弱Sonファイブ
「先輩、来月から何やるんですか?」 「パチンコとおまんこ」 先輩たちの最後のひとりが 今日で会社を去る。 だから先輩と休憩室で バカ話するのも今日で最後。 思えば、 なんだかんだで1年。 ... 何度も何度も 先輩のボトルで飲んだ銀座。 (銀座) ムリヤリ連れて行かれた横浜。 (横浜) 新境地を求めてさすらった鶯谷。 (鶯谷) 安さを追求した巣鴨。 (巣鴨) ... 仕事をぜんぜん教えてくれなかった 先輩との思い出は いつも キャバクラまみれです... さようなら、先輩。 すぐ場内指名する先輩。 おいらがぼったくられたら 誰よりも喜んでくれた先輩。 パンティは 白が一番好きだった先輩。 略して、白い先輩。 なぜだろう。 こんなに春の陽気は そのけだるい空気を ゆるやかに運んでいるのに おいらの胸だけが 締めつけられるようにいたい。 これは... もしや... スカラー波...
あくびあくびあくびー あくびーをーしてーるとー あたまあたまあたまー あたまーがーよくーなるー ... 機嫌よく仕事してたら 斜め後ろの席の派遣のねーちゃんが 軽薄なツラをして おれのことを うすら笑いやがった... このズベ公... くぁぁぁあ、 あふー。 かっさらっちまうぞ!! ほのぼのと...
仕事が終わって 一息ついてから ジュンと 隣町のジョナサンまで散歩する。 仕事の話をしながら 着馴れたスーツで チンタラ歩く。 そいつを 信じられるかどうかは、 そいつが 横にいていいかどうかだ。 ロードオブザリング第1章を見た。 あんなリアリティのない マクロ視野な映画は 認めねえと思ったが、 例えば ジュンとおいらの付き合いが 映画化されるとしたら あんな感じなのかもね。 おいらという人が持つ記憶とは けっこうマクロ視野なのかもな。 ジョナサンに着くと、 フレディ・マーキュリーみたいな 化け物がとなりの席にいる席に 案内された... なんかペーパーナプキンに ファンデーション塗りたくって 色を比べてる。 ジュンが目で合図する。 何やねん、 ... ギ? 何? スギ? ああ、 ミ・ス・ギ、ね。 オカマを見るのはやめて 逆の席を見る。 ... うっわー、 あの女ヤベー。 テーブルの中央に ケイタイ開いて置いて 凝視してるよ。 ドリンクのグラスが3つ。 水が入ってるグラスには ペーパーナプキンが 巻かれてる。 何時間待ってるんや... ジュンにアイコンタクトを送る。 「ピンポーン」 ジュンがテーブルのボタン押す。 「ご注文お決まりでしょうか?」 「席替えてください」 別の席に移りながらジュンは ウエイトレスのおねえさんに 「あれ、オカマだよね?オカマ?」 って何回も聞いていた。 別の席についてから おいら思いっきり笑ってしまった。 つられたみたいで ジュンの理性の砦は ポロッと落ちたみたいだった。 「あれゼッテー男だよ!」 「お前見すぎ!」 「だって普通見るやろ?」 「目、つけられたらどうするんや?」 「もうその話はやめよう...」 「...」 「となりの女、せっぱつまってたよね」 「いや、見てなかった」 「あの席、ホンマヤバかったな」 「あんな席じゃ、くつろげねえよ」 ... おい、 オカマがこっちきた、 オカマが! うっわー、 めっちゃこっち見てるわ、 おっかねー。 「なあ、 あのオカマ、トイレ行ったけど どっちかなあ?」 「ぜってー男だって!」 「おい」 「あ?」 「見に行ってくる...」 トイレコーナーに行く。 静まり返ってる。 男コーナーのドアを開ける。 オカマが鏡見て 何かやってるぅぅぅ!!! いちおうファスナーおろして オシッコしてみる 格好をする。 出ない... ブルブルブルブル ブルブルブルブル。 ジュンー、 おいらがまちがってたー。 ブルブルブルブル ブルブルブルブル。 ガチャ、 バタン。 ... ふぅー。 オカマは去って行った。 おいらは オシッコしてないのに 手を洗いながら、 なんであのオカマは ちゃんとおっぱいが あるんだろうと思った。 ... あ! ロードオブザリング。 二つの塔...
春満開だ。 華子ちゃんは彼氏とラブラブ、 日記作家同士で愛を語り合い 本人はメロメロ。 流歌ねーちゃんは男とよろしく、 日記書かない宣言して 本人はメロメロ。 るみちゃんは恋心の乙女、 恋煩いで涙なんか流しちゃって、 本人はヘロヘロ。 くーみんは彼氏と1年3ヶ月記念、 69の質問で自分の性癖を暴露して 本人はエロエロ。 2003年4月春。 加護はひとり。 さむい。 冷蔵庫の「本わさび」くらい 忘れ去られている。 しかも働きすぎて 本人はボロボロ。 おい! サントリーのGokuri! フルーツ&ベジタブル味は どう考えてもおかしいやろ? 果汁20%+野菜汁21%って何や? 汁ってなんや汁って! そんなん汁か! 41%が汁か!? 日本の消費税は5%なのに サントリーはおいらに 41%も汁を飲ませるのか! まわりでは 恋が咲き乱れているというのに サントリーはおいらに 41%も汁を飲ませるのか! おいらに自由を! 汁を選択しない自由を! 選挙の車がうるさい! 春をぶちこわせ! 冷蔵庫の「本わさび」は 特選本わさびだ! YOUはSHOCK! 死ね!死ね!死ね! わが手に死ね死ね団を!! 結成するから金をくれ...
秋葉原に行く用事があった。 秋葉原に行くとムカムカする。 くさいし、女の子がいないから。 同じ理由で上野もきらい。 でも上野は 動物園があるからぎりぎりオッケー。 そういやあそこのパンダってさー、 いっつも寝てるよねー。 この不景気の中、 あんな殿様商売でメシが食えるなんて 世の中まちがってるよ。 次に生まれ変わるときは ピンポイントで 上野動物園のパンダの赤ちゃんを ねらうよ! という話はどうでもよくて、 加護さんはコンピュータの ネットワークの部品を 買わないといけなかったわけ。 でも何を買っていいのかわからない。 わからないことは人に聞けばいい。 秋葉原の店員さんはいわば コンピュータのエキスパートだ。 だから店員さんにみんな聞けばいい。 聞けばいいのだが、ちょっとというか かなり聞くのがこわい。 専門用語を連発されるのがこわいのだ。 加護さんはガンギャルが苦手だ。 すぐガンシカするからだ。 じゃあ秋葉原の店員さんとガンギャルと どっちが苦手かというと、 両方まとめて福建省のササ林のてっぺんに くくりつけてやりたい。 とにかく勇気をもって 店員さんに声をかける。 「あのー」 「はい?」 「自分は何がほしいのか わからないんですけど」 「それでは答えようが ありませんね」 ... コミュニケーション終了。 おかしい、 なんて言えばいいんだろ、 加護さんはほしいものがあるんやけど、 それが何かよくわかんないのよ。 ... あ、そっか。 わかったぞ。 もう一度同じ店員さんに話しかける。 「すいません」 「何でしょうか」 「さっきはすいません!」 「いえ...」 「これを見てください」 と言って先日先輩に書いてもらった ほしいものが書いてある図を見せる。 見せながら 「いやー、ホント汚い絵だと思いません? これさー、先輩の中島さんが 書いてくれたんですけど、 昼休みにネットアイドルのホームページを 見てたら、 『コラー、会社でエロサイト見るな』 って腕を組んで言ってくるんですよ。 こんな3歳児のなぐり書きみたいな きったねー絵しかかけないのに 『コラー』って」 ... 店員さんの口の端が少しあがった!(気がする) たたみかけてみる。 「ホントこれきったねー絵ですよねー、 話が済んだらやぶって捨てましょうか?」 って言うと 「いや、大丈夫ですよ」 って言ってくれた(半笑いで) そんで話を聞いてもらった店員さんに ほしいものを探してもらって事なきを得たが、 それにしても中島さんにとって これはエロサイトだ。 ↓ これ
4月になって 新入社員が2年目になる。 これにてうちの部署にいた 新入社員が新入社員では なくなったことは 本当にどうでもよくて、 彼女は半年前に うちの部署から異動して 今は他の部署にいる。 でも最近はプロジェクトの関係で よくうちの部署に来る。 彼女を見かけて 第一声に言った。 「おいお前、 俺に断りもなく 勝手に他の部署に行きやがってよう。 で、いつ戻ってくるんだよ」 すると彼女、 「え、え、えと、 来月の第2週です...」 と答えた。 そのときの表情を見て 加護さんはちょっと チンコが立ってしまった。 今夜のおかずはこれで行こうとか 思ってるときに ふと思った。 異動の話ってふつう、 正式に辞令が出るまで 誰にもしゃべったら あかんのちゃうんか...
いちろーさんの まきばで イーヤー イーヤー ヨー おや ないてるのは ひよこー イーヤー イーヤー ヨー あら チッチッチッ ほら チッチッチッ あっちもこっちも どこでもチッチッ チッチッチッ ほら チッチッチッ あっちもこっちも どこでもチッチッ いちろーさんの まきばで イーヤー イーヤー ヨー 「加護、21時から 緊急会議に出てくれ」 「イーヤーイーヤーヨー」
ジュンは 何となくで家へ来て エロ本見て 遊びに行こうぜって言う。 加護さんもノリで 「ええよ」 って言ってしまう。 「じゃ、とりあえず キャバクラにでも行くか」 ってなる。 フラフラして キャッチの兄ちゃんと話をして テキトーにお店入って ヒョウ柄のミニワンピ着た おねえちゃんとなんとなく 「癒しって何だろねー」 「うーん、とりあえず アイフルの犬買いにいく?」 とか話しているうちに、 オナニーを終えた後のような むなしい気持ちになってきた。 やりきれない 加護28歳(独身) なんていうのかなー、 よろしくない。 だいたいロジックがよろしくない。 男は女が好き ↓ お前も俺も男なんだから女が好き ↓ 女が好きなんだから お前も俺もキャバクラ行くと 絶対楽しい というジュンのロジックで とりあえず遊びに行ってしまう 自分がきらい。 だいたい何だ、 とりあえずキャバクラって何だ? 「とりあえず生中でも」と ニュアンス同じやないのか? これはキャバクラに対して 失礼なんじゃないのか? こんなんじゃ、ダメだ。 とりあえず、っていうのが ダメなんだ、 もっとちゃんとやろう、 な、 もっとちゃんとしよう、 仕事するんやったら仕事する、 遊ぶんやったらちゃんと遊ぶ、 キャバクラもちゃんと遊ぶ、 よし、これで行こう。 ... でもその前に とりあえずアイフル行かないと...
「加護くんいいから」 「そうか」 「見た感じから お姫さま抱っこは 期待してないから」 「そうか」 ... 「さわってもいいよ」 「全部脱げよ」 「え?」 「ハダカの気持ちを抱いてみるから」 ... ... 「いちいちフトンめくって 全体像を 確認するのはよせ!」 「だってホラ、暑いし」 「暑くても何でも 密室空間でやろうや」 「ホラ見て」 「...」 「影がいやらしい」 「うん、いやらしいな」 「あたしあんまり経験ないの」 「技術は興味ないねん。 興味があんのは 今ミサキさんの体が どのようにくねって どういう形でシーツを乱して どういったシルエットを、 その影を描くかということや。 見てみ?」 「ん?」 「影がいやらしい」 ... 「ねえ、入れちゃう?」 「...」 「一応、盛り上がっても 大丈夫なように アレ持ってくるね」 「はい、お願いします」 ... 「ココ置いとくね」 ... ミチコロンドン お徳用1ダースかいっ!? 「何回やる気やねん?」 「いや、いくつ使うか わからなかったし、ゴメンね」 「まあ、ええけどよ...」 ゴソゴソ... ミチコロンドン 使いさしかいっ!? あえて何も言うまい... 「固いね」 「気合と正比例してるんだよ」 「あたしの、すっごいせまいよ。 入んなかったらゴメンね」 「...」 「きつい?大丈夫」 「大丈夫」 大丈夫だけど これは中の形を想像するに... あえて何も言うまい... ... 「体位かえていい?」 「ええよ」 「上になりたいの」 「ほい」 「...」 「...」 「ミサキさんは僕を見下してるね」 「見下してないよ」 「その瞳で上から下に見下ろしてるね」 「うん、見下ろしてる」 「ミサキさんが一番だよ」 「うん」 「ミサキさんが一番きれいだよ」 「うん」 「すごくきれいだよ」 「うん」 「きれいなミサキさんが 僕を見下してるよ」 「うん」 「ミサキさんは僕を見下してるよ」 「うん」 「ミサキは加護を見下してると言え」 「...」 「ミサキは加護を見下してると言え」 「ミサキは加護を見下してる」 「ミサキは誰を見下してる?」 「ミサキは加護を見下してる」 「お前は売女や。いやらしい売女や。 ミサキはいやらしい売女ですと言え」 「...」 「ミサキは誰の上に乗っている?」 「加護」 「横のシルエットを見ろ」 「...」 「いやらしいやろ?」 「いやらしい」 「ミサキの体がきれいだからや」 「きれい」 「きれいなミサキはいやらしいと言え」 「...」 イカン、 言葉に凝りすぎて さめてきた... 「休憩しよ」 ... というわけで、 ピロートークのあと、 もう一回後ろから横からやって、 「もうダメ...」 って言われて終了。 加護さんの主砲、 一度も爆音轟かず... 「お茶入れるよ」 「うん」 「服着て」 「は?」 「もうすぐパトロンが来るの」 「朝の6時やで!?」 「まだ大丈夫、 お茶飲む時間はあるよ」 「...」 ... 「あ」 「なんや?」 「来ちゃった...」 「マジ...?」 「お茶は流し台に、 アレは片付けるから 服着て、 バンソーコーとコーヒーの缶持って」 「...」 「メールで時間稼ぐから ゆっくりでいいよ」 「...」 「オッケー?」 「オッケー」 「階段で降りたほうがいいよ。 もしすれちがったら 堂々とすれちがってね。 面識ないから大丈夫でしょ? じゃあまた♪」 ... ガチャ。 バタン。 スタスタスタ。 カンカンカンカン、 カンカンカンカン、 カンカンカンカン、 カンカンカンカン、 カンカンカンカン、 カンカンカンカン、 カンカンカンカン。 ... ふー。 ... 誰にも会わんかった... ... しかしおいらって ま、 お、 こ?
「少しでいいから甘えさせて」 「...」 「安心する」 「でもワキガやけど」 「え!? でも、くさくないよ」 「それは ワキガコントローラーのおかげや」 「ワキガコントローラーって何?」 「くさいのとくさくないのを いろいろ調整するスイッチや」 「なあに、それどこにあんの?」 「...」 「...」 「ココ」 「それはおちんちんでしょ?」 「それは知らなかった...」 「服脱いじゃおっと」 「...」 「...」 「さわっていいよ」 「へー、細いねぇ」 「そんなことないよ」 「上腕筋がたまらない」 「何よソレ」 「背筋すごいね」 「昔、モデルのバイトしてたから」 「姿勢よくするために?」 「そう、今はぜんぜんダメだけど」 「この背筋食いたいわ」 「食ってもいいよ」 「やっぱいいや」 「おっぱいの方がいい? でもちっさいからなぁ」 「おっきいかちっさいかは おれが決めることや。 さっさと脱げ」 「えー、恥ずかしいよー」 「...」 「...」 「うん」 「え?」 「ちっさい」 「ムカつくー!」 ... 「ねえ、ベッドに行こうよ」 「あいよ」 ... ケミストリーの ワインレッドの心が か細く流れ出したとき、 立ち昇った波は その端から崩れだした。 乗る以外に他はない。 悲しい、波乗り。
「ねえ」 「...」 「何考えてんの?」 「カテキン」 「カテキン?」 「お茶はカテキンが入ってるから いいんやったっけ?」 「よく覚えてるね」 「健康には興味ないけどね」 「加護くんってわかんない」 「何が?」 「何がほしいの? お金?やりたいだけ?力? それとも他に欲しいものあるの?」 「...」 「...」 「...」 「ひっぱるの?」 「いや」 「やりたいだけだったら、いいよ」 「...」 「何?」 「なんかさ、小さいころ、小学校とか、 いや、幼稚園の年長さんとかのときって、 砂場が好きやったんや。 山つくったり、トンネル作ったり、 その中をミニカー通したり。 そんときは、すっげー楽しかった。 金とか考えなかった。 ミサキさんの目を見ると、 そういうことを思い出す」 「さみしかった」 「...」 「ずっとずっとさみしかった。 何をやっているときも、 彼氏と会ってるときも。 いろいろ話しているうちに どれがホントのミサキか わかんなくなってくるの」 「うん」 「...」 「...」 「ねえ」 「なんや」 「呼んでみただけ」 「加護ー」 「なんや」 「呼んでみただけ」 「...」 「この曲すきなんだあ」 「なんていう曲?」 『君をさがしてた』 「...」 「きったねーオヤジの相手したあとでもさ、 この曲聴いてると がんばれるんだよ」 「ふーん」 「ん?」 「コンパってやったことある?」 「んー、ないかな。なんで?」 「雑誌の企画で、キャバ嬢とコンパやろうぜ っていうのがあったんやけど、 来た子はみんなコンパ初めてって 言うんだよ。そんで編集部の人が ぜってーウソだ、みたいなこと言ってて」 「えー、ミサキも行ったことないよ」 「なんで?」 「行ってもお金になんないじゃん?」 「たしかに」 「同伴でポイント、遅刻したら罰金。 皆勤賞でボーナス。太い客がついたら引く。 みんなお金がかかってるから 一生懸命やるんだよ」 「そうだね」 「...」 「何や?」 「加護くんて不思議だね。 水商売を見下してない。 やっぱりホストなんでしょ?」 「こんなブサイクなホストおらんわ。 誰が指名すんねん?」 「ミサキがしてあげる。 ホストって永久指名制なんだよ?」 「へぇ、プロは何でも知ってるね」 「ねぇ、つきあっちゃう?」 「...」 「だよね、彼女いるもんね。 パトロンのいる女なんかイヤだよね。 でもエッチはほとんどしてないよ」 「...」 「お金のためなんだもん、 しょうがないじゃない!」 「しょうがないね」 「...」 「...」 「ねえ」 「なんや」 「一晩だけ彼氏になってよ」
部屋はきれいだった。 「引越ししたてで何にもないの。 恥ずかしいよ」 って言う。 加護は少し笑うだけ。 「お茶入れるね」 と言って台所に消える。 加護さんはソファーでくつろぐ。 ... フェンディー、か。 ティッシュケースは アナ・スイ? ... ふーん。 「ごめん、下着とか干しちゃってて。 なんか恥ずかしい」 なんかゴソゴソやってる間、 加護さんはドカッとソファーに腰掛け、 天井をにらんでいた。 「見て、仕事着」 彼女は 丸1畳あるクローゼットを全開にした。 ... ドレスばっかり。 「どう?赤いのとかいい感じでしょ?」 「ミサキさんは赤も似合うね」 「ヒザ丈なんだけど...」 「いくらでも短くはなるんちゃうん?」 「短いのがすきなの?」 「女の足って神様が作った芸術品やん? ミサキさんも足を出すべきや。 あー、パンツ見えそう」 「エッチー」 ... 「てきとうにくつろいでて。 音楽とか聴く?」 と言ってCDのボックスを持ってくる。 ... トランス、トランス、 トランス、トランス、 トランス、ケミストリー? ... 「あ、これ? ケミストリー超スキなんだ。 聴こうか?」 ... お茶を飲みながら ケミストリーを聴く。 それにしても お水のドレスってどこで買うねんやろ? マルイ? は閉まってるよな。 通販? ... ドンキホーテ? ... 「血出てるよ?」 「なんだこりゃ?」 ... 先日切ったところから 血がにじみだして ソファーを赤くしてた。 急いでティッシュで拭く。 すぐに取れた。 ... 「近くにコンビニあるから バンソーコー買いに行く?」 「おう」 と言って部屋を出る。 ドアを開けると ピアスの黒服ふたりと目が合う。 ... おれ、サラリーマン。 ホスト、ちがう。 目で訴える。 しかしなぜかスイッチが入ってしまう。 マンションの外に出る。 肩で風を切って歩いてしまう。 2歩後ろからついてくる。 コンビニに行く。 カゴを持ってくる。 なんでバンソーコーひとつ買うのに カゴ持って来るんだよ ってキレそうになる。 コーヒーとバンソーコーを買う。 「何か買うか?」 って聞く。 「ううん、いい」 って言う。 ... 部屋に戻る。 バンソーコーを貼ってもらう。 「バンソーコーおっきいねー」 って言われる。 カチンとくる。 「お茶いれるね」 って言う。 またお茶かよ!? 「お茶はカテキンが入ってていいのよ、 カテキンが」 って言う。 「ふーん」 とか言いながら マグカップをゆらゆらさせる。 「あ、落とさないでね。 高いから」 「ブランドもん?」 「裏見てよ」 HERMES ... 「ヘルメス」 「ヘルメスって言わなかった?」 「別に。いくらしたの?」 「1脚12000円」 「だよね」 「?」 「裏見て」 「...?」 「値札がはってある」 ウソ。 ... 「着替えてもいい?」 「ええよ」 「のぞかないでね」 「3秒たったらのぞきにいくよ」 「そんな早く着替えらんない」 「じゃあ早く着替えてこい」 ... あー... 眠い。 ... 「ケミストリーのビデオ見ててー」 「ああ」 「聞こえたー?」 「ああ」 「返事してよー」 「ああ」 「加護くぅーん」 「ぁあ゛!?」 「呼んでみただけー」 ... あー、ダリ。 ... 「じゃーん、部屋着〜」 「へー」 「ちょっとB系」 「さっきと雰囲気ちがうやん?」 「若い?」 「若い」 「恥ずかしいから見ないで」 「アホ」 ... 「ケミストリーのビデオ 見ててって言ったじゃーん」 「ああ」 「見かたわかんなかったの?」 「ああ」 「機械に詳しいって言ってたから すぐわかると思ったんだけどな」 「それは仕事の話や」 「...」 「...」 「NKホールのライブだよ」 「...」 「...」 「...」 「電気消すね」 「...」 「おやすみ」 ... 「ねえ?」 「あ?」 「ちょっとだけそっちに行っていい?」
「週末は何してるの?」 というメールはシカト。 それを告げる必要はない。 いつでも食事とか誘ってよ って言われていたので、 約一週間後、 「明日の夜に食事どうですか?」 ってメールする。 数時間後に電話が来る。 時間と場所を決める。 自分が相手の住んでる方へ 行くことに決める。 少しでも相手がくつろげるように。 ... 待ち合わせ場所に行く。 まだ来ていないようなので ウオークマンを聞く。 松浦あやの「ねえ」。 ... 今度加護とカラオケに行く人は 乞うご期待。 たぶんビックリするよ。 そのコスチュームに。 ... やがてあらわれる。 「ごめん、待った?」 と聞かれる。 加護は少し笑うだけ。 「初めてのデートだね」 と言って腕を絡ませてくる。 ふんわりにおってくる。 「ブルガリやね」 「よくわかったねー。におい気になる?」 加護は少し笑うだけ。 「この辺お店閉まるの早くてさー、 行きつけの焼肉屋があるんだけど」 「そこでええで」 ... うーむ。 中に入ってみると、 右を見ても左を見ても おっさんと若い女が 豪勢に肉食ってやがる。 加護さんもその風景に 溶け込んだつもりになる。 「これ、キャバの友達に教えてもらってさー、 ヤバいよね、うちら同伴みたい」 「ヤベー、高いお店に連れて行かれるー」 「そうよー、高いから気をつけなよー」 「大丈夫、ヤバくなったら拳銃売るから」 「え...、○○の人なの?」 「ハハハ、そんなカッコに見える?」 「どっちか言うとホストっぽい」 「がんばっておしゃれしてきた」 「勝負服だ?」 「そう、勝負服。 恥ずかしいねー、気合入れすぎだよね?」 「あたしも勝負服だよ」 「だからやな... 今日はいつもに増して気品が出てんもんな」 「そう?」 「やっぱり安くない女ですね?」 「なんで敬語なの?気使わなくていいのに」 「でも金は使わんとダメでしょ?」 「そうねー、ぼったくりだから♪」 ... とか言いながら ウーロンハイ4杯目を飲んでる。 加護くんも飲みなよーって言われるが、 お酒は弱いので 「ムリ」ってことわる。 終電の時間を店の人に聞く。 するとiモードで時刻表を調べてくれる。 「ほら、ないよ」 って連発する。 「近くにオールナイトで映画やってるとこ あるから観にいこうよ」 って言われる。 ムリヤリ外に連れ出される。 立場が逆なら 100パー、セクハラ。 外は折りしも雨。 とりあえず駅に向かいながら 「カサが必要だね」 と言うので、 「そうやな」 と言うと、 「あたしの家は電車で一駅だから カサ取りにいこう。 買うのバカらしいでしょ?」 と言われた。 「かまへんで」 と言って、電車に乗って一駅。 駅から歩いて30秒の高層マンション。 オートロック。 「タクって、となり街で飲む?」 って言われて 「それもええな」 とか言いながら、 エレベーターで8階。 ... 「とりあえず入って」 と言われて男物のスリッパが出てくる。 ... で、 あんまり疑問に思わずに 彼女の部屋に入った。
これは直接言いたいのだが、 電話してもつながらないので、 自分が思っていることを この場で言わせてもらいます。 ... 流歌ねーちゃん、 今後、加護と関わらないでくれ。 日記も見なくていい。 何度電話しても出ない一方で、 こういう物の書き方をする人間とは いちいちまじめに やって行く気がしない。 ひとりの人間として つきあって行く気もない。 ... 以上、 もうこの話を続かせる必要は ない。
有限会社あゆの最終設定を 社長といっしょに 最後まで一気に やってしまおうと思い、 社長の家に訪問する。 「いらっしゃーい」 って社長の女が 出迎えてくれる。 奥の席に通される。 座る。 ビールを注いでもらう。 「おっとっと」と言う。 何に乾杯するか話し合う。 とにかくなんでもいいから 乾杯する。 アジの開きを食べる。 ビールを飲む。 今日は何やってたか話す。 サラダを食べる。 トマトソースで煮込んだ トリ肉の料理を食べる。 ビールおかわりする。 女が日本酒を飲み出す。 「加護さんも飲む?」 って言われたとき、 もしかしてこれは 単純にもてなされているだけでは? と思った。 ちょっと聞いてみると、 「そうだっけ?」 とかサラッと返されたんだけど、 この人たちは たぶん確信犯だ。 やっとのことで 仕事に取りかかる。 仕事してる最中も 社長の女は お茶とかお菓子とか 持ってきてくれる。 なんだかおばあちゃんの家に 来たみフヌロロロロロー。 ンミャケンネンネンポー。 ポンーンンーヒンヒンピ ネヒャーノモミヒャネーネネネ ネネネーネ、ネーネネーネー ネネネネネネネネネネネ ネネネネネネネネネネ! サンプル! サンプル! サンプル! サンプル! ヨンピル! ヨンピルラー! ヨンピウ! 日本珠算検定 ヨンピウ! ... はー、 流歌ねーちゃんに電話しても なぜかシカ電ばかり...
クラリジット錠が切れた。 ... クラリジット錠というのは クラミジアに対して 飲めばたちどころに効くという アメリカ軍の ピンポイント爆撃バリの すごい錠剤であるのだが、 ゲットするためには 少々恥ずかしい目に 会う必要がある。 という話はどうでもいいのだが、 性病の検査だけは しておこうと思い、 泌尿器科に行った。 受付のおねえちゃんが ババンガバンバン あーキャッシュワン のCMに出てくるおねえさんに そっくりだった。 迷わず言った。 「あのー、お恥ずかしい話ですが 性病のご相談をお願いできますか」 おねえさん、手馴れたもので、 「おちんちんは痛みますか?} とか懇切丁寧に聞いてくれた。 別に痛くもないのだが、 「ないです」と言ったら 門前払いを食わされる可能性があるので 「さきっちょが少し...」 と 神妙な顔で 答えておいた。 んで、しばらく待ってから 名前を呼ばれる。 おいらが入る部屋は みんなの部屋とはちがって 完全な個室だ。 ... ある意味 ガッカリだ。 「で、どうしたの?」 とお医者さんが聞く。 なぜかチャラい タメ口だ。 「いや、性病の検査を」 と答えると、 「おちんちん痛い? ウミとか出てる?」 と言われて、 「いや、出てないです」 と答える。 「風俗でも行ったの?それとも浮気?」 と言われたので、 「いや、そんなんじゃなくて 彼女のことを考えて...」 と言う。 「彼女が浮気してんの?」 と言われてちょっとカチンときて 「ちがいますよ」 って言うと、 「君が浮気してない、 彼女が浮気してない、 だったら大丈夫じゃないか?」 って なぜか半ギレで 言ってくる。 「で、結果はどうなんですか?」 って聞くと、 「何もでてない」 と言って尿検査の結果を 見せてくれる。 見せながら 「今年に入って どのくらい遊んでんの?」 って言われて思わず 体中の血液が逆流して 「はァ?」 って言うと、 「気になるならこれ飲んどきなさい」 って言って クラリジット錠をくれた。 というわけで結論。 欲しければ 迷わずキレろ クラリジット錠(字余り)
浮かれろ! 浮かれてしまえ! なにしろ加護さんは 浮かれている。 どのくらい浮かれているのかというと、 「加護さん、書類どこにあるんですか」 「ここ」 「今日提出ですよね」 「うん」 「記述はしたんですか」 「...」 「なんで書かないんですか」 「春だから」 と即答するくらいである。 ... 電車から見える並木道は 桜が全開で咲いている。 お花見がしたい。 与作を歌いたい。 与作を歌いながら オノを振り回して 桜を一本一本 散らしていきたい。 散っていく桜の花びらを見ながら 大地に倒れ込み うなだれながら 「どうして...」 とつぶやいたあと 鬱になりたい。 もしくは テレサ・テンになりたい。 和の心だ。 川本真琴だ。 ... 「なんで書かないんですか」 と言われて、 「できないできないできな〜い」 って、きり返したかった。 でもセクハラかもしれないって 相手を気づかってしまった。 テンションが中だるみに なってしまった。 春風はおいらに 吹かなかった... だって彼女の名前、 川村真琴(実名)やねんもん... ねらいすぎやん? できないできないできない。
加護 殿 2003年4月1日付けをもって バグダッド営業所 転勤を命ず ... ボブ... シャラップ... |