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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
【未読注意】原作10巻補足解説

【未読注意】1月末にハヤカワ文庫で出版されたオーブリー10巻をまだお読みでない方は、ねたばれの可能性がありますのでご注意ください。
これはこの日記の1月24日、25日付にてupした「ねたばれ無しに10巻を読む方法」を踏まえた上で、10巻を読むにあたって、また映画を見る時に必要となるこれまでの事情について、現在翻訳が中抜け状態になっている4〜9巻から、簡単に解説を行うものです。
1月24日25日付けで「重大なねたばれに付き読んではいけません」と忠告した箇所のねたばれについては、ここでは一切、解説いたしません。この重大なねたばれについては、別に現時点でご存じなくても10巻を読む上で、また映画を見る上で何ら問題はありませんので、このまんま、ひ、み、つ。


そうそう、これは海洋小説系の掲示板にあった書き込みですが、オーブリー&マチュリンの4〜9巻はいずれ早川書房から発売されるようです。
A氏のご指摘によれば、ハヤカワ文庫では背表紙に作者別の通し番号がふってあるのですが、3巻「特命航海、嵐のインド洋(下)」の作者番号は「オ‐4‐6」。これに対して10巻「南太平洋、波瀾の追撃戦」の作者番号は「オ‐4‐19」と「オ‐4‐20」であるとのこと。
「オ‐4」というのがオブライアンの固有番号なので、6の次が19ということは、いずれその間に7〜18が入るのではないかと。


さて、パトリック・オブライアンの困ったところは、物語が1冊では完結しないことです。1巻完結なのは4巻までで、5〜7巻は3巻で一続きの物語、8巻から始まるオーブリーの作戦航海は10巻をはさんで、最終的には11巻の第一章まで続くようです(11巻はまだ未入手なので、これについて今はお尋ねにならないでくださいね)。

10巻でジャックが拝命する敵艦追撃ミッションは、8〜9巻での地中海での作戦行動とは異なる性質のもので、一線は引けるものの、キャラクターの一部は8巻から持ち越しとなるので、初めて10巻を読むと、とまどわれる方もあるのではないかと思います。
ここでは基本設定(キャラクター、艦船)について、10巻原作と映画を楽しむ上で最低限の補足解説を行います。

■ジャック・オーブリー(勅任艦長)
サプライズ号艦長。3巻の後、フリゲート艦Boadicea号、50門艦レパード号の艦長を経て、8巻冒頭では74門艦ワーチェスター号艦長を拝命。ただしワーチェスターは船齢40年の老朽艦。
この老朽艦が嵐で損傷しドック修理を要したこと、同じ艦隊に属していたサプライズ号の艦長が戦死したこと、ギリシア沿岸のトルコ勢力を相手とした諜報・外交活動にスティーブンの手腕が必要とされたこと…などのもろもろの事情から、8巻途中から急遽、古巣のサプライズ号の艦長職に復帰、イオニア海からエジプトへ向かう。10巻冒頭ではその任務を終了しジプラルタルへ帰還。
捕虜としてアメリカのボストンにいた経験…は、原作10巻を読むのには必要だが、映画には必要ない事実でしょう。

■スティーブン・マチュリン(軍医)
ねたばれ無しに10巻を読む限りにおいては、特記事項なし。
もっとも、ポール・ベタニーも語っている通り、この人は10年間独房に隔離されても以前と全く変わらずに出てくる人だと思われるので、4〜9巻が抜けたところで、何かが変わるようなことはないでしょう。
ちなみにジャックがボストンにいた時にはスティーブンも一緒でした。

■トム・プリングス(副長・海尉艦長)
映画「M&C」では海尉でサプライズ号副長。原作10巻では海尉艦長に出世するも指揮艦がなく、サプライズ号で求職活動中。
1巻で航海士、2〜3巻で海尉、5巻のレパード号、8巻ワーチェスター号でジャックの副長。
プリングスは8巻でのトルコ艦2隻との戦闘の功績が認められ、海尉艦長に昇進しました。
ただしこの戦闘で彼は重傷を負い、映画をご覧いただくとおわかりの通り、額から右の頬にかけて傷跡が走ります。実際の傷はもう少しひどいのですが(トルコの円月刀で切り落とされた鼻を、スティーブンが丁寧に縫いつけたという経緯あり)、さすがにジェームズ・ダーシーのハンサムな顔にあれ以上の傷は書き込めなかった模様。

■マウアット(海尉)
1巻で航海士、8巻からジャックの部下に戻ってきて二等海尉。プリングスの転出後は副長。
映画では自作の詩を披露する機会はありませんが、詩人だという設定は生きているとのことです。

■マーティン(牧師)
戦列艦ワーチェスター号の従軍牧師として8巻から登場。実は鳥の観察が趣味だとわかり、スティーブンとは意気投合。
彼の片眼はふくろうに突つかれて駄目にしたもの、雛がいたのに気づかず巣に接近しすぎたために襲われたそうです。「でも片眼だと望遠鏡をのぞく時に便利ですよ」と明るく言う、好奇心旺盛で懲りない青年(スティーブンより10才程度年下と思われる)。
残念ながら映画には登場しません。

■キャラミー(先任候補生)
映画では18才の設定だが原作ではもう少し若い。8巻からジャックの下で候補生。戦死した勅任艦長の息子。
ジャックはキャラミーの父親とTheseus号で一緒に勤務した経験があり、その縁でキャラミーの母から息子を託された。
父親はAtalante号の艦長を経て、1808年の秋(原作10巻は1812年の設定)に74門艦ロチェスター号の艦長として戦死。
この設定も映画で生きているそうです。キャラミーはジャックに戦死した父親を重ねている、とは彼を演じたマックス・ベニッツ談。

■ボンデン(艦長づき艇長)
1巻からジャックと行動をともにする艦長づき艇長。
ジャックのボディガードを務めるのは当然だが、ジャックの命令でスティーブンの潜入任務に同行することもある(4巻など)。
老水兵ジョー・プライスの従兄弟…という設定は映画ではどうなってしまたんでしょう?

■キリック(艦長づき給仕)
1巻からジャックと行動をともにする艦長づき給仕。ジャックが家庭をもってからは、陸にいる時はジャックの家で働いているようです。

■ジョー・プライス(老水兵)
2巻からジャックと行動をともにしている老水兵。ボンデンの従兄弟。

■オークワード(つむじ曲がりの)・デイビス(水兵)
ジャックの艦が長い水兵。のろまでぶきっちょ。海に落ちておぼれかけたところを、ジャックに救助されたことがある(何巻でしたっけ? もっともジャックは大勢海難救助しているんですけど)。

8巻から行動をともにしている下士官には、他に掌帆長のホラー、船匠のラムがいます。


また原作10巻の登場人物のうち、以下のメンバーは映画には登場しません。

マーティン牧師、ハニー三等海尉代行、メイトランド四等海尉代行、アダムズ主計長、ホーナー掌砲長、ワード書記、ミセス・ホーナー、ミセス・ラム、ミセス・ジェームズ。


2004年02月08日(日)