「アメイジング・グレイス」
父と母が夢中になっているそのドラマのスペシャル版を「録ってあげてる」と半ば無理強い気味に薦められ、見た。役にのめりこむあまりに収録が終わって暫くして自殺をした悲劇的俳優の話を憶えていて少し興味はあった。演じるという事が職業の俳優すらそのように取り込んでしまう恐ろしい魅力を持つストーリーとはどういうものなのか。 ふむ。なかなか噂どおり面白いかも知れない。作られた時代を考えると斬新なのかも。わたしはドラマについてというよりも、ドラマからわたしへ引き出された色々なものを想った。あのひとも先では教授と呼ばれる位置へ上るだろう。そこでなにを見るのか。その時、あのひとはあのひとの原型を残しているだろうか。 そんなことをぼんやり考えているとエンディングで流れ出した「Amazing Grace」。その懐かしい音にはっとする。意味も知らず、中学の時によく聴いた。以前よりゴスペルというものが嫌いではなく、クラシックからビートルズ、挙句Xにも及ぶ音楽好きの母とあれがいいこれもいいと語ったのを憶えている。 還る、というイメージが何時もわたしを包む。きっとこれは懐かしい場所に還る音。そう思う。ひとはひとに還る。何度も、何度も。生存の光の中で。 白い巨塔のエンディングがこの曲という事はとても正しいような気がする。 |