Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
プリマスの話
映画M&Cのパンフレットに解説を書かれた作家松岡なつきさんの、エリザベス朝を舞台にした女性向けジュヴナイルノベルは、物語が続いていて先月16巻が発売になりました。 映画パンフで知って以来この作品は読み続けていますが、歴史考証がきちんとしていて、当時の登場人物の歴史観になるほどとうなづくこともあり、ジャンル的に読者が限定されてしまうのは勿体ないなぁと思ってしまったり、
最新刊では現代と16世紀で話が平行し、現代のプリマス市が舞台のひとつとなります。 ちょっと懐かしくなって、むかしプリマスを旅行した時の写真など引っ張り出して見ていました。 もう20年以上前の話です。初めてのヨーロッパなのに個人旅行でイギリスに行って、ポーツマスとプリマスとファルマスに、アレクサンダー・ケントの海洋小説の主人公リチャード・ボライソーの面影を追いかけていきました(当時はパトリック・オブライアン作品はまだ日本語訳が出ていませんでした)。
プリマスの書店ではちょうどボライソー14巻の「A Tradition of Victory(邦題:危うしわが祖国)」のペーパーバック版が出たばかりで、クリス・メイジャー(表紙画)の特大ポスターが張り出されていました。 プリマスは現代でも海軍の町だから、本屋さんの海洋小説のラインナップが豊富で、ロンドンの大型書店にも無い本などもあって、本屋で狂喜乱舞した記憶があります。
でもイギリスの中ではやはり、プリマスは特殊な町ですよね。 イギリスって昔ながらの家並みが残る町が多い…というか殆どですけど、プリマスは町中にコンクリートの近代的なビルが立ち並んでいて驚きます。 戦争の、というか空襲の爪痕を残す町。 このような町はドイツには多いですけど、イギリスには比較的少ないので。
市の中心部で昔ながらの建物といったら本当にセント・アンドリュー教会ぐらいではないのかしら? …と思っていたら、この教会も戦後の再建だったんですね。 日本は木造建築が多かったので、大空襲に遭うと後には本当に何も残らないのだけれど、 ヨーロッパの場合は石造建築なので、内部は全て焼けても瓦礫は残る。 粉々になった部分だけ新しい石材を入れて、焼け残っている石はそのまま使うという形で、石造建築の場合はある程度むかしの形を残して再建ができる…ということは私も、大空襲前の建築物を50年かかって再建したドイツのドレスデンで説明を聞くまで知らなかったんですけど、
セント・アンドリュー教会 よく見ると石がまだらです。 煤けて黒いのがおそらく空襲で残った部分で、新しいのが再建時に置き換えた石材なのだと思います。
ホーの丘には行ったんですけど、当時はナポレオン戦争時代と近代の海洋小説しか読んでいなかったから、丘そのものの写真というのはなくて、 印象的だったのは丘に建つ巨大な第二次大戦のメモリアル。
銅板のプレートには、1939年〜45年にこのプリマスを出航して、戻って来なかった艦とその乗組員の氏名が彫られています。 マレー沖海戦で沈んだ艦もあって、あぁ自分の国はかつて英国の敵だったんだなということを思い知らされる。
もう一枚のホーの丘の写真はこれ。 何を撮りたかったんだろう私は? 灯台(スミートン・タワー)でしょうか? この写真、奥手に古い建物が写っているのがわかりますか? プリマス・フォート(要塞)と呼ばれる、むかし司令部があった建物ですが(これも戦後の再建でしょうねたぶん)、
今日この写真を見ていて気づいたのですが、 ここってたぶん、ボライソーの24巻(1815年)当時はプリマスの港湾司令官になっていたバレンタイン・キーン中将が、アダム・ボライソー艦長のアンライバルド号の入港を見ていた場所ですよね。 この写真の右側はプリマス海峡で、この要塞は丘から港と海を見下ろす位置にあります。 そしてアンライバルド号を確認したキーンはみずから、艦長のアダムに叔父リチャードの死を伝えに行く、
この写真を撮った20年前は、先に言った通りまだボライソー・シリーズは最新が14巻で、リチャード自身がまだ少将だったしアダムは海尉になったばかり、リチャードの旗艦艦長はヘリックでした。 キーンはまだ旗下の一艦長で、将来このプリマスの港湾司令官にまで出世するとは思いもよらなかった…というか生き残るかどうかもわからず。
これは確かに20年前の、かなり昔の写真なのですが、そのあたりをつらつら考えるともっともっと昔のことのように思えてくる…ところが大河海洋小説ファンの醍醐味なのかもしれません(いや、それって私だけ?)
早川書房さま>ボライソー・シリーズはまだ一冊未訳が残っているんですけれども、彼らの幸福と読者の安心のために、訳して出版していただくことは出来ないんでしょうか?
2010年11月06日(土)
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