「静かな大地」を遠く離れて
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佐々木譲さん、直木賞受賞おめでとうございます。 芥川賞の該当作なし、の会見は池澤夏樹さんの担当でした。このニアミスは、僕に 2006年秋の帯広でのお二人の対談の、あの幸福な記憶を想起させてくれました。
佐々木さんの小説は、もちろん着眼点のシャープさ、構成や描写の技術の確かさに 裏打ちされた、読者を裏切らない完成度が約束されているのですが、何よりも人間 を見る佐々木さんご自身の眼が澄んでいること、それが信頼につながっています。 今回の受賞は遅すぎたと思いますが、多数の読者の声なき声の集積だと信じます。
「静かな大地を遠く離れて」では、2001年以来『武揚伝』に言及してきました。 『武揚伝』にもらったものは日本の近代黎明期への視角の大転換だけではありません。 「ありえたはずの、もうひとつの未来」を想うこと、心の中に持つことは、必ずしも いつも思い通りになるとは言えないことが多い人生の中で、とても力になっています。 ヒトに潜在する未来は良きものとも悪しきものとも決定されてはいない、今ここでの 人格的参加こそが、未だ非決定な未来を地上に現出させて行くのだ、そんな想いです。
アムステルダムの海軍博物館で買った小さなガラスの地球儀が今も部屋で光っています。 あのオランダ滞在に新刊のハードカバーを抱えて行った至福に、最大の感謝を込めて。
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