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白濁

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2003年12月07日(日)    10年前の人

受験生だった私は、具合が悪いといって、
学校を休んだ。
サボり癖が発動しただけだったかもしれない。

熱もあったので、念のため病院にいったら
おたふく風邪のようだから、と医者に言われた。
おたふくはすでにしていたけれど、
医者がそういうのなら学校にはいけない。

身体は少しだるかったけど、精神的には元気だった。
正々堂々と学校を休めるせいかもしれない。

祖母が、胃が悪い、とかで入院していて
私がいった病院は違う病院だったけれど
なんとなくそれを思い出し、
見舞いに行きたい、と、母に言った。

貴女も病人なんだから、家で大人しくしてなさい。
元気になったら連れていくから。

そんな事を言われた。
おたふくだったら、他のコにうつってしまうから、
そんな事も言われたかもしれない。

でも行きたい。まだ一度もお見舞いいってないもん。
おばあちゃんに会いたい。

そう言って、無理に連れていってもらった気がする。

病院で、祖母は寝ていて、
首に管が埋め込まれていた。

薄く目を開けて、私を見てくれただろうか。
今では思い出せない。
ただ、私は、祖母の手を握り、
白髪の伸びた頭を撫で、
話し掛けた。

髪、伸びてるから切らないとね

そんな事を言った。

また来るからね、とも言った。

祖母は、人工呼吸機のせいで、何も答えなかったけれど、
笑っていたと思う。

帰りの車の中で、母が言った。

首に管入れてたでしょ、あんな姿、見せたくなかった。

それまで見舞いに行かせてくれなかった、
それがその理由だとわかった。

でも、元気になったら外せるよね?
また話せるよね。

子供の、希望的問いに、母は答えなかった。
微笑みは、泣き顔に似ていた。


家に帰ると、母は用事があると出ていった。
仕事の準備だったのか、なんなのかわからない。

夕方、家の電話がなった。
夕方というには、まだ早い時間だったかもしれない。

受話器をあげる。
その向こうで、母は泣いていた。

おばあちゃんがね……

嗚咽を抑えながら話す、
その内容は、
祖母が危篤
と、いうこと。

今迎えに行くから、
家を出る準備をしていて
と、いうこと。

妹は、まだ学校から帰っていなかった。
母が学校に電話をかけられる状態ではなかったので
私がその役を買って出る。

学校に電話をかけて、母の迎えの車に乗り、
妹を学校で拾って、病院へ急ぐ。

昼会った時は、元気だった、とは言えないが、
そんな状態には見えなかった。
信じられなかった。

車内に、会話はなかった。

ただ、
生きて。
そう、願った。

病院へ着くと、叔父や叔母など、親戚が集っていた。
小さい頃から、私や妹と仲のよかった従姉弟もいた。

まだ、祖母の脈はあった。

妹が祖母の手を握り、
おばーちゃん、おばーちゃん、
と、何度も呼んだ。

私も、祖母の手に触れた。
小さく、呼び掛けた。


テレビで、よく見る、脈の状態を示す機械が、
命の灯火が消えるのを表そうとしてた。


医者が言った。

御臨終です。


妹が、泣いた。母も泣いていた。従姉妹も泣いていた。
私は、泣くものか、と思った。

叔母が、
まだあったかいよ、生きてるみたいだよ、触っておきなさい
そう言った。

私は、触らなかった。
ただ、涙が溢れそうになるのを、堪えていた。



涙を堪えたのは、
祖母の死を否定しようとしていたから。

祖母の身体に触れなかったのは、
祖母ではなくなってしまった祖母に
触れたくなかったから。

最後に、祖母にもう1度呼び掛けたかった。
それが出来なかったのは、
もう祖母がそれに答えてはくれない
その現実を知るのが怖かったから。


否定、且つ、肯定。


頭の中にはぐるぐると
妹の嗚咽と泣き声だけが響いた。



 10年前に時を止めた人よ
 私は、今でもまだ、
 何処かで貴女に会えそうな気がするのです。






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