線香花火
笑ったら、落ちた

着慣れない浴衣を着るよりは
って、だらだらのTシャツとジーンズ
いつもどおりのはずなのに
二人はいつもどおりになれない

暗い闇の中で
笑い声だけが浮かぶ
表情を見分けられないくらいで
ちょうどよかった

薄い月がぼんやりと残っていた

愛し方を知らなくてごめんね

君の愛に同等の愛を捧げること
それが必要だと思っていたのに
できなかった

私は君が好きだったけど
好きなだけだった

線香花火が落ちたら
二人の笑い声もだんだんに消失した
またの夏に思いを馳せた

きっともう二度と二人の夏はこない




桃の皮切り 2005年08月04日(木)

桃の皮を剥いた

案外に柔らかくて
案外に人肌の温度をもっていた

君の肌のようだった

がぶりと噛み付いた
大きな歯形がついた

君の肌にも
こういうふうに傷が一生ついていればいい
と思った

けれども
残念ながら
君は強靭な肌をもっている
君の肌にあった赤い傷跡は
いつのまにか消失した

がりりと噛み付いた
桃の芯も
意外に強い





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熊野
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