8月6日、午後…。
その電話が鳴った瞬間、すべてを悟った。 めったにかけて来ない父からのコール…。
「さっき逝っちゃった」
ある程度覚悟ができていたせいか、その事実を冷静に受けとめている自分がいた。
「とにかく目の前の仕事を片付けなきゃ…」
すぐにでも帰省したい気持ちを押さえ、ほぼ徹夜状態で必要最低限の仕事を終えたのは午前6時過ぎ。
喪服と着替えをカバンに入れ、午前中の高速バスに乗り一路名古屋へ向かう。
実家に着いたのは、午後3時過ぎ。親戚一同がすでに集まっていた。
「母ちゃんね、あんたを待ってたんだよ」
導かれるように通された部屋の中央で白い布に覆われた母が静かに眠っていた。その安らかな寝顔を見た瞬間、こみあげる感情が押さえきれなくなっていた。涙がとめどなくこぼれ落ちる。
在りし日の母の姿が脳裏に浮かんでは消えていく。
「遅くなってごめん」
それが精一杯だった。
葬儀屋さんの説明を受け、母のからだを親族の手で棺に入れる。そのまま僕は、母と一緒に通夜の会場へ向かった。
夜7時、通夜が始まる。悲しみに暮れてるひまもなく、喪主としてやらなきゃならないことが目の前に横たわっていた。
父の意向で、そんなに知らせていたわけでもないのに、たくさんの人たちが弔問に訪れてくれた。
その日は母と一緒に通夜会場で一夜を過ごすことになった。
大阪からわざわざ駆けつけてくれたGさん、ありがとう。
8月8日、午前10過ぎ。全国から30余りの献花が届けられる。ありがたい気持ちでいっぱいだ。
11時から葬儀が始まった。
親族を代表をしてのあいさつは、声を振り絞りながらなんとか終えた。最後はこんな言葉で締めくくった。
「母さん、ありがとう。今は安らかに…」
いよいよ出棺の準備に入る。これが本当に最後のお別れだ。親族の手で棺の中を花で埋め尽くす。
胸が締め付けられて、切なくて、悲しくて、やりきれなくて…
涙で視界が見えなくなる。
棺の蓋が閉められる直前、僕は小さなつぼみの花を棺に入れた。その行為がとても大切なような気がしたからだ。
喪主の僕を先頭に、火葬場へ進む。
「6番」
棺をその場所へ入れる瞬間の気持ちは、もうなんて表現すればいいんだろう。
「逝かないで…」
鉄の扉が下ろされ、キーでロックされる。
喪主の僕は、そのキーと収骨時刻が記載された紙を受け取った。
おとき料理をいただき、その場所に戻ったのは午後2時前。
まず、喪主の僕だけが呼ばれ、収骨の場所へ案内された。かすかに人の姿を形どった骨だけが残された場所…。
合掌。
親族が呼ばれ、母の骨をひとつひとつ丁寧に骨壷へ収めていく。
静寂とは、まさにこんな瞬間なのだろうか。
8月6日、午後2時半過ぎ。 病気療養中の母が急逝いたしました。
急遽、喪主を務めることとなり、月曜から実家に戻っておりました。連絡が行き届かず、ご迷惑をおかけしてしまった方々、申し訳ありませんでした。
弔電、献花をくださったみなさん、本当にありがとうございました。
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