「静かな大地」を遠く離れて
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講談社選書メチエがいい。殊に山崎比呂志さんという編集者の方の手がけた本はツボにハマる。できれば この本に最近の研究成果も添えて一般向けにリライトして出版してもらえないものだろうか。
■内藤みどり『西突厥史の研究』(早稲田大学出版部 1988) 古代トルコ人が6〜8世紀にかけて中央アジアのほぼ全域を支配し、中国人によって西突厥と 呼ばれていた時代を検証する。中国・東ローマ・イスラム史料等を博捜した本格的研究。
どっちにしてもネット上のツブヤキにすぎないのだが、著者の内藤みどりさんという方にいきなり一般向け の本を書いて欲しいとお願いしても困るだけだろうし、青木健『ゾロアスター教』のように、一見とっつき にくそうに見えるテーマを読みやすくて面白い本にすることにかけて山崎さんが抜きん出た仕事をなさって いるという印象を強くしているからだ。最近の玉木俊明『近代ヨーロッパの誕生 オランダからイギリスへ』 も今読んでいるところだが、すばらしい。数年前から新書というジャンルがおかしなものになってしまって (それはそれで楽しんでいるのだが)元来の「わかりやすくて知的体力の増進に役立つ」という機能を喪失 してしまった今では、講談社選書メチエ、とりわけ山崎比呂志さんが担当されたものを楽しみにしている。
■栗本慎一郎『シルクロードの経済人類学 日本とキルギスを繋ぐ文化の謎』(東京農大出版会)より 皇家の動きが複雑で、領域も影響も錯綜していた西突厥の歴史を詳しく確定することは、今日の学問的 成果をすべて動員してもほとんど不可能に等しい。けれども、もし関心があるなら世界最高の研究書が 日本にはある。中国のものだけでなく、フランスの権威シャバンヌをはじめとした西側の史料もすべて 検討して書き上げられた内藤みどり氏の『西突厥史の研究』(早稲田大学出版部 一九八八)である。ただ、 唯一、カザールとの関係がほとんど検討されていないのが残念だが、それは仕方がない。
栗本さんも上のようにおっしゃっているが続けて「この最高の研究書においても、相当の予備知識がないと 一般の読者には記述の主要点がわからないという問題は発生しうる。」と書かれている。第一、版元品切れ、 近場の図書館にもない。アマゾンでは古書に途方もない高値がついている。・・・ということは潜在需要が あるということでもある。天馬空を駆ける式の栗本師の著書に魅了されつつ、もっと着実かつ読みやすい本 で近年注目されるユーラシアの歴史に分け入りたい、という読者は多いに違いない。唐代の中国史と西域と の関係は人気のあるテーマだし、この古代の騎馬民族の歴史が、どこかで澁谷由里『馬賊で見る「満洲」』 と呼応しないとも限らない。優れた研究者の成果を広く一般の読書人に伝える良い仕事になると思う。
えーと、あとほかに、「ジョルダーノ・ブルーノ 多元宇宙の幻視者」「受肉論 キリスト教の根源を繙く」 「牧志朝忠と島津斉彬 幕末インテリジェンス戦争」「徳川宗春 尾張ピクチャレスク事始」「ローウェル 明治と火星とボストニアン」「はじめての暗黙知 マイケル・ポランニーと人格的知」「日蓮 法華経で 読み解く日本近代の難問」「榎本武揚 もうひとつの明治」・・・なんてのもよろしくお願いします♪
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