Sail ho!
Tohko HAYAMA
ご連絡は下記へ
郵便船
|
|
Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
【未見注意】映画「サハラに舞う羽根」
【未見注意】9月20日から全国東宝洋画系で公開中の映画「サハラに舞う羽根」、 創元推理文庫、角川文庫から出版されいているA.E.W.メースンの原作 さらに1939年製作の「四枚の羽根」(IVCよりDVDにて発売中)について ねたばれがあります。
公開中の映画「サハラに舞う羽根」に行って来ました。 1980年代のスーダンを舞台にした、赤海老さん(英国陸軍)の物語です。
映像が素晴らしく、物語も単純明快化されることなく、様々な人物や文化の対立と理解、融合をセリフよりむしろ演技で見せる…という作りになっていて、見応えがありました。もう一度見に行ってじっくり味わいたい映画だと思います。
公開に合わせて創元と角川から原作が出版され、IVCからは1939年の映画化作品(こちらは原題である「四枚の羽根」というタイトル)がDVDとして発売されました。 私はそちらを先に予習してしまったのですが、おかげでちょっと価値観の混乱があったかもしれません。 予習なしで2003年の映画をご覧になった方の感想をちょっと伺ってみたい…と思っているのですが。
この原作が書かれたのはまだ英国が着々と植民地化政策を進めていた1901年、映画化は第二次大戦直前の1939年でした。 先行する二つの作品(原作と1939年版)では、主人公ハリーがなぜスーダン従軍を拒否するのかについて、セリフなどで理論的に説明されています。時代背景を考えれば、読者なり観客が納得できるだけの理由説明が必要だったのでしょう。 原作の理由は、ハリーが自分の強すぎる感受性と想像力から自身を臆病者だと思い込むことですし、1939年版では適職選択の自由(一家の伝統から父の言うままに士官学校に行ったが、自分は軍人には向いていないので、適職につき自分の人生をおくりたい)が理由になっています。
ところが2003年版では、この理由について、セリフで詳しく説明がなされているわけではありません。 不必要な海外進出や植民地政策に反対し従軍を拒否する行動は、現代の価値観では十分に理解できるものです。ですからその部分がさらっと流されてしまっても、別に違和感は感じないのですが、でもふと立ち止まって考えてみると、現代の価値観でこの映画の中のハリーを理解してしまって良いのか、ちょっと悩むわけです。
スーダンに渡ったハリーは、現地人であるアブーと友情で結ばれることになります。過酷なアフリカの砂漠という環境にさらされた時、イギリス人と現地人がお互いに一人の人間として理解しあう、これも現代なら当たりまえとおもわれますが、でも120年前の価値観では、もっとイギリス人の側に壁が高かったんじゃないかと思うんですよね。 じつは先週「名もなきアフリカの地で」という、第二次大戦中にケニアに繰らすことになったユダヤ系ドイツ人一家の映画を見たのですが、60年前でも、彼らが本当にアフリカにとけ込むにはかなりの時間がかかっているのです。
映画が時代とともに変化するものだとすれば、2003年に生きる私としては、あまり余計なことを考えず、現代人の感覚でスクリーンに映し出されるものだけを受け止めれば良いのでしょうか? このあたり、前知識なくこの映画をご覧になった方のご意見をお伺いしたい次第。
100年前の価値観を色濃く反映する原作は、2003年の映画とは別物として、なかなか魅力的な作品です。名誉を重んじ自己抑制の行き届いた主人公たち。国は全く違うんですけど、「雰囲気が明治の男だなぁ」と思います。聡明で毅然としたヒロインは、まるで武士の妻のようですし。 あの時代に生きた人たちは、洋の東西を問わず同じような価値観だったのでしょうか? これもちょっと意外な発見でした。
1939年の映画は、いわゆる「ハリウッドの映画化」に近いストーリーの整理がなされ、ハッピーエンドの冒険活劇的な作品にまとまっています。ゆえに主人公たちの苦悩が薄れてしまいちょっと残念。 でもこの映画の貴重なところは、エジプトとスーダンで現地ロケを行っていることで、アスワン・ハイ・ダム建設以前のナイル川を遡行する三角帆のダウとか、当時のスークの雰囲気とかがそのままにスクリーンに残されています。 主人公のハリーはジョン・クレメンツ、デュランスをラルフ・リチャードソン、エスネはジューン・デュプレが演じています。クレメンツとリチャードソンは戦後も俳優として活躍、いずれもサーの称号を受け、クレメンツは「ガンジー」、リチャードソンは「空軍大戦略」などに出演しました。
このクレメンツの出演作を検索していて、面白い発見をしました。 クレメンツは1982年制作のTVドラマ「I remember Nelson」でエマ・ハミルトンの夫、サー・ウィリアム・ハミルトンを演じているんですね。ネルソン役はKenneth Calley、エマはジェラルディン・ジェームズ、そしてネルソンの旗艦艦長ハーディはティム・ピゴット=スミス、つまり「サハラに舞う羽根」の父フェイバーシャム将軍を演じた俳優さんだったのでした。
2003年09月27日(土)
|
|