日常些細事
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何気に入った本屋をぶらぶらしていたら、書棚に塩野七生のコーナーがあった。 この作家の作品はほとんど読んでいる。男っぽいのだがユーモアがあり、それでいて女性の鋭い観察力に満ちた文章を書く人である。 なかでも10年以上前から延々と刊行されている『ローマ人の物語』はこの人の代表作になるだろう一連で、私も第1巻の『ローマは1日にしてならず』から欠かさず購入しているのだ。 書棚には、くだんの『ローマ人の物語』がずらりと並んでいた。各巻ハードカバーでかなりの厚みがあるから壮観である。 その最後に置かれていたのが第12巻『迷走する帝国』。 「ん?これ持ってたっけ」 第11巻の『終わりの始まり』は確かに購入しているのだが、『迷走する〜』というタイトルには記憶が無い。 「ということは新刊だなっ」 私は本を鷲掴みするとレジに走った。本好きにとって、好きな作家の新しい作品を読めるということほど幸せはないのだ。 急いで帰宅。他の用事を放り出してさっそく本を開く。んもう、わくわくである。 内容は3世紀のローマ。今でも浴場に名を残すカラカラ帝の時代の話だ。 だが読み進むにつれ、私は重大な事実に気がついた。 「これ、読んだことある・・・」 そして恐る恐る本棚を改めてみると、 あった。 もう1冊、同じ本があった。 しかもブックカバーまで同じ。 気がつかないうちに、同じ本を同じ本屋で買っていたのである。 ううむ。なんたることであろうか。 本の奥付を見ると発行日は2003年12月15日になっている。多分そのころ買って読んだのだろうが、すっかり忘れていた。 私はキッチンに立ってコーヒーを淹れると、椅子に腰掛けて静かにカップを傾けた。 「歳月は人の記憶を曖昧にするものだな。ふふふ」 と一応カッコつけてはみたけれど、1年足らず前のことをまるっきり憶えてないなんて、ちょっとヤバイなあ。本格的にボケてきたかしら。しくしく。
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