雑 記
DiaryINDEX|past|will
優しい気持ちで目が醒めた。 目にしたすべてのものに平等に微笑みかけたいような、そんな気持ちで。 髪を揺らす微かな気配が昨夜の記憶を呼び覚ます。
「添い寝くらいなら」
そう言った後で寝相は悪いのだと呟いたその人が、傍らで静かな寝息をたてている。 記憶を確かめるように目を開けた。 女性特有の柔らかさと丸みを帯びた白い腕が目に入った。 その細い腕を私は抱きかかえて眠っていたようだ。 そっと顔を上げると、見慣れた紅い髪と酷く他人めいたその人の寝顔があった。
個性を色濃く表していると言えば双眸であるから、それが閉じられた表情に見知らぬ人のような感覚を抱いても不思議はない。 そういえば、自分自身も誰かに、オブジェのように無機質な表情になる、と寝顔を評された事があったのだ。 息をしていないのかと思った、と。
醒めきらないままに記憶を手繰り寄せる事に疲れた私は、再び元の姿勢に戻った。 目覚めるたびに襲われる喪失感に、今日は耐えなくてもいいのだ。 夢と現実の狭間を漂い、時の流れに身を任せて何が悪いだろう。 私は再び目を閉じた。
|