白濁 mail home bbs | 2002年05月24日(金) 樹木と天使 樹木と天使 どんなに頑張っても 僕からは彼女のより綺麗な言葉は産まれてはこなかった。 何故なら彼女は天使だったからだ。 甘い声で囁いて 僕をいつも酔わせてくれた。 呑めないアルコォルは、必要なかったね。 彼女は夜の天使だった。 月明かりがなくて不安な夜には 声で抱き締めてくれた。 甘美な囁きは浮遊感を伴う。 前後不覚の闇夜でも シリウスを見付けて それに向って飛べる気がしたんだ。 彼女の唇から生み出される音に 僕はいつも包まれていた。 だけど僕は気付かなかった。 そこに愛があることを。 多分、知ろうとしなかった。 そこにある愛の意味を。 安らぎ励まし慰め 無条件無報酬で与えられる天使の慈愛を 僕はときに、微温湯だと感じてさえいた。 あるとき 天使は僕の前から姿を消した。 それは突然であり、必然であった。 夜空を見上げて シリウスを見付けた。 だけど僕は飛べなかった。 僕は天使ではなかった。 僕の背中に、羽根はなかった。 どうして僕に翼はくれなかったの? あんなに愛をくれたのに。 どうして僕の手をとって 大空へ連れていってくれなかったの? そんなに愛してくれたなら。 僕は天使を責めるのか? 欲するものを欲するときに与えられる喜び それを与える悦びを 彼女から奪ったというのに! 僕は彼女が与えてくれたものを 彼女に与えてあげられなかった。 最後まで綺麗な言葉で 彼女は消えてしまった。 それを享受できなかったのは 他でもない僕なのに。 僕は飛べなかった。 僕は天使ではなかった。 俯いて足下を見ると 僕の足は大地を踏み締めて 幽かに根をはっていた。 泣いてはいけなかった。 この場所は僕のいる場所。 そう望んだのは 僕じゃないか。 そう示してくれたのは 彼女だったじゃないか。 勢いをつけて振りかぶる 月もシリウスも 滲んで見ることができなかった。 だけど僕は知っている。 君が教えてくれたこと。 涙を拭いたら 名前も知らない小さな星ですら 僕を見てくれていること。 さよなら僕の天使。 君がまた僕の前に現れて それが例え人間の姿をしていたとしても 僕はきっと 君を見つけられるだろう。 最愛のお友達へ かえがたい友情をこめて |