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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
火山と交通断絶と海峡横断

アイスランドの火山噴火によるヨーロッパの空港閉鎖では、1万人以上の日本人が立ち往生したとか、
水曜あたりから徐々に飛行機の運航も再開されているようですが。

私は、大型台風来襲で飛行機が飛来せずサイパン島に6日間閉じこめられたり、フェリーが欠航してエストニアの岸辺に一人取り残されたり、これまで「帰れなくなる」トラブルには二度ほど遭ったので、立ち往生された方の気持ちはイタイほどわかる。
やっと成田に帰れた旅行者がインタビューを受けてるのをTVで見ましたが、「時間がたてばこれも良い思い出になるのかもしれませんが、今はもういいです」と、
いやたぶん、時間がたっても良い思い出には変わらないと思いますよ…と経験者としては思ふ。まぁ人生の貴重な経験にはなるのですが。

ところでこの事態、島国である英国ではさらに大問題でした。ヨーロッパ大陸に取り残されドーバー海峡を渡れなかったイギリス人は20万人!
ブラウン首相はこの事態を、今まで直面したことのない最も深刻な交通断絶状態(most serious transport disruption)と述べました。

昔と違って、ブリテン島は孤島ではなく、今は英仏海峡トンネルという道が1本、大陸とつながってはいるのですが、パリ〜ロンドンを結ぶ高速鉄道ユーロスターはあっという間に満席。
飛行機と鉄道に乗れなかった人たちは、本数の限られたフェリーで本土に渡るしかなく、海峡に面したドーバーとカレーの港は船に乗り切れない人で大混乱だったそうです。
大陸に取り残されたイギリス人を救出するべく、英国海軍は空母アークロイヤルと強襲揚陸艦アルビオン、オーシャンを派遣しました。
なぜ強襲揚陸艦?…と思ったのですが、考えてみれば、フェリーにあぶれた人の中には車で大陸に渡っていて、もとからフェリーでないと帰れない人もいたはずで、その車…物流用のトラックとか乗用車…を収容するための揚陸艦だったのでしょうか?

そうそう、こういう時、「取り残される」に当たる英語は「stranded」だと今回初めて知りました。
海洋小説ではstrandedって「座礁した」という意味ですが、人が陸地に打ち上げられた時にも使うんですね。
…というか基本的に、海に囲まれた英国では、海に戻れなければ(海を渡らなければ)故国に帰れないという時代が長くて、それが単語の使い方にも影響しているのかもしれません。

ところで英紙The Guardianによると、火山の大噴火はあの時代…海洋小説の舞台となった18世紀末〜19世紀末にもよくあったそうです。
「アイスランドの火山灰は北はヘルシンキから南はナポリ、マヨルカ島、アレッポやダマスカス(現在はシリア)にまで及んだ」
…これは先週の話ではなくて、ジャック・オーブリーがまだ14才だった1783年の、アイスランドのラキ火山大噴火の時の話。
「このラキ火山の噴火は8ヶ月続き、気候を変えた。ヨーロッパ各地の気温は下がり、森には酸性雨を降らせた。このためヨーロッパは全土に渡り大凶作となり何百万頭もの家畜が死んだ。この凶作による飢饉が、フランス革命の遠因となったと考えられている。」
当時は江戸時代で鎖国していた筈の日本でも、このアイスランドの噴火の影響は受けました。日本でも気温が下がって凶作になり、天明の大飢饉が発生しています(日本の場合はこれに浅間山の大噴火が重なって更に被害が拡大したそうです)。

ジャックの活躍する時代で有名な噴火は、1815年4月のタンボラ山大噴火。
当時のオランダ領東インド、現在のインドネシア・スンバワ島(ジャワ島とバリ島の東)にあるこの火山の火山灰は地球規模で広がり、翌1816年、ヨーロッパと北米に夏は来なかった。6月にイタリアで霜が降り、7月に米東海岸ヴァージニアで雪が降ったそうです。
とりあえず現在はアイスランドの噴火はおさまっているんでしたっけ? 後日影響が出ないと良いですけれど。

この歴史と火山噴火に関する記事の詳細は下記(英語です)。
Iceland volcano: why we were lucky we weren't wiped out
http://www.guardian.co.uk/world/2010/apr/21/iceland-volcano-ash-extinction-human-race


2010年04月24日(土)