セクサロイドは眠らない
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2001年10月20日(土) |
ね。一緒に。彼女が、そうささやいた気がして、私は、こらえきれずに、抑えていたものを。 |
その屋敷に主治医として招かれた時、私は、まだ若く経験の浅い医者だった。その屋敷の主人は白髪で悲しそうな顔をしていて、孫とも思える年齢の若い妻と暮らしていた。
「きにみには、妻の主治医になって欲しいのだ。」 「分かりました。」 「実は、妻は、二度ほど流産していてね。ちょっとおかしくなってしまったのだよ。」 「と言いますと?お体のほうが?」 「いや。ちょっとこっちをね。」 主人は、人差し指で頭のほうを差すと、窓から、若い妻が花を摘んでいる姿を悲しそうに見つめていた。
美しい。少女のような明るい笑顔で、花と戯れている。
「きみは、妻の心の病のほうにも付き合わされると思うが、大丈夫かな?」 「どうでしょうか。自信がありませんね。で、どんな風に病んでいるのですか?」 「そのうち、分かるさ。」
主人は、その白髪と、悲しそうな顔のせいで老けて見えるだけで、本当はずっと若いのかもしれない、と私は思った。
「ねえ。あなた、お花飾りましょうね。」 主人の若い妻が部屋に飛びこんで来る。
「あら、お客さま?」 「ああ。お前の体を見てくれるお医者さんだよ。」 「そうなの?よろしくね。」
彼女は、花瓶に、花を一輪一輪。目は澄んでいて、とても病んでいるとは思えない。
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「ねえ。お医者さま。」 「何でしょうか?」 「あなた、主人から、私がおかしいって聞いてるでしょう?」 「いえ。」 「いいの。隠さなくても。本当におかしいんだもの。」 「でも、私にはどこも悪いようには見えませんが?」 「そう?」 「ええ。」 「主人は、ね。もう長くはないの。あと、半年くらいって言われてるわ。」 「そうだったんですか。」 「ねえ。私、夫を愛しているわ。どうしようもなく。」 「それが自然な気持ちです。」 「自然かしら?」 「ええ。」 「ところで。ねえ。どうして男の人って、時々やりきれないことがあるとお酒に溺れるのかしらねえ?」 「そうですね。束の間、楽しい気分になりたいからでしょう。だけど、その後、もっと辛く なるんで、また飲んでしまう。そうやって際限なく繰り返してしまう。」 「よくご存知ね。」 「お酒を飲まれるのですか?」 「いいえ。前の主治医がお酒飲むようになって、ね。それで主人が首にしたの。あなた、お酒は?」 「あまり飲みません。」 「それがいいわ。」
彼女は、微笑んで私をじっと見つめる。
「ね。あとで、部屋にいらして。診察してくださる?」 「はい。」 私はかすれた声で答える。
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彼女は、ゆっくり服を脱ぐ。僕の目を見ない。うっとりとした表情でベッドに横たわる。
「早く。早く。ねえ。お願いよ。」 うわ言のように。
何を?何を急いでいるのか?
「もう、あまり時間がないの。」 「時間?」 「ええ。あと少しで終わってしまうのよ。」 「何が?」 「愛することのできる時間。生を感じることのできる時間。」 「きみは、まだ、若くて健康で、先にはたくさんの時間が待っているのに?」 「いいえ。もう、おしまい。それに、私、子供を生むことができなかったもの。子供が生めなかった女に、一体どんな未来が残されていて?」
彼女の腕が絡みつく。私はその腕を振りほどけない。私は狂ったように、彼女の白い胸に口づける。彼女の肌は、私がそっと撫でただけで震え、愛らしい吐息をもらす。
「早く、入って来てちょうだい。」 悲しそうに懇願する。
もう、抑えきれない勢いが、体内から私を突き上げて来て、それは一生懸命彼女の中に入ろうとする。
「こうしていないと、死んでしまうわ。」 彼女は、泣き出しそうにつぶやく。
ね。一緒に。
彼女が、そうささやいた気がして、私は、こらえきれずに、抑えていたものを放出してしまう。
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「最近、酒量が増えたんじゃないか?」 主人が私に言う。
「分かりますか?」 「ああ。分かるとも。どうして酒量が増えたかも。」 「すみません。」 「なに。いいさ。」 「知っているのですね?」 「ああ。私は、もう後少ししか命がない。あれの、生を受けとめてやる力もない。だから、きみがあれのそばにいてくれると助かるよ。それに・・・。」 「それに?」 「子供が生まれて来なくて良かった。お陰で、私は、あれの心を独占できた。」
分かっていますとも。あなたが、それでも、そんなに穏やかな顔をしていられる理由も。そして、私が酒を飲まずにいられない理由も。
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そう。
ある朝、屋敷の主人は静かに息を引き取る。
私がそれを告げると、彼女は、無言でうなずき、部屋に入って内側から鍵を掛ける。
あらかじめ頼まれて渡してあった薬を、彼女は今ごろ飲んでいるのだろうか。
そうして、私は?共にそちらに行ける程、愛されていなかった私は、どうすれば?
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