Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
大統領の海賊?
大統領の海賊ってナニモノ? とお思いでしょうが、もちろんこれに驚いているのは、米国のオブライアン・フォーラム(掲示板)の皆様も同様(女王陛下の海賊というのは有名ですけどね)。 以下は4月中旬にフォーラムの話題となったニュースです。
テキサス州選出の共和党議員が、米国議会に対して、合衆国憲法に定められた「Letter of marque」の権利を行使し、経費の削減を図るべきだという提案を行った。 「Letter of marque」とは、独立戦争や1812年の米英戦争当時にたびたび活用された、政府による保証状であり、民間船舶(privateers)が敵船を拿捕または破壊することを許可するものである。戦利品は賞金(bounty)と引き替えにされる。
私たちが読み慣れた歴史海洋小説では、 (というか、歴史海洋小説以外でこの単語の組み合わせを読んだ経験は、本日これまで無かったのですが) letter of marqueは拿捕免許状、privateerは私掠船と通常訳されておりまして、これを持っていれば海賊扱いされないという、あれのことです。
1787年に制定されたアメリカ合衆国憲法第一条第八節(十一)には、議会の承認を得られれば大統領にはletter of marqueを発行し、合衆国領海外で、限定された軍事攻撃行動(limited offensive warlike operation)を可能とする権限があるのだそうで、 テキサス州選出議員の提案は、この条文にもとづいている…というのですが、
21世紀に私略船?…なにを時代錯誤な! と思われるでしょう? ところが実際のところ、この議員の提案には以下のような極めて現実的な背景が隠されているのでした。
先日、ソマリア沖でアメリカ船が海賊に襲われ、誘拐された船長を救出に海軍特殊部隊SEALsが出動するという事件があったのですが、この作戦には実は1,000万ドル(10億円)近くの経費がかかったとされています。 「海軍の装備は本来、他国の正規軍を想定したものであり、米国海軍は最も優れた装備を有しているが、これは海賊と戦うことを想定したものではない」 そこで、 「このような任務は最新鋭装備の海軍ではなく、民間請負業者に委託した方が、経費節減となる」 というのが、この国会議員がletter of marqueとかbountyなどというものを引っ張り出してきた理由です。
bounty(賞金)というと私達がすぐに思い出すのは西部劇の賞金首ですが、2009年現在アメリカでは、実際に、オサマ・ビン・ラディンの身柄に2,500万ドル(25億円)のbountyをかけているのだとか、この場合のbountyは、「懸賞金」と日本語訳されているようですが。 であるからして、同様に海賊にも賞金…ではない懸賞金を適用することは可能である、と。
これはひょっとして、「学校給食は民間業者に委託した方が費用節減になる」という最近日本の地方自治体に人気の政策と、基本的には同じ理屈なのでしょうか? privateerっていうのはつまり、「野郎ども!かかれー!」とか言って斬り込む命知らずの船乗り集団ではなくて、private companyつまり民間企業というか、まぁアメリカには日本と違って、退役軍人が経営する民間軍事プロバイダーが数多くあるそうなので、基本的には軍に準じる民間企業組織を言うんでしょうけれども。
なんというか21世紀の現代に「海賊」というだけでも頭がイタイのに、さらに私掠船だとか賞金首だとか、 いやそれより、いまだに憲法第一条に私掠船条項が残されているアメリカって…、 第一条第八節は、(十)が海賊取締、(十一)が敵国船拿捕免許状、(十二)が陸軍、(十三)が海軍に関する条項なんですが、
アメリカ合衆国憲法 日本語訳(米国大使館のサイト) http://japan.usembassy.gov/j/amc/tamcj-071.html
あの国は、基本的人権の一つに「人民の武装権」が認められているので、自衛とか防衛の価値観が、現代日本とは基本的に違うんだろうなぁとは常々感じているところではあるのですが、 正直言って私個人的には、これにはちょっとついていけないものを感じてしまったり、 憲法に私掠船が認められているのって、ちょっと…ちょっと…この現代に、どうなんでしょう?
前回ご紹介した国連の海賊の定義にうるさいことを言ったのって、複数国ありそうですね。 懸念を表明しつつ、今後の動きを見守りたいと思います。
フォーラムで話題となった米国のニュース記事(英語) http://news.yahoo.com/s/politico/20090415/pl_politico/21245
2009年05月04日(月)
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