新世紀余話
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2006年11月16日(木) マッカーサー発言「日本の戦争は自存自衛の戦争」

マッカーサーが「日本の戦争は防衛戦争だった」と議会で証言……疑いもなくこれは、歴史修正主義者がいいふらす嘘の中でもっとも愚劣なものだろう。
あの長大な議会演説の中で、「日本の戦争に侵略の意図はなく、自存自衛が目的だった」と明言した箇所があったら教えてほしいものだ。

多くのネット右翼が「まさに、そういう意味だ」と引用してくる例の発言部分だが、これは要するに、共産中国への対応策を議会で説明するとき、かつての対日戦略を例に引いたもの。
「安全上の必要に迫られた戦争(in going to war was largely dictated by security.)」とは、日本の侵略意図を否定したのではなく、かつて禁輸など日本を孤立させるやり方で威嚇し、皇軍を太平洋におびき出して撃破した例をあげ、彼の構想する対中戦略を議会で納得してもらうためなのだ。

中国を包囲網で締め上げれば、経済的に息詰まって、政権が倒れるか、昔の日本のように自滅的な外征に出てくる」と言おうとしたのである。

だが、そんな例えを悪意のこもった口調でするわけにいかない。大戦中は「ジャップ」でも、この頃の日本はすでに敵国どころか、アジアでの反共闘争の前進基地として協調すべき相手だった。
だから「日本の労働力は、数も質も、どこよりも優秀」とか、友邦として非常に神経を使った言い方をされているが、軍国日本の侵略を弁護する意図からでは断じてなかったのだ。

マッカーサーは顕示欲が強く、大統領選への立候補さえ狙っていた男。それが議会演説で、多数の米兵の命を代償に打ち負かしたファシズム国家が「自存自衛の必要」からアメリカと戦ったなどと、世論を憤激させることを言うはずがないではないか。

だから、マッカーサー発言での「安全上の必要(largely dictated by security)」というのは、そうした、日本をことさら敵対的な言葉で傷つけないよう配慮する云い方だったのを、「場の空気が読めない」ネット右翼らがその部分だけ引用しまくり、都合のよい解釈でぬか悦びしているにすぎないのだ。

繰り返すが、このときの日本は、連合軍から徹底的に叩きのめされたうえ、東京裁判で洗礼も授かり、アメリカの言うことをきく従順な国になっていた。
なにしろ、マッカーサー自身が統治政策で日本をそのように改造したのだから!

だから、あの部分の真意は、「手を焼かせる野良犬がいただろ? 根はいい奴だし、盗むのも餓死しないためだろうが、野放しにはできないので食い物にありつけなくしたら、たまらなくなって、叩かれるために出てきた」というのとおなじ。
今度は、中共という野犬を同じようにやっつけ、飼い馴らしてやれという含みなのだ。

「マッカーサーが日本の正しさを認めた」などと、おめでたい解釈があてはまる状況とはぜんぜん違うのである。


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