Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
番外:宇宙戦艦ヤマト2199
最近、本屋の店頭で平積みになっているハヤカワ文庫NVの新刊に以下のような大意の宣伝用帯が付いているんです(記憶で書いてますので原文そのままではありません)。
「この本は80年代にヒギンズ等の冒険小説を読みふけった世代に贈る奇跡のプレゼントだ。もう一度このような小説が読めるとは思わなかった。そしてこの時代を知らない若い世代にお勧めする 北上次郎」 北上氏はこのマーク・グリーニーの小説のアクション構成をして80年代冒険小説風と仰ってるようなのですが、
私も1980年代にジャック・ヒギンズの冒険小説を読みふけった世代ではあるのですが、私にとってヒギンズの魅力は、畳みかけるアクションではなく、リーアム・デブリンに代表される世の中を斜めに見る主人公たちなので…じつはスティーブン・マチュリンも同じ…ですから、私的にはパトリック・オブライアンもヒギンズ風味なのですけれどもね。 まぁそんなわけで、この小説を買うかどうか、私はここんとこずーっと迷っています。でもそれはこの情報ブログの話題じゃない。
1980年代に大量に出版されていて、今はあまり出版されていないもの…それはべつにヒギンズ風冒険小説だけには限らないのです。
いわゆる「海洋冒険小説」もそのひとつでしょう。 80年代はハヤカワも創元も、二見や徳間も、角川も文春も、あちらこちらの出版社から海洋小説が翻訳出版されていました。
このホームページが主に取り扱っている帆船小説のほかにも、第二次大戦を舞台にした海洋冒険小説(女王陛下のユリシーズ号など)、冷戦期のスパイ小説の一分野としての海洋小説(レッドオクトーバーを追えなど)。 今現在、世の中で「中年」と呼ばれる世代は、若い頃に(北上氏の指摘されるように)冒険小説を読みふけった世代ですが、その一部はさらに海洋冒険小説も読みふけった世代でもある筈です。
先々週から日曜夕方にTBS毎日系で「宇宙戦艦ヤマト2199」の放映が始まりました。 私これを見ていると、冒頭の北上次郎氏の書かれたハヤカワNVの宣伝帯を思い出すんです。
ヤマト2199はもちろん、1970年代のテレビアニメ宇宙戦艦ヤマトのリメイクなのだけれども、このリメイク・ヤマトの制作スタッフは1980年代の海洋小説ブームを経験しておられて、実際のところかなり、当時の海洋小説がお好きだったんじゃないか?と。
もともと1970年代のオリジナル・ヤマト自身がハヤカワ文庫NVアリステア・マクリーン「女王陛下のユリシーズ号」の影響をかなり受けている、という指摘がありますが(ヴァレリー艦長と沖田艦長の相似など)、現在放映中のヤマト2199は、オリジナル・ヤマトの放映以降の1980年代に数多く出版された海洋小説の影響を受けているし、映画マスター&コマンダー的着眼点をもって製作されている…ような気がする…のは私の偏見でしょうか? いや、でも、これが私の偏見にすぎないという見方については、かなり、否定しがたいのだけれど。
先のハヤカワNVの飾り帯の言葉を利用すれば、 「宇宙戦艦ヤマト2199は、1980年代に海洋小説を読みふけった世代にとって、予想外のプレゼントである。この面白さを再びこのような形で味わえるとは思っていなかった」 とは言えると思うんですよ。さすがに奇跡のプレゼントととまでは言わないけど(ヤマトはガンダムやウルトラマン、仮面ライダー同様クールジャパンの伝統ですから復活しても奇跡じゃないでしょう?)。
そして、もし若い世代でこのアニメを初めて見て面白いと思ってくださる方があったら、実はその一部は海洋小説の面白さでもあるので、その面白さを大切に覚えていていていただきたいと思う。
この作品は、映画館で先行上映され、DVDも先行発売されているので、現在スクリーン上は18話まで、DVDでは14話まで入手できます。 海洋小説ファンにおすすめなのは、第13話と第16〜17話。
第13話の魅力は、海洋小説で言えば、D.A.レイナー「眼下の敵」およびセシル・スコット・フォレスター「駆逐艦キーリング」と共通すると思いますし、 第16-17話の魅力はずばりアレクサンダー・ケント「栄光への航海」、ダドリ・ポープおよびセシル・スコット・フォレスターのホーンブロワーのホーンブロワー(TVドラマ版では第二部)にも共通しますね。キーワードは「反乱」です。
私は海洋小説を、主にストーリーとキャラクターの観点から読むので、こういうお薦めをしますが、メカニカル的な面で海洋小説を読まれる方には、また別のお薦め点があるでしょう。 指揮系統とか手順とかかなり正確性にこだわっているのはわかりますし、船体構造とか資材とか慣性法則とか…私が苦手な機械・物理の分野…も見る人が見ればいろいろとお薦めな部分がある筈なんです。 このあたりで私が言えることは「ヤマト2199って谷甲州氏の航空宇宙軍史(ハヤカワJA)を読んでいるような味わいがあるんだけど」ということ、これも1980年代の小説ですね。 それを言えば政治面では銀河英雄伝説もありでしょうか(軍上層部の派閥とか内部対立とか…ギムレーはオーベルシュタイン説には私も一票)。
ヤマト2199の総監督 出淵裕氏は、私よりちょっとお年上ですが一般的には私も同世代のくくりに入ると思いますので、この製作スタッフ上層部はおそらく、私たち(いわゆる中年)と同じようなテレビ視聴歴、読書歴で育って来た方々なんだなぁと実感する次第です。
テレビ放映を見る(録画する)のがいちばんアクセスしやすいと思うので、よろしかったらご覧になってみてください。 TBS・毎日系です。関東は日曜夕方17:00〜17:30。本日(21日)第3話は木星の浮遊大陸です。
2013年04月21日(日)
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