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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
番外:遅ればせながら三銃士

かなり遅ればせながら、「三銃士・王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」を見に行ってきました。
3Dではなく通常(2D)の字幕版です。

この映画、最初は「久々の歴史活劇!」と期待して楽しみにしていたのですが、
飛行船が爆発する派手な予告編を見て、「ハリウッドのド派手アクション映画に成り果てた?」と思い込み、みるみる見に行く気が失せていたのですが、
信頼できる映画評を書く友人のブログを読んで、はたと考えなおし、
まぁハズレたとしても、とりあえず「かっこいい!」のは三銃士のキホンだし、プラス衣装が綺麗で、お城が綺麗だったら、もうそれだけでもいっか、と思って、あまり期待せずに行きました…ら、
すごい楽しくて、面白くて、はまりました。

アクション・シーンばかり予告で見せていますが、ドラマ部分も予想外にきちんと出来ていて、
ミレディの比重が増えた分、結果的にアトスをめぐるドラマが深くなっている。
キホン奇想天外荒唐無稽だけど、妙なところはまじめに考証していたりして、
予告編と実際の中身がけっこう違います。
あの予告のせいで一部の観客を逃していると思うのですが、歴史活劇好き(時代劇好き)には満足できる作品なのではないかと、
面白さのツボがロバート・ダウニーJr.&ジュード・ロウ版のシャーロック・ホームズと同じではないかと思う。
ハリウッド新版シャーロック・ホームズが許せる方にはおすすめです。

ハリウッド版ホームズでは19世紀のロンドンをCGで描いてくれましたが、今回は17世紀のヴェネチア、パリ、ロンドンが堪能できます。

私が初めて見た三銃士の映画化は1994年のディズニー版「三銃士」でした。
かっこよくって、楽しくて、すっかりはまってレーザーディスクまで買ってしまったのだけれど、ちょっと年上の方からは「やっぱり三銃士はリチャード・レスター版」と言われました。
そのレスター版はそれからしばらくしてNHK衛星の名画劇場で見る機会があったんですが、何故かディズニー版を見たときほど「かっこいい!」とときめかなかったんです。

ところが、今回のポール・アンダーソン版「三銃士」のプロダクション・ノートを読んでいたら、アンダーソン監督がこの映画制作の動機を、「僕はリチャード・レスター版の三銃士が好きだったけど、ディスニー版の三銃士の方がいい、という人たちがいるのを知って最初は驚いた。でもレスター版には確かに1960年代のフィーリングがある、だから若い人たちにはディスニー版の方がぴったりだと思うんだろう。映画はその時代に生きる観客のためにあるものだから、それなら今の時代の人たちに喜んでもらえる「三銃士」を作ろうと思った」と語ってるんです。
いや私、自分以外にもディズニー版の方が良いという人がいるんだと知ってびっくりしたし、何故のちにレスター版を見てディスニー版ほどときめかなかったのかの謎も、やっと解けました。
いや、謎というほどのことでもないんです。ただ単に私が映画を見たタイミングで、ディズニー版を見たときは私も若くてみぃはぁ娘だった、というだけのことなんでしょうけども。

そういう目で見ると、今回のアンダーソン版「三銃士」は確かに「現代的」というか21世紀の「いま」的なのかもしれませんね。

今回、ダルタニアンが銃士隊隊長あての紹介状をもってガスコーニュから上京するところは原作通りなんですが、パリに銃士隊は無いんですよ。緊縮財政のためリシュリュー枢機卿に「仕分け」されちゃったんです。
というわけでトレヴィル隊長は今回ご登場なさいません。
でもって三銃士の面々は、正確には元銃士の面々は…ですが、雇われ仕事でスパイをやってるわけです…なんだかこれ、もとSASで今はMI6のエージェントやってるアンディ・マクナブのスパイ小説の主人公みたいじゃない?…と思っていたら、そこら辺は監督の狙いのようで「(イギリスに潜入して王妃の首飾りを取り返す)不可能と思われる使命のために誰かを送り込むとしたら、今ならジェームズ・ボンドかジェイソン・ボーンだろう、17世紀だったらそれは三銃士のはずなんだよ」と仰る。
確かにこのノリは、スパイ映画のそれかも、物語のスピード感もね。
このジェイソン・ボーンはマット・デイモン版の意味で、007も最新版でショーン・コネリー版ではありませんから、ご注意。

んでそのあたりはバッサリとストーリーを整理していながら、ダルタニアンが18才で、三銃士は年上のベテランという設定は原作通り。
飛行船が空を飛ぶ荒唐無稽な空中戦をやりながら、船体は史実に忠実に17世紀だし(その分、艦尾楼が高いから、飛行船から吊ること考えたらより重くなるしバランス悪くなると思いますけど(苦笑))、搭載兵器なども設計図だけは当時実際にあったものだそうなので、わかる人が見たら面白いのかもしれません。

帆船好きからみると、「ほぉぉスタンスルってあぁいう使い方するのねぇ」とか思わず苦笑ってしまうし、
突然、飛行船の舵をとることになった銃士が、右に回避しようとして思わず「ハード・ライト!」と叫んでしまうところなど、そりゃ銃士さんは陸軍だからオカモノよね、ここで咄嗟に右舷左舷とは言えないでしょう、とクスリと笑う(でもここ字幕は「面舵一杯」になってるんですよ)。
銃士側が舵をとる飛行船は、バッキンガム公爵が設計建造したものを盗んできたことになってるので、じつは英国艦です。
対する枢機卿の親衛隊側のはフランスで建造された仏艦ですね。
でもって帆船好きには映画の最後に思わぬ「おまけ」がつきますのでお楽しみに。
ふふふ。やはり不撓不屈の英国人としてはあぁこなくちゃね(笑)。

ストーリーを整理した結果、バッキンガム公は毒舌家の悪役になってしまってますが、オーランド・ブルームがやってるせいなのか、濃いにもかかわらず嫌味がない。
もう一人の悪役、枢機卿親衛隊のロシュフォール隊長はマッツ・ミケルセン(キング・アーサーのトリスタン)が演じていますが、これが格好よくってときめきます。以前に「パトリオット」でジェイソン・アイザックスが演じた悪役をちょっと思い出した。
そうそう、今回主役(ダルタニアン)のローガン・ラーマンは「パトリオット」のメル・ギブスンの息子役の一人だったそうです。三男か四男の子ですね、もう18才か、早いものだと思います。

ミレディの存在が大きくなったことで、別れた女とのドラマが深くなったアトスのマシュー・マクファディンは、大聖堂の司教同様の悩みを抱えることになって、性格的にはもっと年齢がいってからの(「鉄火面(仮面の男)」あたりの)アトスのキャラクターが垣間見えるのが、原作好きとしては面白かったところ。

まったく映画とは関係ない話ですが、
今回ひさびさに原作を…30年以上たって…読み返してみて初めて気づいたのですが、バッキンガム公爵の名前はジョージ・ヴィリアーズなんですね。
M&Cのダイアナは、ミセス・ヴィリアーズと呼ばれますが、これは彼女の亡くなった夫の姓。彼女の元夫と、どこかで何かつながったりするんでしょうか?

あまり脱線しないうちに締めにしようと思います。
なんのかんの言っても、やっぱり歴史活劇っていいですね。


2011年11月13日(日)