「静かな大地」を遠く離れて
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2001年09月08日(土) |
フィクション、劇画、動画 |
題:87話 鮭が来る川27 画:シロツメグサ 話:学校より鮭漁を選んだ三郎
歴史上にままある 「文化的二重生活者」の幸福と悲劇。 三郎は幼いままに、その隘路に入り込んでしまった人だろう。
異文化との間を行き来する資質と経験を得てしまったものは、 両文化圏の間の状況次第では人生に大きなアドバンテージを 持つケースもある。 史上、多くの留学生は、己の栄達や自文化への貢献の大望を 胸に抱いて国境を越えた。 一方で、ひとたび風向きが変化して両文化圏の間の友好関係が 決裂すると、その谷間に落ち込んでしまう運命を強いられる。 第二次大戦時に、日系アメリカ人の方々の辿られた道を思うと その念を強くせざるをえない。
アイヌと和人の歴史を描いたフィクションで、以前にも触れた 船戸与一『蝦夷地別件』(新潮文庫)や北方謙三『林蔵の貌』 (集英社文庫)、また佐々木譲『五稜郭残党伝』(集英社文庫) にも、それぞれに、そうした一瞬の幸福と引き替えの苛酷な運命 に翻弄される人物たちが造形されている。 この分野で忘れてはイケナイのが、山口昌男先生もご執心の劇画、 手塚治虫御大の野心的傑作『シュマリ』だろう。 (数年前に角川文庫で再刊されたけど、最近書店で見かけない。 けど手塚作品は講談社の手塚治虫全集に入ってるので、是非♪) 以下、文庫版の惹句を引用。
明治初頭、北海道の原野を流浪う一人の男が いた。シュマリと名のるこの男は、箱館で藩 士を殺め追われていた。妻と別れ自暴自棄に なり囚われの身となった彼は、榎本武揚が隠 匿した莫大な軍用金の探索を命じられる。 一方、エゾ共和国建設を夢みる太財一族は埋 蔵金目あてに娘お峯を接近させるが、彼女は いつしかシュマリに心ひかれていった。 別れた妻、女たち、土地人・・・厳しい北の 自然の中で展開する壮大な愛のドラマ!!
山口昌男先生は劇画通で、同郷の安彦良和氏とも“盟友”の ようです。満州国を舞台にした『虹色のトロツキー』の時は 解説文を書いたりしてましたし、札幌で文化的オルガナイザー 活動を始められてからは、安彦さんを講演に呼んだりもして いるようです。 僕の世代はファースト・ガンダムの作画で名を知る安彦良和 さんですが、最近は劇画の仕事をされていて、そのものズバリ 北海道の明治期を舞台にした『王道の狗』↓が刊行中です。
http://www.kodansha.co.jp/mismaga/oudouno_inu.htm
僕は何を隠そう、アニメに関しては相当に詳しいのです(笑) ただし80年代前半のことですが。数年間に渡ってアニメ誌 全誌(と主要作品のムック類)に隈なく目を通してました(^^; なのでキャスト(声優さん)、スタッフとも、当時から活躍 していた人に関しては、結構マイナーな人でもわかります。 当時の“教祖”的存在は、安彦さんのパートナー、ガンダム を創った男・富野喜幸氏(<当時の表記はこうだったっけ)。 彼の思想、世界観の作り方、もの言い(富野ゼリフね 笑)、 すべてに渡って影響を受けていたと思います。
その後、アニメ界からは一旦完全に遠ざかってしまいました。 思えば“動画”としての「アニメーション」に関心があった のではなく、“SFファン亜種”的な思想系アニメ・ファン だったのでしょう。数ある雑誌でも、『アニメック』が好き でしたし(笑) 『風の谷のナウシカ』、『劇場用マクロス』あたりを最後に 現役を引退して、ミーハーにも現代思想、ニュー・アカ系に 走りました(^^;
僕が現役の頃“思想系”富野氏に対比して言えば“動画職人” という感じだった宮崎駿氏が今「こんなこと」になっている とは思いもしませんでした。 『千と千尋の神隠し』の公開に伴って、バスに乗り遅れるな、 とばかりに各雑誌がムックを刊行し、しかもインテリ総参戦 という感じが、妙に居心地が悪かったり(笑)
ああいう仕事は、切通理作さんみたいになかなか日の目を見る ことのない地道な論客が(<失礼! 大いに敬意を込めてです) コツコツとやればいい仕事。なんて言ってたら、ここでも話題 にしていた『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)、売れてる みたいですね。よかったですね、切通さん!(^^) 次は『ちゅらさん』研究本でも書いて欲しいです(笑) 『怪獣使いと少年』(宝島社文庫)や『日本風景論』(春秋社) なんかもスゴクおもしろくて生真面目な本ですから、未読の方 は是非お読み下さい。切通さんのサイトは↓ここ。
http://www.gont.net/risaku/hitokoto_index.htm
で、きょう仕事が進まないのと、ちょっと気鬱なこともあって 遅い午後からサボりモードに入って映画館に行きました。 一応やっと夏休みも終わったけど、『千と千尋の神隠し』を 上映中の週末の映画館へ行くという、勇敢な試み。 昔『おもひでぽろぽろ』に行って、お子さま方のあまりの ウルサさに閉口して以来、ジブリ作品はタイミングを 間違うと危険だ、と悟っていたにもかかわらず。
幸い『もののけ姫』の時より、さらに予備知識なしで見たので 妙に作り手の目線に入らずに作品として面白がれてよかった。 動画の魅力も実に『未来少年コナン』以来、という感じの爆発 の仕方だし、背景の建物のディティールなんかもフェチ心を そそる出来映え。何より「説教より身体を動かす」って感じが 悪くない。いや、宮崎さんの説教したいことはちゃんと透けて 見えるんだけど、そのことと本芸のアニメーション職人ぶりが 一応の調和を見ている、ということで言えば、実は久しぶりの ことではないか、と思ったりする。
ま、『未来少年コナン』や『カリオストロの城』を見てた時 みたいに夢中になりたい、というのは自分の側の年齢的なもの とか、ものの見方の変化を考えると、“ないものねだり”に なってしまうので、それは望んでも詮無きことだろう(^^; あれだけ客席の一体感を作れる「演出家&作家」も、いまの 日本にそう何人もはいないわけで、大したものだと思う。
これでやっと切通さんの新書が読めるぞ!…と思ったんだけど、 さてさて問題がひとつ。 著しく偏った“超アニメ通”の私、実は『となりのトトロ』を 一回も見たことがないのです、人生のタイミングの問題で(^^; 当時「ナウシカとラピュタの次が、これかよ?」的な、反感を かの庵野秀明氏も抱かれたやに、どこかで読んだ気がしますが 僕も人生で最も頭デッカチだったころ、『トトロ』を見そこねて 現在に至っています。 うむ、本が先か、DVDが先か…っていうか仕事しなきゃ、 とりあえず今夜は寝よ(^^; #また切通さんの本をはじめ、論考を読んで何か書きたくなったら 頭デッカチな宮崎駿論めいたものを書くかもしれません。
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