セクサロイドは眠らない

MAIL  My追加 

All Rights Reserved

※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →   [エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう  俺はさ、男の子だから  愛人業 

DiaryINDEXpastwill


2002年03月03日(日) 手を無理矢理振りほどき、僕は侵入する。僕の怒りを帯びた欲望が、彼女の体を更に傷付けた。

その彼女を、妹と呼ぶにはあまりにも切なく欲していた。

近所に住む、一つ下の女の子。大学に上がる頃には、その感情はもう「恋」と呼んでいいものだった。

ショートカットに、そばかす。化粧気のない、白い素肌。

僕が社会人になった時、妹を失う覚悟で、僕は彼女に恋心を告白した。

「いいよ。」
随分と長い沈黙の後、彼女は微笑んだ。

「いいの?僕で?」
「うん。嬉しい。」
その笑顔は、本物だった。

僕は手を伸ばすと、指でそっと彼女の頬に触れた。その瞬間、彼女はわずかに顔をそらす。

「ごめん。」
僕は、慌てた。

「違うの。私のせい。」

生まれたての恋人同士はお互いに戸惑っていた。

それが始まりだった。苦しみの。

--

彼女は、どうしても肉体の触れ合いを受け入れることができなかった。泣いている彼女を抱き締めることはできる。夕暮れの街を手を繋いで歩くことはできる。だけど、僕の指が、彼女の奥を探ろうとすると、途端に彼女は身をこわばらせて苦悩に顔を歪めるのだった。

その事について、僕らは何時間も話し合い解決方法を探った。幼い頃、彼女の心に傷を残すような出来事があったのか?もしかしたら、本当は僕を好きではないのではないか?だが、どれも答えはNO。

いつも一緒だった。

周囲も認める恋だった。

お似合いの一対だった。

だが、こんなにも苦しんでいる僕らがいた。

体が欲望に燃える時、彼女を恨み、嫉妬に苦しんだ。彼女を遠ざけることもあった。そんな僕に、彼女は何度も泣いてしがみついてきた。僕らは夜の数を数えて過ごした。

「ねえ。他に好きな人、作っていいんだよ。」
いつもの話し合いに疲れて、彼女がそんなことを言う日もあった。

でも、そんなことは無理。きみとの歳月だけが、今や僕にとって意味のあるものだったから。

--

その出来事が起こるまでは、それでも、まだ、僕らは優しい恋人同士だった。

夜、携帯の電話が突然鳴った。

「ねえ。お願い。助けて。今すぐ。」
彼女の泣きじゃくる声に、僕は慌てて部屋を飛び出した。

彼女の部屋に着いた時、なぜか鍵は閉まっていて、僕は合鍵で部屋を開けた。

「いるの?」
返事は、ない。ただ、彼女がすすり泣く声が響く。

「どうしたの?」
不安にかられた僕の前に現われた彼女は、乱れた髪。剥き出しの腕と脚。頼りなげに巻いた毛布。

「ごめんね。」
「誰にされたの?」
「会社の男の子。送って来てくれたの。すぐ帰ってもらおうと思ったけど。無理矢理入って来て。それからはよく覚えてないの。」
「馬鹿な・・・。」

彼女の、略奪者に奪われた体は、そこに血を流して震えていた。

その血の赤を見た時、何かが噴き出してしまった。それは怒り。

僕は、泣いた彼女の傷口に手を伸ばし、そこに更に指を差し込む。彼女が自分を隠して覆った手を無理矢理振りほどき、僕は侵入する。僕の怒りを帯びた欲望が、彼女の体を更に傷付けた。

抵抗することもできない彼女の青ざめた顔は途方もなく美しい。そうだ。僕はずっと腹を立てていたのだ。彼女にではなく、運命に。

--

彼女は、短かった髪を伸ばし始めた。化粧をするようになった。もう、彼女の何かが壊れてしまった。僕が壊してしまったのだ。

彼女は、酒を飲んで、客の相手をする。

僕は、少し離れたテーブルで、毎夜、酒を煽る。

「ねえ。いい加減にしときなさいよ。」
ママが、僕に口先だけの忠告する。

「あと一杯だけ。」
「しょうがないわねえ。」

高価なスーツに身を包んだ日焼けした男が立ち上がるのを見送った後、彼女は、そっとママのほうに目配せをして、店の奥に入って行く。

今夜はあの男が相手か。

「あたしも一杯いただくわ。」
ママが、見るに見かねて、僕の傍に腰を下ろす。ママだけが僕らの事情を知っていて、こんなストーカーまがいの男にも優しくしてくれる。

今日も随分酔ってしまった。
「ねえ。ママ。こんなこと言うと、彼女嫌がるだろうけど。もしさ。僕に何かあって、こうやって彼女を見ててやれなくなった、ママ、彼女のこと頼むよ。」

「何言ってんのよ。」
あきれたように、ママは笑う。

「あの子も、そう言うのよ。ママ、私に何かあったらあの人のこと見ててあげてって。嫌ねえ。あんた達のほうがずっと若いのに。何かあるなら、私が一番でしょうに。」
ママは、わざとふてくされた顔で、グラスを煽る。

つまらない家族ゲームを演じているような気分で、僕はそこに座っている。

僕と彼女が本当に兄妹だったらどんなに良かったか。

いや。僕らは本当に呪われた兄妹なのかもしれない。愛し合ってはいけない一対を、神様は、なぜこうやって巡り合わせてしまったのだろうと、今夜も出ない答を求めて、問い続ける。


DiaryINDEXpastwill
ドール3号  表紙  memo  MAIL  My追加
エンピツ