セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2001年11月21日(水) |
会いたい、と思うには、僕達は会い過ぎだった。好きだと、思うには、僕達は抱き合い過ぎだった。 |
庭にいたカタツムリを拾って、ガラスコップに入れた。
ゆっくり這い上がるのを見ていた。
そうやって、何時間も、じっとカタツムリと遊んで、日曜の午後は終わってしまった。
夜、彼女からの電話。
「ねえ。今日、何してたの?」 「別に、何も。」 「え?うそ。ずっと家にいたの?」 「うん。」 「ひどーい。会えないって言うから、てっきり忙しいのかと思ってたよ。」
そう。忙しかった。カタツムリを眺めるのに忙しかった。
--
彼女は、怒っている。
「あなたが、このところ私と会いたがらないから、私もあなたの迷惑になっちゃいけないと思って、我慢してたのに。」 と。
会いたい、と思うには、僕達は会い過ぎだった。 好きだと、思うには、僕達は抱き合い過ぎだった。
でも、そういうことって、多分、僕は彼女にうまく言えない。
ひっきりなしにお笑い番組で笑って、ひっきりなしに年末に向けてのクリスマス・ソングで切なくなって、ひっきりなしに子供や動物が出てくるドキュメンタリーで泣いて、ひっきりなしに「好きよ」と抱きついてくる。そんな彼女は可愛いと思っていたけれど。
--
「ねえ。カタツムリは、本当は雨が嫌いなんだって。」 僕は、言う。
「え?そうなの?」 「うん。雨が降ってね、体が水に濡れちゃうと息をするところがつまっちゃうから、雨が降ると、高いところに登って息ができるようにするんだって。」 「へえ。全然知らなかった。雨が好きなのかと思ってたわ。」
そう。カタツムリは、雨が好きじゃない。僕だって独りは好きじゃない。だけど、息ができなくなるから。
「僕達、しばらく会わないでおこう。」
彼女の涙は、雨のように僕を息苦しくさせた。
--
それから、平穏な日々。
ひっきりなしの電話から解放され、日曜日は誰に言い訳する必要もなく家でのんびりと過ごせる。
だけど。
あれ?
今日は、何月だっけ?
そう。この間までは、彼女が僕に季節を運んでくれた。
急に、僕は自分の居場所が分からなくなる。
--
電話のベルが鳴る。
「やっぱり、電話しちゃった。」 彼女の声。
「おいでよ。」 と、僕。ワインを用意して待っておくから。
久しぶりに訪れた彼女を、僕は出迎える。
「ねえ。どうしてた?」 彼女が、聞く。 「何も。時は、あんまりにもゆっくり進んでいて、実際、僕は止まったままみたいだった。」 「早くしよう。」 「ん?」 彼女は、恥ずかしそうに、僕の手を引いて、ベッドまで誘う。相変わらず、せっかちだ。
「お腹空いてないの?」 「ペコペコよ。」 彼女は、笑って、僕の唇を、耳たぶを、齧る。 「ずっとお腹空かせてたのよ。」 僕は、みるみるうちに、食べられる。僕も、彼女に入り込む。暖かい体の中で、僕は、ようやく、深く大きな呼吸ができるようになった。
僕は、生まれ変わったら、カタツムリになりたい。 カタツムリ速度で歩いてくれる誰かと一緒にゆっくり歩きたい。
ずっとそう思っていた。
でも、本当は、多分、僕は大空を飛ぶ鳥に憧れる。そうして、ぼーっと空を見上げていると、あっという間に鳥に食べられちゃうんだろう。
って、分かった。
|