Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
東京バックステージツァー・レポート
19日の夜に開催された「マスター・アンド・コマンダー」のバックステージツァーに行ってきました。 映画の撮影に利用された復元帆船ローズ号の元クルーで、現在京都にお住まいのトム・マクラスキー氏のお話を伺うイベントです。 主催はSalty Friends、国内外の種々の帆船で航海を経験したメンバーが、帆船や海、船の面白さや海洋文化の振興、セイルトレーニングの普及などを目的に活動を開始したばかりの団体です。
会場には最終的には100名弱の方が集まる盛況、年齢層も広く、実際に帆船やヨットに乗っていらっしゃる方、帆船模型を作っていらっしゃる方、映画ファン、海洋小説ファンなど様々な方が参加されていました。
講師のマクラスキーさんはアメリカのウェスト・バージニア出身。大学卒業後ヨーロッパ放浪中にアイルランドからカナリア諸島までヨットで航海するチャンスにめぐまれたことから海と船に魅了され、以後4年半を帆船(主に木造帆船)のクルーとしてすごしました。 映画「M&C」でサプライズ号を演じたローズ号には、2000年から乗り組み、映画製作中の1年間はローズ号の甲板長として活躍、現在は京都で日本語と日本文化を勉強中で、今回のプレゼンテーションも日本語で行われました。
客席からの複雑な質問や、帆船に関する細かい説明は、かつてローズ号の乗組員を1年務めた帆船「海星」の元船長S氏(マクラスキー氏の船乗仲間)が、通訳とともに補足してくださいました。 とてもアット・ホームな講演会で、マクラスキー氏というよりトムさんの方が当日の雰囲気をよくあらわしていると思いますので、以後、トムさんで紹介させていただきます。
そうそう、大阪のバックステージツァーに参加された方から、「トムさんは素でロード・オブ・ザ・リングのエルフが出来る方だ」と聞いていたのですが、金褐色の長髪を、18世紀の船乗り風に弁髪(一本の三つ編み)にして背中に流したトムさんは、確かに角笛城の城壁から矢を放っていてもおかしくない方でした。 メイキング本をお持ちの方は、5章「Mastering the Crew」の軍医助手ヒギンズの写真を探してみてください。ヒギンズの後ろに写っている横顔の水兵がトムさんです。映画の中で最もわかりやすいのは、ジョー・プライスの手術のシーン。カラミー候補生の左隣で手術を見学しています。 ローズ号の本来のクルーは皆、当時の衣装を着て、日焼けの化粧もして、映画の中で活躍しました。ヤード(帆桁)など高所で作業している水兵は、ほとんどがローズ号のクルーだそうです。
さて、トムさんのお話はまず、ローズ号を東海岸ロード・アイランド州ニューポートから、映画の撮影所のあるメキシコへ回航するところから始まりました。 回航前にローズ号は乾ドック入りし、船首に銅板を貼られました。当時のフリゲート艦はたいてい、防水対策をかねて喫水線下に銅板を貼っていたのですが、これまでローズ号は銅板がなく、ペンキなどで防水対策をとってきました。これはただ単に経済上の理由だからだそうです。 今回の映画化にあたり、映画会社がお金を出してくれたので、やっと銅板が貼れた…との由。 このほか、メキシコへの航海に備えてエンジンも馬力のあるものと交換しました。
2001年1月中旬、メキシコへ向けニューポートを出発。この時期は、実は最も北大西洋が荒れる季節に当たるのですが、映画の撮影に間に合わせるためには致し方ありません。 実際、出航3日後には嵐に見舞われ、風速40メートルの風、7メートルの波を切り抜けなければなりませんでした。 カリブ海ではメイントゲルン・マストが折れるというトラブルにも見舞われ、パナマ海峡を抜けた太平洋のメキシコ沖では、近くで竜巻が発生してヒヤヒヤするなど、なかなか大変な航海だったようです。
ようやくカリフォルニア州のサンディエゴ港に入港。ここの乾ドックで今度は、ローズ号をサプライズ号に改修する作業が始まりました。 この作業には4ヶ月かかりました。マストはロワーマスト(一番下の部分)をのぞいて全て取り外し、バウスプリットともども、新しいものに交換されました。 英国で建造されたローズ号(復元船のもととなった実際のH.M.S.Rose)と異なり、もとはフランス艦だったサプライズ号の艦尾は丸みを帯びているため、艦尾構造物も作り直されました。もちろん船首像も交換です。
艦首部には18世紀風の巨大な錨が取り付けられましたが、実はこれプラスチック製。後にメキシコで実際に投錨してみたところ、見事にぷかぷか浮いてしまい撮影にならなかったそうです。 復元船とは言うものの、現代に建設されたローズ号のリギン(マストなどを前後から張って支えているロープ類)は、全て細くて丈夫な鋼鉄製なのですが、実際に太い植物性ロープだった18世紀当時らしく見せるために、鋼鉄のワイヤーロープを植物性のロープで巻いて太くする作業もありました。 この作業の出来ない鋼鉄製ロープについては、全てゴムのカバーをかけて、植物性ロープらしく見せかけました。
舵の位置もミズンマストの前に移動、中央部には格子板が取り付けられましたが、実はこの下にはエアコンが設置されたそうです。 ローズ号にはない、スタンスル(横に張り出す追加の帆のこと。映画ではアケロン号から逃げる時に張り増していました)も貰いました。
メキシコの巨大プールに建設された、もう一隻のサプライズ号や、アケロン号のセットについても、建造中の写真が紹介されました。 アケロン号は映画に写る左舷部分のみきちんと作られていて、右舷部分は(カメラに写らないので)骨組みだけ、マストも途中までしかありません。 プールに隣接したスタジオの建物は、背景に写ってもCGで消しやすくするために、全て青色に濡られていました。 このプールは一方が太平洋に面しているので、太平洋側を背景に撮影すると、実際に大海原にいるような映像になります。
大道具や小道具の写真も紹介されましたが、その中で一番高価なものは、当時のアンティーク品である艦長の懐中時計で、これは実は3万ドル(約350万円)のシロモノだそうです。
またメキシコの太陽は強烈なため、セットの上にはクレーン吊りの巨大な日傘が設置されていましたが、この日傘は夜のシーンでは照明を反射して月光を作り出す役目も果たし、そのためにmoonと呼ばれていました。 ホーン岬の雪のシーンの撮影は、実は真夏のメキシコに何トンもの雪を運び込んで行われましたが、喜んだエキストラが雪合戦を始め、ついにはラッセル・クロウまで一緒になって大合戦になってしまいました。 嵐のシーンの撮影は、船の脇に設置したタンクから海水を流し落として波としていましたが、傾いた甲板で水に流されるのは危険なので、流される水兵の役は全てスタントマンが演じました。 プールに作られたセットのサプライズ号には実はトイレが無く、必要な時にはイカダで岸に渡らなければなりませんでしたが、間に合わない時は昔ながらに大海原をトイレに(でも海中には撮影用のダイバーが潜っていたのでひんしゅくをかったのだとか)。 …いろいろ裏話を伺いました。
主演のラッセル・クロウについて、彼にはバイオリンのレッスンや英国英語の発音指導、殺陣の稽古など非常に忙しいスケジュールがあったにもかかわらず、撮影スタッフの名前をよく覚えて、声をかけていたとのこと。ローズ号のクルーであるトムさんの名前もちゃんと覚えていました。 トムさんは碁を打つので、映画「ビューティフル・マインド」では碁を打っていたクロウ(ナッシュ)を対局に誘おうとしたのですが、残念ながらクロウ自身は碁が打てないとのこと、にもかかわらず碁については大変よく知っていて、話しがはずんだとのことです。 艦長と副長がマストに登るシーンは、最初はブルースクリーンで撮ることになっていたそうですが、クロウ自身の希望で実際に登って撮影することになり(バックステーを滑り下りるシーンも彼自身、スタントなし)、実は命綱もつけていなかったことが後でわかって、彼はFOX社のディレクターから大変に怒られたのだそうです。
お話の大筋はこのようなものでした。 あとは、映画のわからない点について個人的にいろいろお尋ねしてしまったのですが、それについてはいずれ、3月7日の日記からつながっている解説ページに反映させていただきます。
トムさん、S船長、いろいろと変な質問をして申し訳ありませんでした。丁寧に答えてくださったトムさんには本当に感謝しています。 Salty Friendsのスタッフの皆様、本当にご苦労さまでした。またこのような海と船に親しむ事の出来る企画を楽しみにしています。 Salty Friendsでは4月から帆船を中心にした海と船の情報をメールマガジンで発信していかれるとのことです。興味をもたれた方は、2月19日付け日記から、Salty Friends HPへ。
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年度末業務多忙のため、大事な時期に週末1日しか更新できず申し訳なく思っています。 まだ脚本家ジョン・コーリー氏の紹介記事とか、いろいろ面白いネタはあるのですが。 4月に入れば少し時間も出来ると思いますので、いましばらくお待ちください。 …とか言って、私に時間が出来た頃には映画終わっている…というのは無しにしてくださいね。
最近はたぶん、皆様の方が私よりよく映画をご存じだと思います。バックステージツァーの会場には、なんと既に13回映画を見た!という方がいらっしゃいました。 まだ前売り件が1枚残っているので、何とかちかぢかもう一度映画に行きたいと思っているのですが。
月〜金は残業に追われているため、メールをいただいてもお返事をさしあげることが殆どできません。 今しばらくは対応が滞ると思いますが、よろしくお願いいたします。
また、帆船模型の製作のためにサプライズ号のとローズ号の線図についてお問い合わせのメールをお送りいただいた方、お返事をさしあげたいのですが、返信メールが戻ってきてしまいました。正しいメールアドレスをご連絡いただければと存じます。
2004年03月21日(日)
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