Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
なますとモンゴルの草原と八犬伝と五稜郭
お正月、皆様いかがおすごしでいらっしゃいました? うちは年末に母が風邪で寝込んでしまい、私はひとりでお正月準備をすることになってたいへん。とりあえず掃除は半分で、まずおせち。 そりゃぁお正月といったら何を(掃除を)おいてもおせちでしょう。なんと言っても年に一回しか食する機会のないものですから。 と言っても昔ながらに手づくりしているわけではありません。私が子供の頃は黒豆もきんとんも作っていましたが、今や手作りは、煮物と数の子と昆布じめのみ。今年はなますも買ってきてしまいました(でも市販のってお酢がきつい)。さらに昆布じめは、ヒラメが高値のため今年はあきらめ…ということで、煮物と数の子のみ自家製、あとは市販のものをお重に詰めただけ…だったんですが、結局どたばたして、お正月休みらしくなったのは新年あけて2日からでした。
2日はお誘いにのって日比谷シャンテに初映画。 「天空の草原のナンサ」モンゴルの遊牧家族のくらしを描いたセミ・ドキュメンタリー映画…になるのかしら。 お誘いくださったFさんとSさんとは4年前にモンゴル旅行にご一緒しました。なつかしかったね、モンゴルの草原。
映画では主人公たちが住んでいる家(ゲル)も、着ている服も、食事も燃料もすべて自家製の手作り。 ローラ・インガルス・ワイルダーの「大草原の小さな家」の世界ですよ。 東洋と西洋の違いはあるけど、草原で生活していれば基本は同じだということがよくわかります。 お父さんもお母さんも働き者で、9才の子供も立派に労働力、お手伝いというより一人前に、羊の面倒をみています。 地に足がついた暮らしってこういうことを言うんだなと。 この確かさはある意味、艦内に山羊を飼って乳を搾り、船体に損傷を受けても鋸と滑車とロープを使って自力で全て修理してしまうサプライズ号にも通じるものでしょう。
自力調達可能な生活って安心感があるんですよね。手づくりの安心感というのか。実際には働き者ではなければやっていけない世界かもしれませんけど。でも働いてる時間のみを言ったら、私たち毎日オフィスでコンピュータ相手に同じくらいの時間を使っている気がします。 私いつもは、家に帰ってから15分でごはん!…にしなければならないので、「ほんだし顆粒」を投げ込んでお味噌汁なんですけど、お正月の煮物は昆布と鰹節で丁寧におだしとって、なんだかそれができるのが嬉しかったんです。上手く言えないけれど、これも一種の手づくりの安心感というか、私的にはこの二つ(煮物のだしとモンゴルの映画)に共通するものがあって、なんとなく「ほんわか暖かいお正月休みを過ごしました」という感じです。 あーやっぱり、なますも手作りすればよかったか。
2日と3日の夜にはTBS開局50周年ドラマ「里見八犬伝」を放映していました。 その昔NHKの人形劇「新八犬伝」で育った世代といたしましては、やっぱり気になる。 3日の後編は後述の裏番組のため録画しましたが(まだ見ていない)、2日はしっかりお付き合いしました。
このドラマ、評判は良かったようですが。 確かに映像と衣装(ワダエミさんです)はとても綺麗だったし、いちおう元のストーリーを知ってる私にとっては中だるみもなく、「次のエピソードはこれだろう、わくわく!」感があって楽しかったのですが、 アクションドラマとしてはちょっと軽めで話がたらたらしてたから、初めて見る方が途中で飽きちゃったりしなかったかしらん?ってちょっと心配だった。 実際に初めてだった方>いかがでした?
私は昔みていた「新八犬伝」が1日10分だか15分番組の連続人形劇だったこともあって、話がたらたらしてもそういうものだろうと思ってるわけですが、そういえば真田くんと薬師丸ひろ子ちゃんで角川映画になった時には、コンパクトで波瀾万丈のアクション映画に化けてたので、こういう話しだったの?!と驚いたのでした。 馬琴の原作は全98巻28年連載だそうで。長編小説といえばハヤカワ文庫JAの「グインサーガ」は100巻越している筈ですが、あれは何年やってます?25年くらい? 私グインは25巻くらいまでしか読んでないんですけど、それでもそこまでの内容を2日間5時間のドラマにするのは無理ですよね、波瀾万丈すぎる。100巻までなんて言ったら絶対不可能でしょう。 ところが馬琴の場合は98巻の原作が5時間のドラマにおさまってもまだ、たらたら感があり、やろうと思えば2時間の映画にもなってしまう。 何が言いたいかというと、やっぱりこの原作が書かれた江戸時代と今では、時の流れとか密度とかすごく違うんじゃないかということなんです。 私はよくハリウッド映画を、ストーリー展開がスピーディすぎるとかアクションがどきついとか酷評するんですけど、この八犬伝をたらたらだと感じてしまう私の感覚もそれなりに現代に毒されているということなのかもしれません。
個人的には、そのむかしの「新八犬伝」を見てた小学生時代の記憶を、一つ一つ掘り起こしては確認する作業が楽しかったです。あぁそう言えばこういう人いたね、とか、こういうエピソードあったね、とか。 子供は音で覚えていても漢字では記憶していないものなので「かんとーかんれー・おおぎがやつさだまさ」が、扇谷上杉氏の関東管領上杉定正だって、今まで気づきませんでした。これってあの「天と地と」の上杉氏のご先祖さまですよね(直系じゃないかもしれませんけど)。 扇谷上杉氏についてはこちら↓。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%87%E8%B0%B7%E4%B8%8A%E6%9D%89%E6%B0%8F なんだか同世代にしかウケない感想で恐縮かも。
1月3日は昨年からの宣言通り、9時から「新選組!! 土方歳三最後の日」を見ておりました。 もう久しぶりに、ドラマの醍醐味に胸をつかれた感があり、堪能いたしました。
人生観がぶつかるのがドラマの醍醐味だと私はつねづね思っているのです。これって私にとっては、英国の第二次大戦モノの海洋小説の艦橋ドラマにも通じるポイントなのですけれども。 1月3日のドラマで最後に五稜郭に立て籠もった三人の指揮官、榎本、大鳥、土方も、それまで異なる人生を歩いて来て異なる人生哲学をもって生きてきたわけですが、最終的には一連託生で五稜郭に立て籠もることになって、その方針をめぐって対立することになるわけです。それはドラマの中では三人の丁々発止の掛け合いで表されるわけだけれども、あの会話(脚本の三谷氏いわくディスカッション・ドラマ)の中に、三人のそれぞれの人生が出てくるわけですよね。 新選組副長として、ある意味泥くさい血なまぐさい道を歩いてきた土方と、幕府のエリート艦長でオランダ留学もした西洋かぶれ(のように見える)榎本。 全く対照的な二人がぶつかって、でも最後には共通の目的にたどりつくまで…あぁぁドラマだわ(感涙)。 その詳細なんてとてもここには書けません。どうぞご覧になってください。明日7日にNHKBSで再放映があるそうです。
NHKBS2 1月7日(土)19:30〜21:00「新選組!! 土方歳三最後の日」
見どころというか、聴きどころについて一つだけ! 土方の人となりや人生については、おととしの大河ドラマを見ていらした方には自明のことだと思いますが、それに比べたら今回ちょっと分の悪い榎本武揚についてちょっとだけフォロー。 榎本は裕福とは言えない幕府御家人の子に生まれました。家の身分は幕臣としては決して高くはありません。今風に言えば政府に使える測量技師(国土地理院の技術者)の息子です。 最初は昌平坂学問所で漢学を学びましたが、黒船来航があって「これからは洋学だ!」ということになり、英語やオランダ語に切り替えました。 折しも幕府がオランダから海軍士官を招聘して長崎に海軍伝習所を開設したため、ここの伝習生になり、成績優秀であったため留学生としてオランダに渡りました。オランダで学んでいたのは造船学、艦船の運用など。 だから洋行帰りで西洋かぶれのように見えるんですけれども、でも彼の出発点は漢学を学んでいた御家人なんですよね。 べらんめえの土方に対し、榎本はぱりぱりと標準語で論を展開していきますが、よく聞いていると実は、途中でぼろっ、ぼろっと御家人言葉が出てきます。 御家人言葉というのは、勝海舟がしゃべってたので有名なあのちょっとべらんめぇ入った江戸侍言葉ですが、西洋気取りには似合わないちょっと泥臭い一種の方言みたいなものです。 土方にくってかかられて、それに答えているうちにぼろっとぼろっと榎本の語尾が標準語から崩れるんですよ。 それを見て、あぁこの人、西洋かぶれに見えても根は御家人なんだなぁと。幕臣の心意気みたいなものがあるんだなぁと、それが多分、天領(幕府直轄領)多摩の田舎侍の心意気…つまり近藤や土方が持っていた誇りや意地に通じるんだなぁと、なんだか嬉しかったです。
五稜郭降伏後、その罪を問われた榎本ですが、明治5年に許されて新政府に出仕することになります。 出仕先は北海道開拓使、彼は再び北海道に戻ることになります。そして彼を呼び戻したのは開拓使長官だった黒田清隆、あの時、五稜郭攻略軍の総指揮官だった人物で、ドラマの土方が首を狙っていた人物です。
榎本武揚について http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A6%8E%E6%9C%AC%E6%AD%A6%E6%8F%9A
今年は年初から胸にどし〜んと来るドラマを見ることが出来て私は幸福です。 映画やドラマや小説や…今年も良い出会いがありますように。
2006年01月05日(木)
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