『悪魔の花嫁』の秋田文庫版の解説を、塩沢兼人さんが書いているのを見つけました。 エリ8とは直接関係があるようでないような内容ですが、なかなか興味深かったのでここに抜粋ですがご紹介。 -------------------------------------------------------------------- ※『悪魔の花嫁』とは? 『悪魔の花嫁』 あしべゆうほ・原作池田悦 秋田文庫 作者は細川御代・青池御代・中山御代と並ぶ秋田四大御代の一人、あしべゆうほ。1975年プリンセスで連載開始。連載開始30年以上たつがいまだに完結していない未完の大作。一説では原作者の池田悦と折り合いが悪く、もう続きはでないらしいとのこと。嫉妬、羨望、疑惑、欲といった人間の闇の部分を暴くホラータッチなストーリーに、オカルトチックな美しい絵で今も人気が高い。シリアスで人間の内面をえぐる内容が高く評価されている一方で、一部ではあるが、主人公のデイモスの神出鬼没なコスプレヤーぶりに格好のネタキャラ性を見出し、偏愛する人も数多く生息するといわれている。 近年では続きが出ないうっぷんからか、ガラスの仮面・王家の紋章・エロイカと並ぶネタ漫画としての地位も固めつつある。 またあしべゆうほは、これまたいっこうに続きがでない未完の長編作「クリスタル☆ドラゴン」をかかえており、他の大御所漫画家が連載を投げ打って新興宗教に走るのを見るにつけ、この先生も神の世界にいってしまうのでは・・・とファンの間では心配されて久しい。 -------------------------------------------------------------------- 『悪魔の花嫁』11巻 巻末解説より 秋田書店 平成9年8月10日初版 僕が『悪魔の花嫁』のイメージアルバムでデイモスの声をやらせて頂いてから、もう十四年になります。 台本をもらい、コミックスであしべ先生のデイモスの絵を初めて見た時は、「おっ、いい役じゃん」と得した気分になったことをよく覚えています。 思い起こせば、その頃の僕は、「戦国魔人ゴーショーグン」のブンドル役や「未来警察ウラシマン」のルードビッヒ役といった、それまでにはなかったテレビアニメのいわゆる「ちょっと変わった美形キャラクター」の役が何作か続いていた時で、このテイモス役も、ちょうど同時期に頂いた仕事ではなかっただろうかと思います。 今回、文庫版の<解説>という依頼を頂き、改めて当時のレコードを聞き直してみた。なにせ、十四年も前のこと。そういえば、この頃はまだCDではなく、LPレコードの時代だったのだなと、なんだか隔世の感というようなものを抱きながら、聞いた。 率直に正直な感想をいってしまうと、「今ならあんなに動揺したデイモスをつくらなかったなぁ、ちょっと必死するぎるかも」と自ら苦笑してしまった。もっとも、美奈子を演じた相手役の伊藤かずえさんがハイティーンだったということもあって、若く情熱的なデイモスになってしまったのかなとも思うのだが・・・。(中略) 長く大きなドラマがじっくりと描かれているテレビシリーズはともかくとして、台詞も少なく断片的なシーンでストーリーがつづられていく単発の作品で声を演じるとき、僕がいつも第一に考えることは、作品全体の雰囲気をどう作るか、また、そのなかに自分らしさを残しながらもどう溶け込むかということ。 当たり前といえば当たり前のことなのだが、これがなかなか難しい、特に原作がある売には、原作の築き上げてきたイメージを壊してはいけないと思うから。 そんな時、僕はいた抱いたキャラクターに自分なりの<色>をひとつつけて、その<色>を基本モチーフとして役作りをしたりすることがあります。(中略) ずいぶん昔のことなのに、イメージアルバムで、デイモスの声を僕がやったということを今でも覚ええいてくれる人が多い。それはとても幸運なことだと思うと同時に、やはり『悪魔の花嫁』という原作の持つ底力の凄さだと思います。 もし、テレビでアニメ化され、シリーズになっていたら、デイモス役をやってみたかったなとも思う。いや、もしかしたら、これからあるかもしれない。その時はまた、是非、彼、デイモスに巡りあいたい。 そして、今度演じる時は、もっと大人のデイモスを、あえて作り上げてみたいと思うのです。 ------------------------------------------------------------------------- 今度演じる時が、けして来ないのが悲しい。 塩沢兼人 2000年5月10日死去。享年46。ちーん。 この文章はご本人が直接書いたものでしょうか。それともインタビューをライターさんがおこしたものでしょうか、それとも本人の記述を編集部でまとめたのかわかりませんが、ご本人が書いたものだったらいいな。職業作家でない人が書いた巻末解説はえらい読みにくいものが多かったりするのですが、こちらはそんなこともなく、まあまあ読みやすかったです。 本の出版が平成9年になっているので、たぶん悪魔の花嫁のイメージアルバムが出たのは、1983年ごろでしょうか。 本人もおっしゃられているように、塩沢兼人っていうと、ちょっと変わった美形キャラクターのイメージはありますね。私の中でも塩沢兼人=ちょっと偏執的or変質的な美形というイメージがあります。 なんとなく自分的には 塩沢兼人・・・変質的な美形 井上真樹夫・・・アウトローな美形 森功至・・・誠実そうな美形 野沢那智・・・影のある美形 井上和彦・・・王子様風な美形 神谷明・・・正義感が強そうな美形 市川治・・・古風な美形 なイメージがあります。 ちなみに私は、キートン山田や安原義人のニヒルな役の人が好きでした。赤レンジャーより青レンジャー、伊集院少尉より鬼島軍曹、フェルゼンよりアラン、島村ジョーより004です。でもエリ8だけはミッキーではなく、シン・カザマです。よろしく。 塩沢さんがデイモス役というのはわからないでもありませんが、(美形だし、偏執的だし)相手役が伊藤かずえってところが凄いですね。時代を反映したキャスティングです。後ろでイソップが懸垂していそうで、ネタみたいなキャスティングですね。大映ドラマかいな。 「悪魔の花嫁」は子どものころ、怖い漫画として有名なので、私も読んだことがあります。でも小学生にはちょっと難しいかったかなぁ。よくわからない話も多かったように思います。神話から時代劇まで、変幻自在に時空を飛び越えるので、ついてくのが大変でした。一番わからなかったのが、この話は毎回毎回人が死ぬのだけれど、次の回になると、ヒロイン美奈子は何事もなかったかのように普通に生活している、この感覚がわからなかった。普通に生活しているのはなにも美奈子だけではなくて、まわりにいる級友も何事もなかったようにこれまで通りの生活をしており、前回までのことがまるでなかったことにされているのが、どうにもこうにも理解できなかった。とにかく時間の経過がヘン。いくらショートショートといえども、この時間と空間の不連続性に、ミステリーは好きだけれど、大のファンタジー嫌い・神話嫌いのわたくしはついていくことはできませんでした。なんで美奈子は警察で容疑者として尋問されないんだ?警察は何をやっているんだ?このへんが子どもっぽくつっかっかってしまって、世界に入り込むことができませんでした。体が全身でファンタジーは拒絶するようです。高階良子やわたなべまさこは大好きなんですけどね。 今回この記事を書くために読んでみたけれど、子どものころわからなかった話も今ならなんなくわかりますね。一つ一つのお話もまとまりよく、高品質なお話ばかりです。ただ連続して読んでいると、1日24時間1年365日有限の時を生きている私は、あいかわらずこの話全体に横たわる時間と空間の縦横無尽っぷりに、体が千歳飴のようにねじくれそうになり、平衡感覚を失ってしまいますが。 むしろデイモスが毎回毎回凄い衣装で唐突に登場するのがおかしかったです。いったいこの人は毎回毎回その奇天烈な衣装をどっから手に入れてくるのか。そう思うと、なるほどこの漫画はネタ漫画としては最高ランクなのかもしれないと思うようになりました。 たぶん「悪魔の花嫁」は誰しも子どものころ、一度は読んだことがあるとは思うのですが、今見ると、デイモスがネタキャラとしていい味を出しているのに気づくと思うので、みなさんも改めて読んでみてください。 と、これ以上書くと、黒い羽が飛んできそうなのでやめておきます。 (少女漫画は信者が怖い。少女漫画レビューが書いていて一番気をつかうんだ) 黒い羽が飛んこられちゃ困るんで、話題を戻すと、塩沢氏が原作つきの役を演じる場合、“原作のイメージを壊さないように”という姿勢でいるところが大変興味深かったです。 原作信者というのは、とかく注文が多くて五月蝿いものですが、(たとえばこのページの制作者など)中でも少女漫画においては、原作は神聖にて汚すべからざる存在で、絶対視される傾向があり、映像化は少年青年漫画以上の困難がともなうものです。まあ、漫画の解説なので、原作をヨイショしなければならないスタンスにいるせいもあってそう書かざるを得ないのでしょうが、それでも、原作を大切にして役作りをしているという姿勢に、大変よい印象を持ちました。私は所詮漫画好きなので、やはり声優さんが、原作を大切にしようしてくれると嬉しいものです。 作品全体の雰囲気を作る、原作のイメージを大切にする、その中で自分らしさを残す、これはいかにも優等生的な模範解答ではありますが、ご本人もおっしゃっている通り、実際にそれを実行することは難しいことでありましょう。言うは易し、行うは難しです。そんなときの塩沢流の役作りの秘策は<色>をつけることだそうです。塩沢兼人曰く、デイモスのイメージは<蒼>だそうです。こんなところで役作りの秘策がきけるとは、嬉しい限りです。 エリ8はその内容からどうしても解説は軍事ジャーナリストさん担当になってしまうのだけど、メディアファクトリー文庫の解説は、どうせだったら塩沢さんに書いてもらいたかったなーと、これを見ていて、ちょっと思ってしまいました。軍事ジャーナリストさんによる解説は他にもあるだろうし、塩沢さんならどんな解説を書いただろうか?とそんなことが気になりました。時期的にはちょうど鬼籍入りする直前ぐらいになるのでしょうか。もしかしたら、死後発行ぐらいになってしまうかも。 そんな文書が残されていたら、声優・塩沢兼人を知る資料として、貴重なものになったのではないかと思われてなりません。 ◇追記 この記事に関して、たくさんのメールをいただきました。 これは塩沢さんご本人が書いたのではなく、インタビューをもとに別の方が文を書いたそうです。情報の提供ありがとうござました。
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