
道標|≪過去を見つめて|あさっての方向へ≫
田舎へ帰って気付く。 祖父の命日を忘れていた。
毎年、決まったように思い出しては泣いて、 逝ってしまった祖父を繰り返し想っては泣いた、 祖父の命日を忘れた。
暑い、暑い夏の日だった。
今でも事細かに思い出せるあの夏の日の出来事は、 私の中でいつのまにか昇華されてしまって、 死んだ祖父との楽しかった思い出だけが 故郷に残されていて。
大きな手。 背中。トンカチの音。 木材と煙草の匂い。
祖父の話をしていると、親戚の皆が泣く。 皆、祖父を思って泣く。
随分時も経ったのに。
ふと私も、 こんな風に想われて死にたいと思った。
|