Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
野上隼夫氏原画展、横浜で開催
横浜の日本郵船歴史博物館で11月28日まで、ハヤカワ文庫NVから出版されているボライソー・シリーズ15巻以降の表紙画等を描かれている野上隼夫氏の海洋画展が開催されています。 野上氏は近現代の艦船も数多く描かれており、18-19世紀の帆船画がどの程度展示されているかはわかりませんが、横浜に行かれたら是非足を延ばされることをおすすめします。
日本郵船歴史博物館のHP http://www.nykline.co.jp/rekishi/index.htm
海洋画と言えば、9月にオーダーしていたジェフ・ハントの画集がようやく届きました。ハントは、オーブリー&マチュリン原作の表紙画で有名な英国の海洋画家です。 21ポンド(4,200円)と高価ですが、それだけのことはあると思います。 文庫やペーパーバックの小さな画面ではなく、大版で見る海洋画はやはり迫力がありますが、それ以上に私が感激したのは、繊細な光線を見事に描き出した空と海でした。
9月末にハヤカワ文庫から出たジュリアン・ストックウィンのキッド3巻「快速カッター発進」の表紙にしても、文庫のあの小さな画面ではとらえきれない、夕陽を映して煌めく海面の小さな波や、水平線から除々に色を変えていく空の美しさに、ため息がでます。
パトリック・オブライアンの表紙画からは、2巻「勅任艦長への航海」4巻「攻略せよ!要衝モーリシャス」7巻「The Surgeon's Mate」11巻「The Reverse of the Medal」12巻「The Letter of Marque」18巻「The Commodore」19巻「The Hundred Days」20巻「Blue at the Mizzen」が紹介されていますが、これだけではなく、ハントがオブライアンに触発されて描いた表紙以外のオーブリーの指揮艦、表紙用の別バージョンスケッチなども見ることができて、ファンには必見です。 個人的には、9巻の表紙画である月光のマルタ島・グランドハーバーを見ることが出来なかったのがとても残念なのですが。
オブライアン以外にも、ネルソンの旗艦ビクトリー号を初めとする同時代の有名な艦船を主題とした海洋画、19世紀の快速帆船、アメリカズ・カップのレーシング・ヨット、20世紀の英米艦艇が紹介されています。 拾いものだと思ったのは、ダドリ・ポープの「The Black Ship」(未訳:18世紀末の有名な反乱事件を描いたノンフィクション)の表紙画(フリゲート艦ハーマイオニー号)があったことでしょうか?
基本的に、ジェフ・ハントの海洋画は色彩が明るいですね。やはりターナーの国…と言ってしまうと色眼鏡かもしれませんが、基本的にはあの淡い色彩です。 これは、英国のあのどんよりとした空と鉛色の海からすると何やら不思議で、それはジャックが航海しているのは一部の巻を除いては紺碧の地中海だったり、南太平洋だったりするのですから、正しいことではあるのですが。 日本でむかし徳間書店から出ていた頃のオーブリー&マチュリン・シリーズの表紙は、生頼範義氏でしたが、こちらは逆に、色彩がいかにもヨーロッパで暗かったんですよね。出航直後の英仏海峡とおぼしき絵が多くて。
これってやっぱり、出版社にしてみれば読者の夢をさそう計略なのでしょうか? どんよりした天気の毎日を暮らすヨーロッパの読者は、明るい南の海の表紙につい本を手にとり、逆にヨーロッパよりは緯度が低く明るい色彩の海を見慣れた日本人向けには、暗いヨーロッパの色で異国情調を誘う…というか。
これは以前にも書きましたが、私、生頼氏の描かれる海と空も大好きなので、このジェフ・ハントのような生頼氏の画集を是非日本でも出版していただきたい…と願うものです。
2004年10月23日(土)
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