Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
海軍中佐イアン・フレミング
新作007のジェームズ・ボンド役は、やっとダニエル・クレイグに決まった…というニュース、ロイター通信のニュースにもなっていて笑ってしまいました。 ともあれ、やっと決まって良かった良かった。
このボンド役候補、ホーンブロワーを演じたヨアン・グリフィスも一時は名前が挙がっていましたが、モンテ・クリスト伯でアルベールを演じたヘンリー・カヴィルまで出てきたのにはびっくりでした。クリスト伯の時、カヴィルはまだ18才くらいで(今だってまだ20台半ばだと思いますが)、私は密かに心の中でカヴィルを、ラミジ・シリーズのパウロ・オルシニにキャスティングしていたものでしたが。
私が初めて見た007はロジャー・ムーアで、「黄金銃を持つ男」だったような気がします。映画館に行ってはいませんから、テレビの洋画劇場だったのか? 中学生の時でした。 ロジャー・ムーアは「ダンディ2の華麗な冒険」というTVドラマ――アメリカの大金持ちのトニー・カーチスとイギリスのお貴族様のロジャー・ムーアが事件を解決していくという1話完結ドラマ(放映はフジテレビorTBSだったような気が)、で知っていたので、ちょっと興味があって、じゃぁ007も見てみようかと。
折しもそろそろ、背伸びして大人の本(文庫)に手を出したいお年頃だったものですから、この映画をきっかけに、そのままハヤカワ・ポケット・ミステリのフレミング原作に手を出し、他に何冊もシリーズがあることを知って、端からフレミングを読み始めました。 今から思えば無謀な読書だったと思いますが…13才の、少女とも言えない年齢の女の子の読む本じゃありませんもの…事実、当初私は本を読みながら、非常に素朴かつ重大な疑問を抱えていました。
ジェームズ・ボンドは陸上でスパイ活動をしているのに、なぜ海軍中佐なんだろう???
陸上で活動する軍人さんは全て陸軍さん、海軍さんは海の上でしかスパイ活動はしない、と中学1年の私は思いこんでいたみたいで、まったくやれやれです。
初めて映画館で見た(テレビやビデオではなく)ボンドは、ティモシー・ダルトンでした。歴代ボンドの中ではいちばんソフトムードな役者さんですが、私にとってのボンドはやっぱりこの人でしょうか? ピアース・ブロスナンに変わってしまってからは映画館には行ってません。というか、ダルトン主演でも後期の作品になると、ただアクションの派手さだけが目立つような作品になってしまったので「なんかこれって007とは違うんじゃないか?」と思うようになってしまいました。 “007らしさ”というのは、私の場合、英国紳士らしさとイコールなので、やはりそこは、アメリカン・ヒーロー映画(シュワルツネッガーとかスタローン主演路線)とは一線を画してもらわないと…、 歴代ボンドの中で、ソフトムードのダルトン・ボンドが一番好き(世間一般では少数派だと思います)…というのも、私のそのあたりの好みが出ているかもしれません。
ところで、この007シリーズの原作者、イアン・フレミング自身を主人公にした映画の企画があるそうですね。 映画関連のニュースに出ていました。 これはちょっと興味が。映画化が実現したら見に行ってみようかな…と。
英国の冒険小説作家は、サマセット・モームの昔から諜報活動関係者が多いのが伝統ですが、その典型はこのイアン・フレミング海軍中佐でしょう。 フレミングが活躍していたのは、第二次大戦時の英国情報部。
クリストファー・クレイトン、ノエル・ハインド共著の「ポーツマス港の罠」(新潮文庫)という本があるのですが、この小説、容易に想像つくと思いますが、私はタイトルにつられて(笑)買いました。 1956年のポーツマス港を舞台にしたスパイ小説で、実話に基づくという触れ込みも、おそらくは本当だろうと思わせる迫力があります。
この作者の一人であるクリストファー・クレイトンも英国冒険小説作家の例にもれず、諜報活動経験者でした。 …どころか、戦時中はイアン・フレミングの部下で、副官のような立場にいたこともある人です。 その当時の、つまりフレミングの部下時代の経験をクレイトン自身が書いた本があると知って、私は興味を持って探してみました。 その本、英語タイトルは「OP・JB」と言って、英国では政治ノンフィクションの分類なんですが、日本語版は落合信彦氏の翻訳で「ナチスを売った男」(知恵の森文庫)というタイトルになっています。 妙なところからぐるっとまわってイアン・フレミングに戻ったような形です。
映画化されるというフレミングの映画が、どのような物語になるのかはわかりませんが、クレイトンによれば、フレミング自身は戦時中の自分の活動について、自ら語ることはなかったということです。 「サハラに舞う羽根」のタイトルで映画化もされた小説の作者で、やはり諜報活動経験者でもあったA.E.W.メイスンは、「自伝を書かないのか?」と訊ねられた時に、こう答えたそうです。「私の人生は全て、私の小説の中に書かれている」 イアン・フレミングの人生も、その多くは、彼が書いた小説の中にひっそりと形を変えて描かれているのでしょうか?
2005年10月19日(水)
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