ぶらい回顧録

2012年05月28日(月) 忌野清志郎 青山ロックンロールショー

2009年5月9日(土)、東京都青山葬儀所。

斎場に続く行列の最後尾に並んだのが21時少し前。後ろにも続々人が並ぶ。歩道を進み、信号を渡り、墓地の中を通り、再び歩道を進み、大通りに出る。

スタッフの方がとても感じが良い。朝からずっと働いているのだろうに、丁寧に、冷静に声をかけて行列をスムーズに進めている。

行列の途中で、参列者名を記入するカードが配られる。裏にはキヨシローへのメッセージを記せるとのこと。ボールペンも貸していただく。行列が時折止まるタイミングで名前とメッセージを書き込む。

斎場に到着したのは予想より早く、21時半頃。キヨシローの筆による、キヨシロー自身をあらわすうさぎが大きなバルーンになって斎場を見下ろしていて度肝を抜かれる。




やるな、キヨシロー。

斎場の中をさらに行列が進む。皆、整然と進む。一人で来ている人がほとんどで、話をする人もあまりいない。年齢層は様々だが、同世代らしい人はやはり多い。場内にはキヨシローの歌声が流れている。1曲終わるたびに、献花場があるのであろう前方の建物付近から拍手や歓声があがるが、斎場に入ったあたりでは特に皆反応はしない。

女性によるアナウンスが途切れなく続いている。いったいもう何時間話し続けているのだろうか。キヨシローの関係者の方なのであろう、その言葉は事務的とはほど遠い、とても暖かくて、とても丁寧で。「本日は皆さま、忌野清志郎 青山ロックンロールショーにお越しいただきありがとうございます」「名残惜しいお気持ちはお察しいたします」「まだまだ多くの皆さまが献花場に向かっています。どうか献花がお済みになられた方は係の指示に従ってお進みください」「忌野清志郎の数々の名曲をお楽しみください」「本当にありがとうございます」心打たれる。スタッフの方の顔には悲しみと、参列者への共感と、キヨシローへの愛があふれているように見える。

名前とメッセージを書いた紙とボールペンをテント内の受付で渡し、再び行列に並ぶ。

スタッフの方からキヨシローのカードをいただく。




胸がいっぱいになる。キヨシロー。キヨシロー。

花束などを受け取るテントがあり、スピーカーから「ファンからの贈り物」が流れている。

少しずつ建物に近づき、看板が見える。




「忌野旅日記」で初めてお目見えした「キヨシローの筆文字」だ。見ているだけでエネルギーがあふれてくる。エネルギー oh エネルギー。

行列はさらに進む。うさぎバルーンを下から見上げる。イカシてるぜベイベー。




曲は"Don't let me down"や、「ジャンプ」、そして最後の録音(デモテープ?)の「OH、ラジオ」など。RCの曲はかからない。昼間には流れたのだろうか。

「デイドリームビリーバー」だ。やばい。

ずっと夢見させてくれてありがとう

歩きながら口ずさむ。涙がにじむ。

近くなるうさぎ。





22時頃。建物に入り、献花場のある部屋に進む。部屋の床には色とりどりの紙ふぶきが散らばっている。祭壇はまるでキヨシローのステージ衣装のような、色鮮やかな花がいっぱい。キヨシローの遺影はピンクに縁取られている。さっきいただいたカードと同じ写真だ。そういえばカードにはキヨシロー自身の筆で「イェーッ!!」と書かれている。遺影ー?おいキヨシロー!

スタッフの方が花を一輪ずつ配っていて、受け取る。献花台に進み、キヨシローの写真を見上げる。写真の下にセッティングされているのは、エレキギター、アコースティックギター、エレキベース、ドラムセット、自転車(オレンジ号だ)、など、など。頭の中は真っ白だ。何を思い何を祈ればいいのかわからない。キヨシロー。キヨシロー。

すすり泣く人、黙って手を合わせる人、キヨシローの名前を叫ぶ人。そのすべての人に、何かを悟ったような表情のキヨシローが微笑みかけている。オレはこのシーンを一生忘れないだろうなと思う。

ステージ、いや祭壇、いやステージでいいのか、その横で、最近のライブでマントショーを担当していた男性がキヨシローのマントを持って佇んでいる。MC(で、いいんだよな)の女性は変わらぬ暖かいトーンで冷静にその場を進めている。キヨシローの衣装をまといキヨシローメイクの関係者らしき方が献花場を去る人たちに頷きかけている。

建物を出る。帰りたくない。ずっとこの場にいたい。バルーンうさぎの下に、同じような人たちが集まっている。そこでスピーカーから流れる歌を聴く。うさぎの足元にはこたつがあり、その上にゼリーのヘルメット。ほか復活武道館のポスター、昔のRCのポスターや、メンフィス録音のポスターなどが飾られている。上ではキヨシローがジャンプ!







最近の曲、「激しい雨」が流れる。サビでは自然と大合唱となる。

RCサクセションが 聴こえる
RCサクセションが 流れてる

いつの間にか参列者の行列が途切れている。もう23時過ぎだ。スピーカーから例の女性の声が聴こえる。掠れた声がやや興奮しているようだ。「一般ご参列の方、ほか、関係者の方、まだ献花がお済みでない方はおられませんでしょうか」「おられませんでしょうか」「・・・・・・」

瞬間、彼女の声のトーンが一気に上がる。「皆さま、本当にありがとうございました!忌野清志郎、青山ロックンロールショー、本日、無事、執り行うことができました!イェーーーッ!!」

うさぎの下にいた参列者からも歓声があがる。弾かれたように建物の入り口に皆がつめかける。キヨシロー!キヨシロー!キヨシロー!皆が叫ぶ。オレも今日初めて彼の名前を絶叫する。キヨシロー!彼の名前を叫ぶのはこれで最後かもしれない。キヨシロー!キヨシロー!涙が止まらない。叫び続ける。

誰からともなく、アンコールの拍手がおこる。皆、アンコールはないことを知っている。誰かが涙声で、キヨシロー起きろよ!と叫ぶ。アンコールを求める拍手と歓声は止まない。アンコールがないことは皆、よくわかっている。

そのとき、建物から関係者らしき男性が出てきた。献花場にいたキヨシローメイクの男性だ。彼が「これで最後だよ」と前置きして「雨上がりの夜空に」を歌おうと呼びかける。大歓声があがり、最後の大合唱が始まる。この雨にやられて、エンジンイカれちまった、オイラのポンコツ、とうとうつぶれちまった、どうしたんだ、ヘヘイベイベ・・・

雨上がりの夜空に流れる ジンライムのようなお月様

大合唱が終わり、再び彼が提案して全員で叫ぶ。
「ボス、愛してます!」

すべてが終わり、バルーンのうさぎもしぼみ、青山斎場を後にする。帰りたくない、ずっとここにいたい。

ジンライムのようなお月様。




1981年、15歳の冬。岐阜市民会館の真っ暗なステージに、あなたが身軽な猿のように飛び込んで来て、全身鳥肌が立ちました。あのときオレはロックンロールのGODに洗礼を受けたんだ。「かっこいい」とはどういうことか、15歳のガキはあのときあなたから教わりました。

あなたは最高です。ありがとう。感謝します。愛してます。

さよなら、またね、キヨシロー。


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